間 役割
【視点なし】
「…」
男は部下を引き連れて森の中を走り抜けていた。
魔物に気づかれないようルートを選び、時には木を蹴り上げて空中を飛んでいく。
「…隊長」
その後ろから、一人の男が声をかけた。
この隊の副隊長、そして男にとって最も頼りにしてきた相手。
だが、その声はらしくない不安が込もっていた。
「…本当に、良いんですか?あんな得体の知れないガキにお嬢様を預けてしまって」
「…俺にも分からないが。アイツを見れば、分かるだろ」
奴の息子。隊に配属された直後から、お嬢様と呼ばれていたあの少女を痛めつけて追い回し笑っていた男。
だが、今は違う。
まるで人形のように何も喋らず、何の感情も見せず、痛みにすら無反応。
それをやったのは例の少年だ。
「……まるで心を見透かされているような気分だった。あの少年の基準は、少し複雑だ」
「…どういうことです」
「敵の中でも、和解できる相手と絶対に許さない相手を定めて、しかも許さない相手に対しては一切の容赦をしない」
一度目の接敵時、部隊の隊員の症状は大まかに二つに分けられた。
多大な精神ダメージを負った者。
立ち上がることすら出来ない者。
両者の違いは、攻撃に殺意があったかどうか。
秀は殺意を持っていた相手に、より過酷な精神攻撃を仕掛けていたのだ。
だからこそ、男は理解していた。
「…いつでも殺せる、とでも考えていたと」
「それどころか、今の奴のように操り人形にでも何にでも出来たのだろう。こちらが交渉に乗らなければ全員操り人形だ」
川を飛び越え、空中を走りながら。
副隊長は恐怖で顔を歪めた。
「…今の俺たちは、操られてませんよね」
「操られてはいない。が、操られているな」
洗脳も、支配もされていない。
だが、その実行動は完全に少年に縛られている。
「こんな物を貰った時点で、俺達は断れない立場になった」
男は右腕を見つめた。
淡く光る刻印のような何か。
「あの少年、奴の親を自分の敵として認定した。……あの子は、間違いなく守られる」
少なくとも、それでいい。
そして、こちらの役目は単純。
「あの少年達の事は包み隠さず伝える。そして、光印をお嬢様の母上に渡す」
「…信用は」
「お嬢様の件に、感情を見せた。倫理観を捨て去っているが……感情的だ。大丈夫だ」
ただひたすらに己の職務に忠実に。
男達は森を駆け抜けていった。




