22.【黒秋秀】の【力】
【視点なし】
少女が彼の足に縋りついたその時。
即座に彼は唱えた。
「――【有は無に。無は有に。魂宿りし無形。無形にこそ魂宿りて】」
その一言で周囲の巨木の根が持ち上がり、まるで意思を持ったかのように少女を追っていた黒ずくめの人間達を足止めした。
「…!何だ!?」
黒秋秀。
彼は人間である。
特殊な力を持ってはいるが、しかしそれ以外の点においては普通の人間とほとんど相違ない。
「…この状況でどっちが悪いかなんて一目瞭然だな」
「それはそうだろ。どうする?俺がやるか?」
「いや…」
秀が二の句を次ぐ前に小刀が飛んできていた。
周囲で暴れる根を巧みに避け、心臓を狙い確実に息の根を止めるであろうそれを、
「危ねえ」
白川蓮は、素手で弾き飛ばした。
「助かった」
「いやいや、防がなくても平気だっただろ」
「俺はお前のようにズルの塊みてえな体してないんでね。当たれば致命傷だ」
「でも死なねえだろ?俺からすればそっちの方がよっぽどズルだと思うけどな」
「…どんだけ俺の力がズルだったとしても俺は不死身じゃねえんだわ」
暴れる根。
それらを気に留めず、秀は言葉を続ける。
黒秋秀の扱う力の本質は【事象の把握】と【事象の調和】にある。
移動時に利用した風を起こす力は、一定範囲内の気圧、風圧、条件を偏らせる事で発動させた。
結界も同様であり、一部の地点への影響を限りなくゼロにし、他の部分へその影響を分割する事で調和を保つ。
「――【捕えろ】」
だが、もう一つの力は違う。
理不尽で、暴力的で、自然界から逸脱している。
発した言葉で事象を起こし、事象を捻じ曲げ、そして事象を否定する。
「さすが」
木の根が、枝が、縦横無尽に暴れ回り男達を締め上げる。
「…カレン達に伝えてきてくれ」
「了解」
言葉は、結果に影響を及ぼす。
発した言葉が現実に影響する。
言葉に霊的な力が乗り、発する事で現実に起こる。
それは意図的に起こす事はできない。
だが、自由では無い。
すなわち。
「【言霊】、か。よく言ったもんだな」
定理に縛られた力。
定理を否定する力。
黒秋秀は、この二つの矛盾した力を内包している。
「…あー、面倒くさ」
それが、黒秋秀という人間の力であった。




