陽炎昇華
閑話を三話に入れました。もう一話ほど閑話を入れるのでもう少し最新話は、お待ちください。
「……フレイル……さん」
天照は確かにそう言った。絶望と危殆を声音に乗せて。感じ取れたからこそ、龍也はフレイルの事を見ずに、天照を見つめた。
表情は強ばり、握った拳は震えている。これは臆しているからか、義憤を滾らせているからか。どっちかは分からなかったが、龍也はそっと声をかける。
「大丈夫ですか?」
女神フレイルの危険性が分からない以上、これ以上の反応が出来ずにいた。余りにも情報量が少な過ぎるのだ。
とは言え、知っていたとしても何ができる訳でもないが──
「大丈夫、と答えたい所ですが……今の私に彼女を倒す術はありません」
フレイルは焦った様子なく、ヒールで大理石で出来た床を蹴り、高い音を鳴らしながら一定の速度で歩いてくる。
音的にまだ距離はありそうだが、それこそがフレイルの余裕に違いない。
「同じ神同士なのにですか?」
「はい。神にもそれぞれ、言い伝えがあります。日本で言えば武神・毘沙門天。彼は戦いに特化した付喪神と言えますね。それに、私の半分はエレウカに」
「なるほど……」
確かに天照は、戦い特化と言い難い。どちらかと言えば引きこもりに近い感じだろうか。伝えられている物ではだが。
「ほらほらー、もう逃げれねぇぞー? かれこれ三百年。長かったんだからさあ?」
気が付けば声は限りなく近づいており、天照から目を逸らし後ろを見れば、ツインテールにしたピンク色の髪を、ユサユサ揺らしながら歩くフレイルがハッキリと見えた。
もう数十メートル。時間にして数十秒で、フレイルは目と鼻の先に到着する。
「龍也さん。本当なら、もっと細かく説明をしたかったのですが……こうなっては時間がありません」
「え? は?」
勝手に進む話に、奇抜すぎるフレイルの服装に。一気に脳にかかる情報量が多すぎて、龍也は軽いパニックを起こす。
「おんやあ? そこに居るのは──死者じゃあないようだねえ」
現世で言うゴスロリの衣装を着ているフレイルが、顔を覗かしては意地の悪い笑みを浮かべる。
「貴女には関係がないでしょう? フレイルさん」と、天照は龍也に背を向け、フレイルに敵意をぶつけた。が、フレイルは気にする様子一つなく、おどけて見せる。
「つれないことを言わないでほしいねぇ。知らないと、殺しがいがないじゃんよ~? アハッ」
何も知らない龍也でも分かる。間近で見て、感じる事が出来た。
──コイツは危険だ、と。
「そんな事はさせません──」
天照が合掌をすれば、重鎮たる鐘の音が響き地面が揺れた。
「私達を隠し護れ。天岩戸」
天照が言葉を紡いだ瞬間、龍也の視界は一気に闇に覆われる。ひんやりとした空気が立ち込める空間であり、きっと天照が施した神の御業みたいなものなのだろう。
──天岩戸。確か、天照が隠れたとされる洞窟。知っているからこそ、何故だろうか。龍也の胸を燻るのは恐怖を凌駕した、血の滾りだった。
「良いですか? 龍也さん。貴方に託すのは、無属性。皆を平等に扱える、言わば──神の力」
「神の力?」
──これさえあれば、フレイルを倒せるんじゃないだろうか。根拠もない自信が龍也の毛穴を全て開く。
「あーもう! また引きこもりですかぁ? 早く出てきてくださ──あ、ぶっ壊せばいいんだ」
愉悦に浸ったような声が洞窟内に響き渡った刹那──
爆風と共に天岩戸は破砕され吹き飛んだ。目を眇め、先を見据えれば殴ったような構えはしていない。
あれは、そう。間違いない。
フレイルはデコピン一発で、天照の護りを破壊したのだ。圧倒的な力を前に、龍也は自分の不確かな力を過信していた事を悔いる。
──勝てるはずがない。守れるはずがない。
瞳孔は狭まり呼吸は乱れを生じさせた。龍也は今初めて、他者から与えられる一方的な殺意による“死”を感じ取った。
「はあはあはあ……」
「落ち着いてください。龍也さん?生き物を慈しむ心がある貴方なら、皆が貴方について行くはずです。救ってください、世界を──大切な子を」
「だからあ!?させねーっつってんだろーが!?爆砕」
拳を地面に叩きつければ、大理石は隆起する。フレイルは軽く跳躍し体を捻らせ──
「連火ーだっつーのお!」
殴り飛ばし、それはあまりの速さで一直線に進む。火をまといし速球は、けたたましい音を奏で龍也と天照を襲った。
「させません!! 太陽の神を甘く見ないでください! 炎華!」
菊の花にも似た炎の華が天照を中心に咲き誇り、火の弾丸を包み込んだ。火の粉が胞子のように散りゆく中で、フレイルは歯軋りをし天照を睨みつける。
「くっそ小賢しいチンケな技ばかりつかいやがって!」
「なんとでも言ってください。傷つける力なんな私は欲しない!」
「そんなあまちゃんだから、利用されるんだよ!ぶぁぁあか!」
「私は構いません。子が親を利用したとしても、それも一つの選択でしょう。私はそれを黙って見守ります。しかし──貴女達に利用されるのだけはゴメンです。龍也さん、後はお願いします。エレウカが貴方を待っています。──神気解放……陽炎昇華」




