編み出す答え
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「パーティ?とは、なんなのだ」
広げた両手はコメカミに移動し、人差し指で押さえながら小首を傾げる。
「簡単に言えば、一緒に行動して仕事をこなす仲間さ」
傷口が痛む為に、所どころ声は吃る。
「君は──よく分からないけれど俺が気になるのだろ?」
「なのだ」
「俺は理由が分からないし、解決策も思いつかない。けれど一緒に行動していたら分かるかもしれないだろ?クエストの報酬はしっかりと半分だ。美味い飯だって食えるさ」
彼女を一人にしたのなら、また冒険者達に食ってかかるかもしれない。それにクルス達と戦わせたのなら、間違いなくこの笑顔を絶やさない少女は、死ぬ。
ジハード自身に、魔人を御する術があるとは到底思う事は出来ないが──
今は、こちらに興味がある。ならば、ほとぼりが冷めるまで共に行動し、自分の住む国へ帰ってもらおう。と、安易と分かりながらも最短の解を出した。
カンムルは、手をそのまま苦い薬を飲んだ様な渋い表情を浮かべている。
「わっちは別にご飯が好きじゃないのだ」
「それはまたなんで」
食事こそが生きてる実感を味わえる唯一の楽しみだ。誰しもがそうだと思っていたが、どうやら違うらしい。少し寂しい気もするが、環境が違えば考えも違う。人それぞれなのだから。
に、しても見れば見るだけ、人類を破滅へと導く魔王・エレウカの仲間だとは思えない。
バッシュ達は、魔人だと一目で分かったらしいが、ジハードはその魔人すら見た事がなかった。故に、容姿はどうであれ近しきものを感じざるを得ない。もしかしたらママはいない、この発言がより一層の情を抱かせたのかもしれないが。
様々な感想をカンムルに対し抱いていると、暫しの黙考後に少女は口を開いた。
「わっちはどうやら壊れているみたいなのだよ」
「壊れてる? ……とりあえず歩きながら話そう」
流石に体力の限界だ。少し気を抜けば倒れてしまうぐらい、体は悲鳴を上げていた。
ジハードの提案にコクリと素直に頷き、カンムルは先を歩く
「うむ。壊れているのだ!」
その回答は、ジハードの息を止め。その明るい笑顔は心臓を抉る。心は強く鷲掴みにされたような痛みが伴った。と、同時に罪悪感が律動を早める。
「…………」
投げかける言葉が見当たらない。違う。見あたりはしてるが、どれもこれもが安いものばかり。自身に置き換えた時、果たして嬉しいかと言えば、答えは否だ。愛想笑いで応えていた嘗ての自分をジハードは思い出す。
「わっちは痛みがないのだ」
「──痛み?」
そう言うと、穏やかな表情で首を左右に振るい、心に手を当てた。
「わっちには心がないのだよ。だから、痛みを感じない。命に対しての尊さがないのだ」
「友達やエレウカが死んでもか? 悲しくないのか?」
「よく分からないのだ」
「なんだよそれ……」
無意識だった。何も考えず、気がつけばジハードの手は少女の腕を強く握っていた。自分の痛みを忘れてしまうぐらい、カンムルの無垢な笑顔が辛かった。
「ワハハ。痛いのだ」
「すまない。って、この手首の切り傷はなんだ?」
細い腕には跡に残る程の傷跡がいくつも残っていた。爪で引っ掻いたような物もあれば、鋭利な刃物で付けた跡も幾つも重なっている様に見える。
「痛みが分かれば、分かるかと思ったけど駄目だったのだ。腕を切っても痛いだけで苦しくないのだよ。恥ずかしいぞ!」
「痛いだけで苦しくない、か」
手を離し、再び歩き始める。
ジハードにとってカンムルの言葉はあまりにも難しかった。理解し難かった。
自分で自分を傷つける行為は、なにも彼女だけの特権ではない。理由は様々であるが、きっとカンムルとは逆なのだ。苦しくなりたいから傷つけるのではない。苦しいから傷つけてしまうのだ。
根本的に違うのだが、そこまでなってしまった経緯があるのだろう。
自然と手は顎を撫で付け、気難しい表情をジハードは浮かべていた。
「苦しさ、辛さ、悲しさってなんなのだ?」
「それは……」
言葉が思いつかず、当然声にもならない。何を言えば良いのか。慰めになるのか。そもそも、彼女は慰めを欲しているのだろうか。そんな人らしい心すらも壊れてるのかもしれない。考えれば考えるだけ、心が──痛い。
「ハウスでも、一人だったからなあー仕方ないのだ!」
「友達は?」
「友達?そんなの、ずっとずーっといた事ないのだぁあ!それに、わっちに触れること出来るのは、エレウカ様だけなのだよ」
「そう、なのか?」
「うん」と、短く頷き。
「確か──わっち達の属性にはアンチ? なんちゃらが備わってるらしいのだよ」
アンチなんちゃら。つまり、属性攻撃は彼女達に触れる事すらできないって事なのだろう。人は産まれ持って一つの属性を取得している。各々、属性値はあるものの、攻撃をする際、生活をする時でさえ、抑えたとしても微量は必ず属性が乗る。
要するに、カンムルは人の暖かさを知らずに育ってしまったのだろう。
「生まれつき、なのか?」
「生まれた時に、エレウカ様が施してくれたのだ」
──なんの為に。だが似たような文言をジハードは、何処かで聞いた事がある気がしていた。
「あ!」
「なんだ?」
「なにか、大切な事を忘れている気がしたのだ」
きっと殺意だろう。
「そんなものは忘れておけ。俺は決めたよ」
「何をなのだ」
「パーティであり、友になろう」
カンムルを絶対に裏切らない。人と触れる事が出来たのなら、いつか暖かさを感じるかもしれない。
心に誓い、息を大きく吸い込む。
「だから、今日は歓迎会だ。俺の村で美味い飯をたらふく食べよう!」
云々、話しながらジハード達はギルドへ向かった(カンムルの角を隠すため、皮でのコートを頭から羽織らせて)。
今日の昼に一話投稿予定です。