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クソみたいな馴れ初め

あれは大学の期末試験でのこと。

「試験を開始してください」


大教室で、等間隔に離された学生達のペンを走らせる音が響いた。

私はこの何とも言えない緊張感が苦手だった。


ふー。

とにかく書けることを書いた後は、誤字が無さそうなことだけ確認して、腕の疲れを感じながら顔を上げた。

一度書き終わった答えを見直しするなんて、そんな集中力は残っていなかった。


(…ん?)

犬飼先輩だ。この授業とってたんだ?


前の席に座る先輩が目に入っただけのはずだった。


先輩が袖から小さな紙を取り出す姿を見るまでは。


「……!」


ショックだった。

思わず、彼のフードを引っ張った。びくりと彼の肩が跳ねたが、それ以外の反応は無かった。


(どうしよう…)

現場を見たものの、声を上げるのは気が引けた。


ただ、このままにしておくのも気持ち悪かったので、方針が定まらないまま試験後に先輩を捕まえて、空き教室に連れ出した。


「先輩…見ちゃいましたけど、なんで、あんなこと」

「違う、ちょっと待って。俺じゃない」


(取り乱しながら無実を訴える姿って、こんなにもうさん臭いのか…)


ガッカリが強まった私は、やっぱり今からでも先生に言おうと考え直した。

彼は黙って教室を出ようとする私に追いすがった。


「待ってくれ!」

「はぁ… 不正行為は後期の単位がゼロになりますもんね。そんなに言うならどうして…」

「やってない! お願いだ、何でもするから、話を聞いてくれ」


何でも。


いつも堂々としている先輩の、信じられないような行動に続く見苦しい姿と、何でもという魅惑の言葉に、私は悪魔のような感情が沸き上がってきた。


「そしたら」


私より背が高いのに、今は床にへたりこんで私を見上げている先輩を見下ろした。

「私を恋人にして、お兄ちゃんの前でイチャイチャベタベタしてくれますか?」


-----


「は? 恋人… お兄ちゃん? どういうことだ? 俺を好きって言ってる訳じゃ、ないよな? 流石に」

「先輩、自分の好きな人にこんなこと言える訳ないじゃないですか」

私はそうやって、自分の気持ちをぶつけることから逃げた。こんなことを言ったやつが、好きって言っていい訳が無いとも思った。


「いや… でも、待って、本当にやってないんだ、何も」

「えぇ? やってないって言うけど、私は見たんですもん。何もしないでただ信じてって言われても無理ですよぉ」


そうやって始まったクソみたいな関係だった。


-----


伯父さんが送ってくれたおかげで、家まで歩いてすぐに着いた。


(まだ夕方だから、お兄ちゃんに会わないで済むかな…)

それは無駄な期待で、玄関で早速お兄ちゃんと出くわしてしまった。


「ふざけんなよ」


(あれ、いつもと違う)

出くわす度に不快な顔はしても、ゴミである私に話しかけてくることは無かったお兄ちゃんが、今日はいきなり怒りをぶつけてきた。


「カイトが入院してるって、黙ってただろ」

「え、違う、私も今日…」

「は? じゃあ何なの、仮にも付き合ってるのにずーーっと何も知らなかったの? それこそふざけてんだけど」


それについては反論できなかった。そもそもお兄ちゃんが私の話を聞くことは無いし、とにかく怖くて、いつも通り謝ることしかできなかった。


「ごめんなさい…」

「謝る気が無いのに謝るのは失礼だと思わない? で、病院教えろよ」

「いや、先輩の伯父さんに伝えていいか聞かないと…」

「は? 友達なんだから、病院くらい教えていいに決まってるじゃん。馬鹿だろ」

「あの、でも…」


口答えし続ける私に、お兄ちゃんのイライラが最高潮になっているのを感じた。

心臓がバクバクしながらも、言っていいのか悩んでいる所に、お兄ちゃんのスマホが鳴った。


着信だったことで、舌打ちをしながら画面をみたお兄ちゃんは、瞬間、通話を始めた。


「もしもし? はい、そうです、カイトの友達です。はい、はい…」


(伯父さんが友達にも電話で知らせ始めたのかも知れない)

何となく漏れ聞こえる声や、お兄ちゃんの様子から、私は電話の相手を想像した。


その間に、私は入ったばかりの自宅から飛び出した。


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