クビになったけど、私は元気です
私は今、目が覚めて、バイトをクビになったところだった。
昨夜、泣き疲れて寝ている間にバイト先から着信があった。
「そうだ! シフト!」
無断欠勤してしまったことに気付いて、慌てて電話したところ、謝るも何も、クビだし誰もお前に会いたくないから二度と来るなと言われて今に至る。
「…最悪」
まさか自分がそんなことをしてしまうなんて。クビにされて当然だ。
(リーダーものすごい怒ってたし、あの店長が二度と来るなって言うなんて、やっぱりすごく迷惑かけちゃったんだ…)
クビということは、今日のシフトも無しだろう。
せめて何かできることをしようと、先輩の着替えを用意することにした。
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「あぁ、三守さん。お疲れ様。さっそく持ってきてくれたの? 気を遣わせてすまないね」
病院に行くと、売店帰りの伯父さんと受付で出くわした。
「こんにちは。いえ、暇ですから。ちょうどよかった、着替えひとまず三セットを持ってきました」
「あぁ、助かるよ、ありがとう。ん? 病室には行かないの?」
二度と連絡してくるなよ。
彼に言われた言葉と、クビになりたての現状が頭に重くのしかかってきて、会いたいとは言えなかった。
「はい、連日では、迷惑かなと…」
「助かるって、昨日も言ったのに。残念だね、三守さんが来るかもしれないから、あいつシャワー浴びてたのに」
「えっ?」
「会ってってあげる? あぁ、本人には内緒ね」
「はい」
伯父さんに水を向けてもらい、病室の扉をノックした。
「はーい。 あっ三守さん? 来てくれたの」
昨日の今日で記憶が戻ったということは無いようだ。
私に笑顔を向けたことで、私はそう確信した。
「うん。適当に着替え持ってきたから、好みとかあったら教えてね。洗濯とかは平気? 嫌じゃなければしてくるけど…」
「えっ、ありがとう、いや、その、いいよいいよ、そんな。悪いし」
彼はそう言ったが、伯父さんはチャンスとばかりにベッド脇の紙袋を取り出した。
「そこまで頼んでいいのかな。もう捨てては買うしかないかと思っていたんだけど…」
「おじさん!」
(伯父さんは冷静な人だと思っていたけど、単にマイペースなのかも)
「私は全然いいですよ。というか、今までどうしてたんですか」
私はつい笑みがこぼれた。
「最初はね、病院に頼んだり、クリーニングに出したり。自分で洗濯したりもしたけど、どんどん溜めるようになっちゃってね」
「僕がシャワーの時とかにやるからいいよ!」
中学生か高校生くらいの子が、思春期に恥ずかしがっているように見えて新鮮だった。
「なるほど、素晴らしい自立心だ。じゃあ、下着は自分で洗濯して、他を頼んだら? 大きいものは干すのがまだ大変だし、生乾きになったら嫌だろう」
「う… 本当にイヤじゃない…?」
伯父さんに丸め込まれそうな彼が、こちらを見た。嫌なはずが無い。思わず笑顔が深まった。
「もちろん! 大した手間じゃないから、心配しないで」
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私はベッドの横にテーブルと椅子を寄せ、ベッドを起こした彼と話をした。
伯父さんは仕事が忙しいそうで、昼か夜にちらっと顔を出すことが多いそうだ。
病院の個室は清潔で広々としていたが、殺風景で、必要なものが必要なだけある様子が、彼の部屋に通じるものを感じた。
「きれいだね、病院の個室ってこんな風になってたんだ」
「うん、テレビも無いしすること無いけどね」
「そっか…」
(スマホは、確か伯父さんが預かってるんだっけ…やっと病室に移ったとこだから、下手に刺激を与えたくないのかも知れないけど…)
「それは、暇だね…」
「そう、だから、三守さんが来てくれると嬉しいよ」
「!」
(不意打ちで何てこと言うの…!)
以前の彼なら言わないようなことを急に放り込まれると、否応なくドキドキしてしまう。
「そっか、良かった、そしたら、何かあったら言ってね。音楽が聴きたいとか、漫画とか?」
「うーん、いいね、でも何がいいとか無いからなぁ。おすすめあったらって感じかな、それより」
彼が身体を傾けて私の方を見た。
「三守さんが毎日来てくれる方がいいな」
(うっ。かわいい)
少し恥ずかしそうに笑う彼が、引き続き心臓に悪かった。
「でも忙しい? 大学とか、バイトとか?」
「全然。大学はね、出なきゃいけない授業ってもうあんまり無いんだ。バイトも今、お休み中だから」
だから、記憶が戻るまでは。
「来るなって言われるまで来るよ」
「何で、言う訳ないじゃん。付き合ってるんでしょ?」
「うん。でもほんとに毎日来すぎて、やんなっちゃうかなって」
「全然! すげー嬉しいよ!」
私も嬉しい。
(神様…)
リハビリでも何でも付き合うし、何だって手伝うから、先輩が早く治りますように
めっちゃどうでもいいけど私はテレビがある個室に入院してたので、テレビは伯父さんが病院と相談してないないしてるだけです。