本当の始まり
評価、ありがとうございます!これより新章です
「世界の理って言ったかな?ジハード君」
「ええ、言いました」
「本当に存在しているのか……ならば言い伝えは事実なのかな?」
ユーリの問いに対して、言い伝えをしらないジハードは首を横に振るう。
「分かりませんし、皇帝に仕える貴方に知らせる訳にはいかない」
「なるほど。君の反応から察するに、秘密にするだけの価値はあるようだね」
悪意のない笑みを浮かべるユーリは、なにか腑に落ちた様子を見せると静かに立ち上がった。あれから下を向くセラピアも静かだし、唯一響いたのは椅子を引く高い音。
「──そうそう」
コツコツと歩くユーリの足音が扉の前で止まる。
「急いだ方がいい。陛下は既に幻獣、火の大精霊を強制的に従わしている」
「なぜそんな事を?」
誘き寄せる罠の可能性も否めない。ジハードはユーリの事を完璧に信用出来ずにいた。今回の事も、何かを聞き出すためではないのか等、色々と思惑を感じざるを得ない。
しかし──ユーリの背に視線を送れば、彼の背中からは騎士団長足る風格は消えていた。そんな彼が騙す事を考えるのだろうか。
頭で最悪な事を想定しながらも、想定外を期待している自分が居ることに気がついたジハードは、静かにユーリの背に視線を送る。
「俺はね、そこに居るセラピア君と似た思想を持っている。とはいえ、陛下に仕える身。君達の敵であったとしても、陛下の味方でいなくてはならない。虫が良すぎるかもしれないが──ね」
「本当に虫がいいですよ。貴方達は、自分達の私利私欲のためにカンムル達を虐げ続けていた」
「それも生きる為さ」
「違う。生きる為の居場所なら天照が授けていた。貴方たちは求め過ぎている。──止めますよ?俺は」
「そうか。……君が思っている程、世界はそう甘くない。打ち破れるのかね?暗澹を」と、振り向いて問いかけるユーリの眼差しは、何かを見据えたような、ジハードをみていながらも違う何かを考えているようなものだった。
きっとジハード自身がまだ知らない何かが──秘密があるのだと思わずにはいられない。
「例え……そうですね。俺の目的は天照の代わりに世界を守る事です。その最中に災難があったとしても、それはゆく果の途中。故に、変わりません」
もしユーリの言っていることが本当なら、まずどの属性にも属さないジハードが大精霊──幻獣達を使役しなければならない。もし大精霊が死に絶えれば、第六元素達は世界をゼロに戻してしまう。
この星を存続させる為に。
「そうか。それを聞いて安心したよ。では俺は自分の出来る事をしよう。少しでも追っ手が辿り着くのを遅らせる程度しか出来ないけれどね」
「ありがとうございます」
「気にする事はないさ」と、手を振るって外へとユーリが出たのと同時に、セラピアは小さい声で言った。
「兄さん、私は」
「セラピア、感謝してる。俺を守る為に、手を血で染めさせてしまった」
元はと言えば、自分の事を巫覡一族に話しすぎてしまった事にある。ジハードはだからこそ、セラピアに対し感謝と同じ位の罪悪感が込み上げていた。
「いいの。お陰で世界の真実が分かったから」
「だから、“綺麗は汚い。汚いは綺麗”か」
「兄さんが教えてくれたのよ?それで、まずは何をするのかしら?」
セラピアの問いにジハードは、大きく息を吸い込み吐き出し、ハッキリとした意志をもち「それは」と、口を開いた。




