右見て!!!左から!!! 読むという事。
帰宅してもいいかな?
私は決まり事で、身動きが取れない。サラリーマン・ジョージ。いや、ただのサラリーマン喜久雄。何の仕事をしているかって。知らねえ。パンの耳をロバにやる仕事だ、別に、飼育員ではない。暇だからやっているだけだ。本業は電話番だ。もちろん自分仕様の。缶コーヒーを片手に新聞をもう一方の手のひらを回しひらりと、世の中をスルーする。探偵業というのは、そういうものだと仕込んだのは、おやじだ。おやじよー。まじめにやっているよ。食っていけねえけど。かみさんには、相変わらず。まじめに働くように言われているよ。母さんにも。おやじが言ったようにやると、ひんしゅく買うのは、なんでだろうな。尊敬してますよ。精神的に結構強かったんだな。政治家先生、並みではないが。残念ながら、小市民。私が新聞をスルーしようとしたら。ここからすぐ近くに、札束が、ばさばさ、落ちていたそうだ。そう書いてある。拾えるチャンスがあるなら、行くのだが。もう遅い。有象無象の人間たちがいるだろう。全国紙でも取り扱っている。まあ関係ねえ。ブラックコーヒーを決めていると。いてえい。紙飛行機が、こめかみに、当たった。突然の痛みに、イラっとした。なんだよ。007のパロディ並みに情けねえ。「ボンドガールの登場か?」辺りは静まりかえっている。何もなかったかのようだ。こめかみが痛い。我慢しながら、「しょうがねえな」丁寧に折られている、ようにも見える紙飛行機をばらす。中には「金をとりに来い。中条。」このご時世に、金をくれる、人がいるんだ。僕の周りは腐ってる、なんて思う人もいるかもしれない。私の周りの方がよっぽど、におうよ。スーパー、サワー味だし。年中、金に困ってるのを、知っていて、少しの金でも、馬車馬のごとく、私は、働く。うそーですー。それを知っている。伯父様。伯父には、二十代前半の、美しい、嫁さんがいる。あんな男のどこがいいのか?知らねえが・・・。一緒にいると楽しいらしい。まあ、一秒ごとに、遺産が手に入るのが近づく訳だから、楽しい嬉しい、だろうなとは思う。好きでないからこんなことを、思うのではなく、それしか、思いつかないからだ。俺には、男と女ことはよくわからん。自分のかみさんが、なんでプロポーズを受け入れてくれたのかもわからない。「おはようございます」髪型からして、堅物丸出しの、青年が部屋に入って、ソファーに正座しながら、「金をとりに来い。中条。」と書かれた紙を、じーっと見ている。「僕の給料」涙目になりながら、つぶやく。「ボーナスになるかもよ」俺は、力の入らないように息でささやく。「おまえ、行ってきて」数十秒の沈黙が横たわった。「僕が行っていいのですか?」「行きたいのか?」わかってはいる。青年は、中条家が好きだ。というか、伯父の嫁さんに会いたいのだろう。青年は顔を赤らめながら、「もちろんです」と手裏剣の青年こと、古谷みなと、私の身の回りの世話役、は言った。「じゃ電話しとくね」私は言った。「それはやめてください」みなと君は間髪入れずに、答えた。「何故だ?」私には理由が全くわからない。「驚かしたいんです」伯父を驚かすとどうなるか・・・あっ、お嫁さんの方ね、頑張るねえ。「みなと君、帰りに缶コーヒー四本買ってきて。ホワイトマウンテンね」「そんなに飲まない方がよいですよ。眠れなくなりますよ」眉間にうっすら皴を作りながら、心配そうに言ってくる。「良いんだ。今日は。仕事をひっくり返すつもりだから」古いブラウン管テレビのような声で言った。低いんだが、少し甲高い声ということだ。「僕、今日戻らなくていいですか?」怯えている。「戻って来いよ、缶コーヒーおいて、お前はいつも通りでいい。いつものやつではない。古いやつだよ」
「そんなのあるんですか?なんのことだかわかりません」
「まあ、地雷探しみたいなものだな。気にせずに、中条家に行ってこいよ」
「手伝いは必要ないのですか?」
「おう少し、自分だけでやりたいんだ。いいから行けよ。」
「やばい事なら。戦車呼びますよ。」なんかまじめな話。自分が躾けたとはいえ、やばいやつだな。
「戦車いらない、木と布でできた掃除道具が必要なだけだよ、巻き込むときは躊躇なく巻き込むから、大丈夫だ」全然大丈夫じゃないが・・・。
「わかりました。行ってきます」納得したようだ。やる気があるのかないのか解らない奴だ。だんだん、嬉しそうな顔になって、真夏の霧雨みたいな雰囲気だ。いつの間にか、古谷は消えていた。オッケー。結局、今やらないといけないことは、なくなってしまった。「ジョナサン」ここから一番近い空港のそばで、カレー屋を営んでいる男のニックネームだ。小さいころからの知り合いだ。ジョナサンという呼び名のことの詳しいことは聞いたらイケナイと親父からも、中条からも聞いている。彼を見る目を細める二人の兄弟の姿がそれぞれ思い出される。懐かしいな。もう三日も会っていないぜ。お互いの良さしか見つけられない時期の恋人同士じゃあるまいし。最後に会ったのはいつかな。いろいろな忙しいことはない私でも忘れてしまう期間。「どうでもいい」ひとり呟く。テンガロンハットで顔を隠し、ソファで寝ることにした。うつらうつら、していると、掃除のおばさんが入ってきた。
「あんた。まだ眠る時間じゃないよ」こういうことを簡単に言わせないために、顔を隠しているのにな、無視をする。
「あんたに、うちの息子を教えてやりたいね」
「ただの掃除のおばさんに、月に35万円も払ってくれる、会社があるか?」
「危ない仕事もやらせてるくせに、よく言うよ」
「掃除だけだろ」私は怒りながら言った。
「鞄を駅のロッカーにいれてきてくれ、とたまに頼むじゃないか。このテロリストが。ばばあをなめるんじゃないよ。重いし」
「キーカードって、そんなに重いんだ。ごめんね」
「どれだけ詰めてるんだい」
「おばちゃんの腕が一番よく知っている」
「捕まったら、この会社のあることないこと、しゃべるからね」
「隣のビルと、うちの建物の間を寝床にしている。猫の面倒、お願いね」私は四匹の猫を日に三度、食わせている。
「いやだね、わたしゃ、猫ほど嫌いなものはないんだ。いい迷惑だよ。食事と寝床さへ確保されていたら、あいつら自由じゃないか。この世界は何者にとっても、楽園ではないんだよ」
「よく言うよ。楽園を実現しようとして、変な思想家の集まりに出ているくせに、俺は知ってるよ。人生を知る我々が正義の争い勃発を進めようの話会」
「あんたも今に見といで、平等なんてないんだから、そういう世の中を作ってやる」
「なんだか怒りが収まらないんだな。限界が来るまでは、雇ってやるよ。」
「なんだか、なめられたもんだね」
「まあね、物好きというやつさ」
黙った、ばあさんが、テーブルの上に置いてある、死んだサンゴを触ろうとしている。丁寧に持ち上げる。
「これはどこで手に入れたんだね?」ばあさんが聞いてくる。
「浄水場の浄化装置の中だ」
「あんたの知り合いかい?」おばさんは聞く。
「何のことだかわからないが、今持ち上げてるんだから、あんたも相当な関係者だと思うぜ」決まった。
「いい迷惑だね。意味が解らなくなって、どんなことに疑問を持ったかわからなくなったよ」
「ありがと」
「床が汚れてきたね。水洗いしていいかい」
「水洗い?ワックスだろ」
「ワックスは高いんだよ」
「経費、十五万やってるだろう」
「なんだかわからないね」
突然部屋の中に、空気を感じた。
「このばあさんはダメだよ。あんたが雇うんだから仕方ないけどね」
背の高い、おばさん二号・・・。間違っても同類ではない。鳥の仲間。いつも飛行機で行かないと、えらく時間がかかるところ、ばっかりに行く。母親の友達。遠山のおばさんだ。
「こんな、ばあさんに、経費で十五万もやったら、孫のためとか言って、友達と温泉旅館で、芸者を呼ぶだけだよ」
「おいおい、掃除のおばさんは女だぜ。芸者って」
「権力に憑りつかれているものは、占いに精通した芸者、ずきって決まっているだろ」
「知らねえよ。いつの話だ」
「星ができるころだね」
私は落ちてきそうな天井を見上げながら、遠山のおばさんが来訪した意味を考える。
「で、何の用だ」
「言葉使いの相変わらず悪い男だね。用がないかもしれない」
「変なタイミングだから」
「全く予想できなかったってこと」
「その逆だ」
「なんだよ。おもしろくない」
「仕方ないだろ、中条の伯父が連絡をとろうとした日だよ。何でもありだって思うだろ」
「確かに、中条君か」遠山のおばさんは意味ありげな表情しながら、人差し指を、俺の鼻の中に突っ込んでくる。
「やめてくれ」
「何を?」
「論理的説明が必要だとは思えない。指だよ指。よく周りを見ろよ掃除のおばさんが、腹抱えて笑っているだろ」
「そんなクダラナイものを見るために、視野を広げたくないね。死にたいの?」
「何もないから、古いのの整頓をしたいんだ」
「血は争えないね」
「親父と俺のこと?」
「ふーん。そう簡単に教えられないね。恐ろしい人に口止めされているからね。それも血に関係か・・・」
「俺は何をすればいい?」
「毎日ここに来ること。時間に決まりはないよ。一日一度、十五分、最低。」
「ほーい」
「そんなに真剣な話じゃないよ」
「ほーい」
聞き耳を立ててたにきまってる、掃除のおばさんを睨みつけながら、遠山のおばさんは、出て行った。