第十二話:ガン細胞、転移
【魔王四十日目】
お薬をせっせと量産し、人間の街へと流通させる。
僕がもっと早くこの世界に来られたら、こんな感じで人間と闇の種族の共依存を成し遂げられただろうか?
いや、多分無理だ。
アーマーンやゴートンみたいなのが絶対に邪魔してくる。
そういう意味では、こうやってのびのびと自由に活動できる今の環境は僕にとって最高の環境なのかもしれない。
頼るべき味方はおらず、命を脅かす敵だけは日々脅威を増していっている。
僕のような人間は戦うことすらできず、ただただ人類の大多数の意思というものに押し潰されそうになりながらも、悲鳴もあげられずに潰されていく。
うん、異世界に来たんだからもっと夢や希望……は無いにしても、何か特別な何かがあると思ってたんだよ。
けど無かった……というよりも、あっちの世界とそんなに変わらないことに絶望した。
臆病な民衆が国を形作り、それを一部の人間がコントロールし、弱者と対立者は搾取されるか燃料とされる……人間の伝統芸である。
だから、僕にとって大多数の意思というものは触れてはいけない怪物のようなものだ。
大多数の意思にとっては、僕のようなマイノリティな人間は生かしてやっている、程度の認識だろう。
そうして僕の心は折れてしまった。
だけど、心が折れても無くなってはいない……だからこうやって色々とやっているのだ。
もしも人間側に失敗があったとするならば、それは生存戦争を仕掛けたことだろう。
確かに戦局は有利に進められているだろう、話し合いの余地を残せば交渉にも力を入れなければならず、内政に力を注げなかっただろう。
だが、それでも滅ぼすか滅ぼされるかの生存戦争は仕掛けるべきではなかった。
その証明を、あらゆる命を以って立証しよう。