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前編

 現代日本をベースにした設定になっています。

 日本じゃありえなくね? という違和感を覚えるときは、その点はこの作品だけのオリジナル設定なのですよーと、ゆるくスルーしていただけると嬉しいです。

 テーマはかくれんぼでしたが、ちょっとずれてしまった気がします……。

 しょっちゅう隠れてはいるんですけどね。

 こまけぇこたぁいいんだよ! の顔文字を思い浮かべながら、おおらかな心で読み進めていただけたら、有り難いです。


 


 だからさ、すっごい得意なんだよね……かくれんぼ。



 イケメンっていってもさ、いろいろなタイプがいるじゃん?

 俺はね、容姿端麗な馬鹿だった。

 ってーか、馬鹿になった。

 馬鹿だと、ある種の愛嬌が出るらしくてさ。

 本当にやばい奴らからは、ぎりぎりだけど、逃げられたからな。


 必死だったよ。

 だってさ。

 一番初めに感じたやばい相手が、実の姉だぜ?

 

 姉は一個上で、容姿は中の下か、下の上。

 俺と一緒にいるとさ、男女逆だったから良かったのにねぇ? とか両親にまで、耳にたこができるほど言われてたからさ。

 姉が歪むのは仕方なかったんじゃねーかな? とは思う。

 姉も被害者なんだって。


 でもよ?

 だからって、りょうま(あ、俺の名前ね。涼真って書くぜ)は、おねえちゃんのものだから! って、髪の毛をざくざく切られてさ。

 その髪の毛を目の前でたき火にぶっこむのはねーだろ?

 

 川辺で家族親戚一同揃ってBBQやってる最中だった。


 滅多に会えない親戚連中の中には、俺のことなんてーか、こう。

 愛玩動物みたいに見てる奴らが多くて、やたらと触ってくる。

 突然の抱っことか、正直さ。

 すっごく怖かった。


 だから俺は広いBBQ会場で必死に一人になるように行動してたんだ。

 大人はさて置き、子供が酷い。

 容赦なく、追い立ててくるんだよな。

 でも頑張って隠れたぜ。

 強制かくれんぼだ。

 川辺に隠れる場所はたくさんあった。

 川の中は息が続かなくて断念したけどな。

 木の上とか、意外にばれない。

 

 でもな、姉にはばれた。

 本当に何時も俺の心配ばっかりしてたから、その延長で他の奴らより俺を見つけるのが上手だったんだろうな。


 姉に呼ばれて、木の上から降りた途端の暴挙だった。


 ちなみに俺の頭は血まみれになったさ。

 BBQの下ごしらえで使った包丁が凶器だったからな。


 阿鼻叫喚の中で速攻病院へ連れていかれて、入院。

 そこまで重傷じゃなかったのに、何故か一ヶ月入院してた理由は、しばらくしてから聞いた。


 一つ、姉を精神病院に入れる手続きに時間がかかったから。

 一つ、看護婦の何人かが俺に執着して、入院期間を引き延ばしたから。


 当時俺、五歳。

 姉、六歳。


 突っ込みどころな理由過ぎて、もぅ、泣くしかない感じ?


 そうそう、姉が何で俺の髪の毛を切って、たき火に髪の毛を突っ込むなんて、不可解な真似をしでかしたか、その理由を精神科医が聞き出してくれたんだ。

 びっくりだぜ。

 まぁ、六歳とか年齢を考えたら、あーそういうこともあるんだーと、妙に納得したんだけどさ。

 あれな。

 おまじない。

 自分の好きな相手を独占できるおまじないを実行したんだって。


 大きくなってから調べたんだけど、たぶんこれかな? ってものを見つけた。

 少女漫画みたいな可愛いイラスト付きで書かれた本を、頑張って最初から最後まで読んだぜ?

 愛のおまじないブックって、タイトルだったかな。

 姉が実行したおまじないもあったし、もっとな……えげつないおまじないもたくさんあった。

 よく発禁にならないよなー、あれ。

 読み物として楽しむには、ダークな感じでいいのかもしれないんだけどさぁ。

 血の入ったクッキーとか、髪の毛の入ったマフィンとか、切った爪が入った一口ドーナツとか食べたくねぇよ!

 腹を壊しそうじゃね?


 もうね、五歳でも俺は思ったよ。

 誰も信じられないかもしれないって。


 たださぁ、姉は肉親じゃん?

 その事件までは、りょうくんりょうくんって俺を優しい声で呼んで、一歳しか違わないのに、俺の面倒を一生懸命みてくれる良い姉だったんだよ。

 幼稚園で女の子が俺を取り合ったり、男の子たちに虐められたりしたときだって、先生より先に飛んできて助けてくれたしな。

 両親が俺ばっかり可愛がったって、りょうくんはかわいいからとうぜんだよ! って、俺を恨むこともなかった。


 何よりさぁ。

 両親に抱かれて病院へ行くとき。

 血まみれで大泣きする俺を見た、姉の目。


 なんで、りょうくん、ないてるの?

 だれがなかしたの?


 って、いってたんだわ。


 たぶん、俺を傷つける気なんて全くなかったんだぜ。

 ただ、独占したかっただけで。

 おまじないのせいで、俺が大けがをするなんて想像もできなかった。

 本には、髪の毛を切り落とす過程の描写なんて書いてなかったしな。

 更に追い詰められていた当時の姉を思えば、同情の余地は多分にあった。


 だからこそ、この時点では、自分以外は信じられない! とは、ならなかったんだよ。


 あ、成人してから姉の行方を追ってみたんだけど、結婚して、子供までいたわ。

 子供は四人。

 なかなかの子沢山。

 遠目からこっそり見たんだけど、今の生活に満足しているように察せられたから、声はかけなかった。

 かけたら姉の人生を、また狂わせるような気がしたからな。

 俺が最後に見た姉より、五割増しは美人になってたのは、本当に嬉しかったんだ。

 それだけ、愛されて、幸せだって、証拠だろう?



 で、次は十歳のとき。

大好きだった彼女の、家族がしでかした。 

  

 十歳ぐらいだと同じイケメンなら頭が良い男より、スポーツが得意で活動的な男の方に軍配が上がるケースが多い。

 この頃の俺は、やたらと変質者に遭遇してたから、逃げ足を鍛えてたんだよ。

 かくれんぼが得意になったのも、この頃か。

 逃げ足だけじゃまずいって、自覚したんだわ。

 逃げ足&隠れスキルのコンボが最強だろうってさ。

 ゲームの影響もあったかな。

 変質者ってさ、何かこう、振り切れちゃってる奴らが多いんだよ。

 だから妙に勘が良かったり、足が鬼のように速かったりする。


 実際、捕まったこともあった。


 この変質者について語るだけで本が出せるレベルでいろんな体験したんだけど、今回は割愛。

 しかし、変質者って男女は関係ないのな。

 俺が遭遇した比率はほぼ同じだったわ。


 話がずれたけど、逃げ足を鍛えてた俺はかなり足が速くって、スポーツが得意って評価を得てた。

 で、容姿端麗。

 自分でいうのもこっ恥ずかしいんだけどな。

 ほら、その年齢にあった容姿端麗さってーのがあるじゃん?

 俺は常に年齢にあった容姿端麗さが維持できてた。

 できてた理由は主に両親な。

 金も愛情も時間もかけて、俺を磨いてくれてたよ。

 姉の件があったから、俺も両親が望む良い子でいようと、それなりの努力はしてたけどさ。


 まぁ、モテた。

 当時は皆の涼真君でいると男子の反感を買うので、誰か一人の涼真君でいた方が安全だったんだよ。

 スポーツに集中したいからとか、女の子に興味ないから! などと言った日には、身の危険を感じる怖さで女の子のアプローチが凄かったからな。

 侮るんじゃねーぞ?

 五歳の姉だって、あそこまでしでかした。

 十歳の女の子は、それ以上をしでかしかねなかったんだよ。


 どこかに隠れても探し当てる、あの執念。 

 しかも徒党を組んでやってくれる。

 隠れてるときに偶然拾った携帯に残ってた、グループチャットでのやり取り。

 どんなホラーだよ! って、思わず背筋が怖気立つストーカーが、複数人も鎮座してたんだわ。

 俺がどこにいるのか逐一報告されてたんだよ。

 トイレの時間とか、書き込むな!

 長かったから、大だったのかな? とか、おなかを壊してないといいねとか、メンタルを削られまくったわ……。


 で、選んだのが、学校で一番可愛くて頭の良い子だった。

 俺から告白したさ。

 いいよーって、軽く承諾されたときは、嬉しかったよ。

 そうだな。

 これで他の女の子に惑わされなくなるって気持ちよりも、単純に嬉しかった。

 可愛くて明るい子がそばにいるだけで、元気になれた。

 勉強も教わったぜ。

 デートもした。

 公園デートとか、今思い出しても甘酸っぱい。


 両親にも紹介した。

 俺の親がめちゃくちゃうるさかったからな。

 この年で両家公認とか、どうだよ? と思ったけど、どっちの両親も、小学生の可愛らしい恋愛……みたいな雰囲気で、温かく見守ってくれてた……くれてたと、思う。


 どこから、狂っちまったんだろうなぁ。


 きっかけはわからない。

 ただ、ある日、その子の家へ遊びに行ったとき。

 その子の母親の目線から、何故か隠れようとしてしまった、あのときだったのかもしれない。

 咄嗟に押し入れへ隠れようとしたんだから、よほどだったんだよな。

 それ以降も俺は、執念深くまとわりつく目線から、必死に隠れながら、彼女に会い続けたんだけど……さ。


 母親の俺を見る目が、娘の彼氏を見る目じゃなくて、一人の男を見る目になってたんだ。


 十歳の男の子に欲情とかあり得ないって思うか?

 うん。

 当時の俺も思ってた。

 だから、気がつかなかった。

 気がつかない、ふりをしていた。

 するべきじゃなかったと、後悔したときには既に手遅れだった。


 娘のベッドの上、娘の彼氏の服を剥いだ母親。

 涙目で声を上げながら、抵抗する俺が全裸にされたその瞬間。

 部屋に入ってきた娘とその父親。


 父親の目は驚愕に見開かれていた。

 娘の目は。

 頭が良くて、可愛くて、自慢の彼女だったその子の目は。

 母親を狂わせてしまった俺への、憎悪で満ち溢れていたんだよ……。


 父親はすぐ我に返り、母親を拘束してくれたので、俺はしゃくり上げながら服を着た。

 一人で帰れるかな? と聞かれて、頷いたよ。

 母親はまだ俺を求めて絶叫していたし、あの子は憎悪の眼差しを向けていたので、早く逃げたかったんだ。


 帰宅途中。

 今の状態で帰宅すると変質者に遭遇する予感しかなかったので、公園の遊具の中にひっそりと隠れて、涙が自然に止まるのを待ってから家へ戻った。


 帰宅すると両親が玄関で俺を待っていたよ。

 事情は聞いたから、風呂に入って御飯を食べたら早く就寝しなさいと、言われたのでその通りにしたな。

 睡眠薬でも入っていたのかもな。

 その夜は夢も見ないほどぐっすり眠ったよ。


 次の日、俺が学校に行っている間に話し合いが済んだらしい。

 結論だけ、聞かされた。

 両親も俺が変質者に執着される性質って、既にちゃんと理解してくれていたから、適切に対応してくれたと思う。

 あちらの両親は離婚。

 親権は父親。

 母親は一人実家(飛行機がないと厳しい距離)へ。 

 母親の両親がしっかり監視するという言葉を、俺の両親は信じたようだ。

 念書なども取っていたらしい。

 父親は娘を連れて実家へと引っ越しを決めたと。

 そう、聞かされたんだ……。


 家庭の事情で……と挨拶もなかった急な引っ越しに、クラスメイトたちは口を揃えて俺を慰めてくれたぜ。

 仲睦まじかったからな。

 転校して間もなく、彼女から一通の手紙が届いた。

 お気に入りの少女漫画雑誌を購入したときに付いていた、可愛い封筒に便せんで。

 中身は短かった。

 赤い文字で。

 手紙が所々破れるほどの筆圧で。

 ママを、返して。

 そう、書かれていた。


 俺が何をしたんだよ! って、大泣きしたさ。

 何が悪かったんだよ! って、吐くほど考えもしたぜ。

 で、でた結論は。

 少しでも違和感を覚えたときには、きちんと向き合おう、だったよ。



 成人後、その子も捜してみたら医学生になってた。

 当時の面影は微塵もなく、ひたすらクールな印象を受けたな。

 可愛いっていうより、美人さん。

 成績優秀で精神科医を目指しているって聞いて。

 母親の一件が彼女の人生を変えたんだなぁって、何とも表現しがたい切なさを覚えた。

 凄く迷ったけど、今の彼女なら大丈夫かな? と考えて、背後から彼女の背中をぽんって、叩いたんだ。


 訝しげに振り向かれた顔が、驚愕に固まったね。

 その驚いた顔は、あのときの、父親に似ていたけれど、その後の反応は違った。


「……あのときは、ごめんなさい……」


 涙目になった次の瞬間、直角に腰を折った謝罪をしてきたのだ。


「いやいや、俺こそ、ごめんな。人生、変えちまって」


「それはこっちの台詞よ! ……少し、話をする時間はあるかしら?」


「おう」


 涙目で俺を見上げてくる彼女の瞳に、あの頃の面影を僅かながらも見いだせた俺は、彼女について行った。

 ついた先はゼミ室で、この時間なら人は来ないから……と、彼女はコーヒーを入れてくれる。

 砂糖とミルクもつけてくれるので、喫茶店かよ! と突っ込みを入れてしまえば、彼女は、とても可愛らしく笑った。

 笑って、くれた。


「あのときは、本当にごめんなさい。貴方は何一つ悪くなかったのに、気持ち悪い手紙まで送って……」


「小学生なら、一般的な反応だろ? 謝るこたぁねーよ」


「貴方って、昔から優しかったわよね……医者を目指したのは、まぁ、母の一件があったからだけど、悪い選択じゃないと思っているから」


 真っ直ぐ俺を見てくる目には、覚悟が見える。

 きっと将来患者に慕われるような名医になるだろう。


「正直、前向きで男前な選択だなぁと思ったぜ」


「もぅ! ストレートねぇ、相変わらず。イケメンで困っちゃう」


「ははは。ありがとよ。杏奈あんなはクール系美人だよな。昔の可愛いのもすっごく魅力的だったけど」


「! 父以外の男性に杏奈って呼ばれたの、何年ぶりかしら……」


「クール系美女の需要は高いぜ? 特に医者ともなれば引く手あまただろうなぁ」


 俺のことがトラウマになっていたのだとしたら、是非とも前向きになってほしい。

 まぁ、今は勉強第一かもしれねぇがな。


「涼真は、どうなの?」 


「俺は変わらずのイケメンだけど、恋愛は……いいかなぁ……ってーか、駄目かなぁ」


「……もしかして、母みたい人が他にも?」


「んー、まー、そんな感じ?」


 杏奈のあとに、特大のがあったんだよ。

 思春期まっただ中に。


「私で良かったら、相談に乗るわよ」


「はははは、ありがとな。開業したら患者第一号になるぜ!」


「嬉しいような……嬉しくないような……」


「何にせよ、声かけて良かった。これからも元気で頑張れよ!」


「あ! 連絡先交換しない?」


 話を切り上げる俺に、慌てた様子でスマホが取り出された。

 今の彼女なら連絡先を交換しても大丈夫、かもしれない。

 けれど。


「ごめんなー。今、親とも連絡を絶ってんだ……開業したら、患者じゃなくても顔出しに行くからさ。ほんと、ごめんな。せっかく、言ってくれたのに」


 この先の彼女も大丈夫な、確信が持てないから。

 それ以上に、やばい理由があって。

 俺は連絡先交換を丁寧に断った。


「いろいろ、あるんだね?」


「わりぃな」


多くを語らなくても察してくれる優しさと頭の回転の良さは、本当に貴重だ。

 俺だって、友人や恋人が欲しい、けれど。

 今は、駄目だ。


 コーヒーを飲み干して、腰を上げる。


「何時になるかはわからねぇ、けど。またな!」


 爽やかに笑って手を振れば。


「うん! 頑張ってなるべく早い開業を目指すわ!」


 眦にうっすら涙を浮かべながらも、手を振り返してくれた。

 俺のせいで人生狂った相手が、前を向いて歩いているのが嬉しかった。


 姉も、彼女も。


 だが俺は駄目だ。

 前向きにはなれない。

 今もこうして、隠れながら逃げている。



 後編に続きます。

 一方的なBL描写がありますので、ご注意ください。

 後編は明日の23時投稿予定です。

 よろしければ引き続きお読みくださいませ。

 

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