15.自称普通の高校生 【鈴森奈々】
【鈴森奈々】
「…ということで私だけこっち来たんだけど」
「ああ、そうなのか。悪かったな」
「これどゆこと?」
今の状況確認ついでに秀に話しかける。
「…ぅ」
秀の足元にしがみついているボロボロの格好をした子供。
7…8歳くらいの女子っぽい。
黄色と橙色の中間ぐらいの瞳と髪の色。
現実にはあり得ない組み合わせにここが異世界であるという実感を持たせられる。
が、それはそれとして。
少女は泣いている。
そして怯えている。
うん、
「犯罪臭がする」
「俺は無罪だ」
秀が悪人顔で無いから良かったものの、一歩間違えば誘拐犯と可哀想な子供にしか見えないだろう。
「…」
しゃがみ込んで少女と視線を合わせてから挨拶をする。
「こんにちは」
「…?」
しかし、首を傾げられるだけだった。
「…こいつ、耳聞こえてねえっぽい」
「それって…」
これだけボロボロの格好で。
耳が聞こえてない。
「都合いいから、眠らせてやって。俺もこの状態続けられても困るし」
言葉を続ける前に秀に遮られた。
言うな、ということだろうか。
「了解」
静かに少女の目を見つめる。
「ごめんね?少し眠ってて――」
一度、右目を閉じた後もう一度目を開け――
紅色に染まったであろう右の瞳を少女に見せる。
「…?」
「おやすみ」
座り込んでしまう前に受け止め、抱き上げる。
肩のあたりから静かな寝息が聞こえる。
「…それで、こいつらどうするの?」
周りに木の根や枝に捕縛された黒づくめの人間たちがいた。
吊るされていたり、そのまま地面に転がされていたり。
枝が全員の口にも巻き付いており、血が噴き出すほど強固に縛られている。
さらに言えば、取り落としたらしき短刀が何本か転がっている。
碌な奴らではないことは見れば分かる。
「どうする…か。記憶を読むだけで許してやるよ」
「…やっぱり根底は変わらないね。秀に普通の高校生は無理」
「阿保か。俺ら五人の中だと俺が一番まともだ」
「…もうそれでいいよ」
少女を抱きかかえてカレン達の方へ歩き出す。
秀が見えなくなったあたりで一度振り返る。
「…」
少女はしばらくは目覚めない。
だから、少しだけ物思いにふけってもいいだろう。
『記憶を読むだけ』
それが、どれだけ恐ろしいことか。
秀は普通のことのように言っていたが。
読む側も。
読まれる側も。
互いに苦痛にむしばまれる――忌避されるような手段。
「…やっぱり――
異常な奴ほど、自覚が無いね」
声にならない悲鳴…いや、絶叫に背を向けて歩く。
きっと、結界のおかげで外に聞こえることはないのだろう。