11.自称普通の高校生 【黒秋秀】
【黒秋秀】
「これでよし、と」
フラフラと縛られた足を支点に揺れる男子高校生を眺め、一人で満足する。
初めてやったにしては上手くいったのではないだろうか。
血流阻害しないように、でも落ちないように。
成功した。
『うわあ…』
「引くのやめてくれね?あと、蓮お前も手伝っただろ」
「いやあ、改めて見るとな…。引くわ」
「…それもそうだな」
蓮が言う通り、高校生がひっくり返って吊るされてる光景はなかなかの物だった。
「んでさ、秀」
「何?」
「堂々と使ったわね?」
「…あー、ね。それについてちと話したい所だけども。移動しながらにしようぜ」
カレンの咎めるような視線から目を逸らして答え、歩き出す。
「…仕方ない。移動しながらでいいから今話しなさい」
「えー…面倒」
「あ?」
低い声と共に肩を掴まれ、無理矢理カレンと顔を合わせられる。
その顔は怒りではなく、完全な無表情となっている事が余計に恐怖を掻き立てる。
「あ、ごめん悪かったからその顔やめて?普通に怖えんだわ。ちゃんと話すから許してください」
「…じゃあ早速」
「ん?」
カレンではなく、奈々から質問が飛ぶ。
「…こっちの世界で寝てた原因、アレ使ったから?」
「…何のことだか」
速攻でバレた。
やっぱり、もう少し出し渋るべきだったかもしれない。
「あ?」
「ギブギブ。待って、弁解させてくれ」
「何を?」
「確かに使ったけど、仕方なかったからさ。こっちの世界来て一番に目覚めたから速攻で偽装かけたんだよ。何があるか分からなかっただろ?」
偽装、と言うと少し違うかもしれない。
正確には方向情報を乱して特定地点への到達を妨害しただけであって偽装というほど立派なものではない。
「まあそれは理解したけど。俺らは普通の人間として振る舞うって話じゃなかったのか?」
「…そうなんだけどなあ。ここ、異世界だろ?」
現実世界では絶対にバレないようにと配慮し続けた。
「魔法、あるんだろ?」
だが、こちらの世界には超常現象がある。
ならば。
「帰った時に誰が俺らの力の事バラそうとしたとしての話だけど。前提として『俺たち異世界から帰ってきたんだ』って戯言誰が信じる?」
「それは…」
「誰も信じねえだろ」
さらに言えば、異世界に行ったと戯言を信じたとして。
今まで普通に過ごしてきた俺たちが不思議な力を持っていると言ったところで頭がおかしいとしか思われない。
「それに、拘り過ぎれば俺が死ぬ」
「てめえそれが本音だろ」
とはいえ、クラスメイト達がこちらを探している。
移動方法を工夫するべきか。
「とりあえず移動速度上げるぞ。転ばねえように注意しろ。
――【高を低に。低を高に。傾斜せし秤の安定。安定の秤は傾斜せず】」
さあ、加速させようか。
不定期になってしまいまして申し訳ございません。
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興味のある方は是非。
渡世の調停者
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