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第九話:ニセモノの魔王

【魔王二十五日目】


「魔王様……《魔の草原》に駐在しておりました我が軍が……全滅いたしました…………」


 うん、そうだね。僕もそれ見てたし。


「そして……勇者の手により……第一の《復活の根》も破壊……され、ました……」


 うん、それも見たから知ってる。


「落ち着いておられるのですね、魔王様……」


 まぁシュラウちゃんから言われて勝つことを諦めてるからね、いまさらどうなろうと僕はブレたりしないよ。

 というか、シュラウちゃんはかなり弱ってるみたいだね。

 あの《復活の根》ってそんなに大事なものだったの?


「あれは、我らにとって長く希望の象徴でしたので……。あれがある限り、いつしか地の下で眠る魔神様が目覚めてくれると信じていられました、生きていられました。もしかしたら、明日にでも我らをお救いくださると……」


 うーん、根っこが一つ無くなってもまだ五本あるじゃんと言いたいが、闇の種族にとってアレは絶対的な象徴だったということか。

 信じるものがあるからこそ、戦う意味があるからこそ生きていけたと。

 結局のところ、僕みたいな魔王じゃ希望足りえないということだろう。


「あ……その、申し訳ございません…………魔王様も頑張られているというのに……」


 いいよ、いいよ。何も間違ってないし、むしろ僕なんかがこの世界に来ちゃって申し訳ないって思ってるくらいだからさ。


 あ、それで思い出したんだけど……実はあっちの勇者と顔見知りなんだ。


「本当ですか! では、弱点などをお知りだったり?」


 むしろアレの存在そのものが僕にとっての弱点かなぁ……いや、ほんとああういタイプって苦手でさ。


「そうでしたか……そうなると、顔合わせすることになると問題が発生しますね」


 別世界から勇者と魔王が呼ばれるってバレてるからね、まず間違いなく僕が魔王だってことが判明してそのまま切り捨て御免だよ。

 五等分の魔王様になっちゃうこと間違いなし。


「それでは、とくに勇者の動向を注視することにしましょう。そうすれば、街で鉢合わせするようなことも避けられるでしょう」


 うん、それもお願いしたいんだけど、もう一つ聞きたいことがあるんだ。


「聞きたいこと……ですか?」


 実は僕がこの世界に来る直前、あいつが僕に落し物を拾って渡そうとしてたんだ。

 その瞬間に僕はこの世界に来たんだけど、あいつは僕よりも先にこの世界に来ていたんだよね?

 僕に巻き込まれて勇者がこの世界に来たのなら、この時間差はおかしい。

 これってどういうことだろうか?


「逆……なのかもしれませんね」


 逆というと?


「我々が魔王様を召喚した際に勇者が巻き込まれたのではなく、勇者の召喚に魔王様が巻き込まれたというものです」


 つまり、事故ったのはこっちってこと?


「召喚によって別世界から勇者を呼び出そうとしたけれど、魔王様もそれに巻き込まれてしまった。けれども召喚で呼び出せるものは一人であるため、魔王様はそのまま別次元にストックされ……我々が召喚を行ったことで魔王様が出て来れたというものです」


 なんか、配水管に詰まってたゴミが出てきたみたいな例えだね。

 どちらかというと、当たりクジのせいでゴミが詰まって、次にガチャを引いた闇の種族がゴミを引いたってことか。


 そうなると、僕は元々この世界には呼ばれないはずだった。

 つまり、僕は本物の魔王じゃなくて偽者ってことか。


「そ……そんなことはございません! 魔王様は、我々と共に戦うことを決意されたではありませんか! そのような方が、偽者のはずがございません!」


 ありがとね、シュラウちゃん。

 だけど、僕は歴代の魔王様と比べてあまりにもひ弱すぎるから、まだ偽者だった方が嬉しいって。

 本物でこれとか、情けなさ過ぎて涙も出てこないよ。


「そこまで卑下されずとも……」


 元々が後ろ向きの人間だからね、めんどくさいけどこういう奴だって思っておいて。


「ご安心ください。魔王様がどのような御方でも、私は絶対に離れたりはいたしません」


 それは嬉しい!

 僕がどれだけダメでも、どんなことをしても、僕の味方になってくれる人がいるなら何でもできる気がするよ。


 まぁ勇者に勝てって言われても無理なんだけどね。

 それどころか、人間と戦うことすらもできないよ。


「そうなると、我々はもうすぐ滅ぶ……ということでしょうか……」


 もうすぐって言っても、まだ時間的な猶予は残されてるよ。

 今回の戦争でこっちの戦力はほぼゼロになったけど、人間側もそれなりに大きな被害を出したから、態勢を整える時間が必要だからね。


「ですが、我々にはもう抵抗するだけの力は残されておらず……」


 それを知っているのは僕らだけ、相手からしたらまだ何か隠していると思っていても不思議じゃないよ。


 それに、人間は僕らと関係のない敵対生物まで魔王の手先ってことにして戦ってるじゃん?

 あれのお陰で人間は魔王とその手先へのヘイトを高めて戦意を高揚させてるんだけど、おかげで敵として処理しなきゃいけない生物が増えちゃってるんだよね。


 前までなら「そんなこと考えずともまとめて踏み潰してしまえ」って考えだったんだろうけど、《魔の草原》で受けた被害が大きいせいで、そういうところにまで注意しなくちゃいけなくなってる。

 自分らで敵を増やしておいて、それで困ってるとか喜劇みたいだよね。


 あとは、人間側は《復活の根》を破壊したっていう戦果を手に入れているわけだから、急いでこっちに攻めてくる理由がない。

 《魔の草原》での戦いで嫌な思いもしただろうし、じっくりと国力と戦力を整えてからじゃないと戦おうって思えないんじゃないかな。


「そういえば、魔王様。私は《魔の草原》での戦いを直接見られなかったのですが、彼らは立派に戦えたのでしょうか?」


 ……うん、それはもう勇敢に戦ったよ。

 たった一つしかない命をかけて、その命を失ってなお、彼らは人間と戦い続けて僕らを守ろうとしてくれたよ。


「そうですか……その勇姿を見られなかったことは残念ですが、魔王様だけでも見てくださって、彼らも喜んでいることでしょう」


 そうだねといいね。

 彼らが稼いでくれた時間を無駄にしないためにも、後ろ向きに前を向こうか。


「魔王様の例えは、たまに分からないですね」


 前とか上ばかり見てると危ないからね。一番来て欲しくないものは、いつだって死角から迫ってくるものだよ。


 さて、それじゃあここからは僕のお仕事だ。

 使える命はもう全て薪にして暖炉に放り込んだ、それじゃあこの炎を大きくするために小さな風を起こすとしよう。

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[一言] え?鋭角から迫ってくる?それは怖い!
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