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三題噺⑲髪の毛が欲しい男の話

作者: 嘆木鳩

その昔、頭に髪がなくて悩んでいた男がおったそうな。

最初から髪がなかったわけではないが、年をとるにつれて、東部の肌色の面積が徐々に増えていった。それを見て回りの村人も男のことを笑ったのだそうだ。男はそれが恥ずかしくてたまらなくなり、どうにかならないものかと考えた。

そんなおり、村に旅者がやってきて、男はこのような噂話。海で生活をしている者は、髪の毛が減ることはなく、むしろ髪の毛が生えてくるとかなんとか。男は山の中の村に住んでいたため、海というものがあることは知っているが、海というものを見たことがない。それでも、髪の毛をはやすことが出来るのであればと、村を飛び出して海へと向かったそうな。

何日もかけて山を歩き、いくつかの森を超え、男はようやく海へとたどり着いた。その広大な水に男は驚き感動までしたが、同時に男はここで困ってしまう。男は生まれてこの方、山での生活しかしてこなかった。そのため、海での生活というものをよくわかっていなかったのである。近くの村で聞いてもよかったが、この禿げた頭を他の村の物に見せるのは恥ずかしく、また海で生活したい理由を聞かれるかもしれないという考えが、男を村へと向かわせなかった。そんなことを考えていると、腹が減ってきた。髪の毛のことを槽に課したい気持ちはあるが、腹が減ってはどうにもならぬ。海の中にもきっと食べられる生き物はいるだろうと、男は海へと飛び込んだのだった。


男が村からいなくなって数か月が経った。男は村人に何も言わずに出て行ってしまったため、最初のころはちょっとした騒ぎになっていたが、そのころになると男の心配をする者はいなくなった。大方山で獣に食べられてしまったのだろうと思ったのだ。残念な話だが、それも自然の摂理であり、仕方のないことだと村のだれもが思った。

そんな折、一人の男が村を訪れた。その男は村のことをよく知っているような態度で村人に話しかけてくるが、村の者たちはこの男のことがとんとわからない。数か月前に村を出た男かと思ったが、髪の毛のようなものが生えているし、違うだろうと思ったのだ。しかし驚くべきことに、その男は、数か月前に村を出たものと同一人物だったのだ。髪が生えて戻ってきた男に村人は驚き、それ以降、男を禿げだと馬鹿にするものがいなくなった。

口には出さないものも、村の者がよくよく男を見てみると、何やら違和感がある。遠目に見たら髪の毛に見えたそれは、何やら毛ではないようなのだ。毛というよりは、草?そう、時折水辺に生えている苔のような?けれども、あんな長いものは見たことがないが…。それとも、海というものは、我々とは違う、変わった髪をはやしてくれるものがいるのかもしれない。村人たちはそのように納得したのだった。

 皆さんご存じ、男が頭に乗っけているのは、ワカメである。男は海で取れたコケやワカメでかつらを作ったのだが、山で育った者たちは、ワカメというものを知らなかったため、すっかり騙されてしまったのだ。(あるいは、気づいても言うのがかわいそうという気持ちもあり言わなかっただけかもしれないが。)


ワカメを食べると髪の毛が伸びるという話。はてさて、この村から出てきた話なのか否か、それはまぁ、語らなくてもいい話かと。


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