第1話 序章
一番古い昆虫の化石は約3億7千万年前のものである。そこから推測すると昆虫が誕生したのは4億年程前になる。では私たちは?ホモサピエンスは20万年前に誕生したとされている。
もしかしたら過去には人型に進化した昆虫が文明社会を築いていたかもしれない。
これは1億年前の、地球かもしれない星であった、赤子だった頃に家族を壊されたとある者の呪いと復讐の運命をたどった物語。
新月の夜、里に危険を知らせる鐘の音が鳴り響いた。大人の男たちは農具やさすまたなどの得物を持って外にでる。
誰かが叫びながら走り回っている。里の長の屋敷が襲われたと。
屋敷は地獄と化していた。敵対していた別の里の者たちは暗殺を得意とする一族が治めていた。その中の精鋭が襲ってきたとみえ、初動が遅れたのだ。
しかし襲われた里の長の家も弱いわけではなかった。だから暗殺の里の攻撃が見張りをすり抜けても、夜で寝ていても、全体が気づくことができた。
体勢を立て直し、反撃する。まずは一番力の強い猛者の動きを止めた。猛者は畳に倒れた。
それでもやや暗殺の里が優勢のまま戦いは続いた。襲われた里の長も、自分の意思で直接戦うことになった。
長は歳を召した爺さんだったが、強かった。素手で武器を持った相手をなぎ倒し、的確な指示で離れた場所の敵を追い詰める。今度は襲われた里が優勢になり、暗殺の里はじりじりと後退してゆく。
暗殺の里の者たちは、あの猛者の倒れている場所で、四方を囲まれた。
長が言う。
ほんとうならここで捕らえ、情報を吐かせたあと死罪にするところだ。しかしお前たちもワシらも、もとは同族。情けをかける。ここで抵抗をやめれば捕らえるだけで痛い目にあわせない。
と。
暗殺の里の者たちは、一斉に同じ場所に向かって高く跳び、自分たちを囲んでいる者たちを越えるように跳んだ。
飛び越えられた者たちも長も、問答無用で暗殺の里の者たちを捕らえにかかった。あっという間に数人は逃げられない体にされた。
彼らが着地しようとした場所は、暗殺の里の者たちと長があの猛者を挟むような位置関係になる場所だった。
長がまっすぐ走って暗殺の里の者を捕まえるのに参加しようとしたとき。長の足首を猛者が掴んだ。そのまま反撃の時間も与えず長を敵に投げつける。
長も、投げつけられた敵も、履き物で潰されたゴキブリのようになった。
………
一般の家の男たちが屋敷に到着すると、長の家の者は壊滅状態だった。
隠れていて見つからなかった女や子供、外で見張りを続けていた者たちは無事だった。
長の孫の赤子……本家の子も助かった。助かったのは奇跡であった。とういうのは、隠していたその母は、自分たちは見つかったのに殺されなかったというのだ。
そしてなぜか、暗殺の里の者たちのほとんどが彼女らが隠れていた押し入れのある部屋で殺されていた。
これについて、母はこの赤子には奇跡を起こす力があると主張した。そしてその"奇跡"を起こした赤子は、母により、読み書きや四則演算の他に数秘術や占星術などの科学で説明できない分野の教育を徹底的に施された。
しかし奇跡の子はその教育に辟易した。
「なぜこんなことも覚えられないの!?」
母親はよくヒステリックになる。父親への復讐を、わたしに呪いでさせるつもりなんだろう。
「だって……こんなの信じられないよ……」
「信じられなくてもやるの!」
「もっと違うこと……生き物のこととか、薪がなんで燃えるかとかが知りたいのに」
突然視線が横にずれ、椅子から転げ落ちた。ほっぺがいたい。はたかれたんだ。
「お前なんかわたしの子じゃないわ!出ていきなさい!この役立たず!」
こんなことがいつもあった。
やがて奇跡の子は自分の納得できる技術や強さを求めるようになった。そして奇跡に固執する生みの親のかわりに、賢さと技術を教えてくれる育ての親を探すのだった。