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破滅の音色は心地よく

(2020/11/01)閑話を入れました

 ジハードが謎の少女と出逢う数時間前──


「此処が魔王エレウカが統べるとされるハオス大陸か」


 使えないお荷物であるジハードを追放し六日後──陸海路の長旅を経て、クルス・カタフ・リカーナはハオス大陸の最南端(エペシアから最も近い距離)に辿り着いた。


「なあに勇者みてーな発言してんだよ。ここまで何一つ不自由なく進めたってーのによ」と、相変わらず、カタフはおちゃらけた様子で半笑い気味にちゃちゃを入れる。が、事これに関しちゃ認めざるを得ない。


 故に、クルスもカタフの笑みに同調し浅い笑いをうかべた。


「はは。お前、それを言っちゃおしまいだろ。作戦通りっていってくれよ」


 ここまで来るのに、魔獣──つまりゴミが襲ってきたりはしたが、クルス達はほぼ手を出していない。代わりに三人を護衛する数百人の騎士達が交戦していた。


 結果、数多くの死者が出たらしいが、正直どうでもいい。弱者は弱者らしく死んでいくのが当たり前なのだから。


「本当に腹黒いですよね? クルス君もカタフ君も」


 透き通った声に振り返れば、白い修道着を可憐に着こなしたリカーナが潮風に撫でられていた。


「なんだよ? お前も人の事言えねぇだろ。と言うか、戦艦は皇帝の息子だからってクルスが用意したにしろ。印象操作を提案したのはリカーナ、お前じゃねーかよ」

「そうだぞ、リカーナ。お前がジハードを使う案を出したんじゃねーか」


 ジハード──


 無属性であり、人間以下の生物。本来なら一属性を持って産まれてくるのが当たり前な世の中で、ジハードは神の恩寵ギフトとも言える属性それを授からなかった。


 この世に求められず産まれた男だ。


 それが同じ巫覡の一族ともなれば面汚しにも程がある。故に、リカーナの提案である、慈悲作戦を了承した。


 ・パーティに入れ、民衆に対してクルス達は寛大である事を見せつける。

 ・逆にジハードは手に負えないほどの、弱虫で嘘つきだと言うのを広める。


 長い年月を費やし得た結果は、気持ちがいい程に素晴らしかった。民衆は皆が、自分達の進行を遅めてまで、ジハードに合わせ手を差し伸べていると。


 巫覡の一族・本家であるジハードをわざわざ立たせていると、クルス達に厚く優しい眼差しを向けるようになっていた。


 そして魔王討伐の出立前日には、ジハードが臆し逃げたと広め、アイツの居場所をクルスは無くしたのだ。


 だが罪悪感はない。寧ろ、精神的に耐えられず自殺をしてくれれば良いとすら思っていた。と言うより、魔法の巻き添えで殺そうと何回かしたが、全てが失敗に終わっていたことを思い出す。


「それだけが予想外だったな」と、一人、話を逸らし心情を吐露すると、カタフは強固な緑色をした鎧を軋ませながら肩を叩く。


 伝わった強い衝撃に軽く前のめりになりながらも、クルスは軽く睨みつけ──


「なんだよ」

「なんだよ。じゃねーよ、ほら。アイツ行ってんぞ」と、顎で先を示す。


「いつの間に。つか、歩くの早すぎんだろ」

「私は、貴方達と違って砂は似合いませんので。先に行かせてもらいますから。だとよ」

「お前、それ誰の真似だよ? リカーナに殺されるぞ」

「いやいや。似てるだろ? 意外と」

「あ、ああ。意外と、な?」


 肩を小刻みに揺らし、緊張感も何一つなくクルスは足を一歩踏み出した。


 辺りを見渡せば見渡す程、此処はエペシアと何一つ変わらない。言い方を変えるならば、魔王が住んでいる場所とは思えないぐらい自然に溢れ、綺麗だった。


 しかし、これに対しクルスが抱いた感情は感動ではなく義憤。魔人風情が、人様と似た環境で過ごしているのが度し難い。そんな怒りを糧に(崩落魔法を使い、荒地にはした)、数時間歩き辿り着いたひとつの街──ペリカ。


「んじゃまずこっから始めますかね?」

「そうだな。こいつらは全員──悪だ」


 手を添えた二本の柄を強く握る。変わらず、一定の歩調で歩きながらも、目には明確な敵意と殺意を宿す。


 街に足を踏み入れれば木造の建物が目立ち、三人が来たにも関わらず、魔人達は生活をしていた。臆する事なく、逃げ惑う選択をせず、それどころか「旅人の方かい?」などと、気さくにすら話をかけてくるのだ。


 まるで人間の真似事だ。それはつまり、伝承通りエペシアを乗っ取る気でいると関連付けていいだろう。


「……アダっ!」

「──ってぇな」


 足に走った微かな衝撃(カタフに肩を叩かれた時よりも弱い)に、目をやれば足の長さ程の背をした少年がぶつかってきていた。年齢にして五歳くらいだろうか。


「ごめんなさいっっ」


 二歩・三歩下がり、頭を下げる少年を見て、対話をする気もないクルスは殺し方を考えていた。


 何せ、このチビは触れたのだ。この世界を総べる巫覡一族の分家の長である皇帝の息子・クルス=フォリアに。


──万死に値する大罪だ。


「あ? ああ……君、ご両親は?」


 指はささず、視線を送る先を見ると女性が頭を深々と下げていた。

 クルスはその女性に対し、柄から手を離し手を翳す。瞬時に、手のひら中央には冷気と熱気が宿り始めた。豆程度の大きさだ、誰しもが気にもとめない。


 カタフとリカーナを除いてではあるが。


「ありゃりゃ」

「私は耳を塞ぎます。あの音は不快ですので」

内爆バーン


 クルスが唱えると、女性の鼻腔へ形を変えて入り込む。そして体内で冷気と熱気は混じり膨張し──


「弾け、飛び散れ」


 ──バチョン。


 鈍くエグい音が短く鳴った刹那──


「きゃぁぁぁぁ!」

「な、何が起こった!?」

「女性が女性が」


 辺りは一気に絶叫が響き渡る。卒倒した雰囲気に感じる興奮は、視界に入る女性の飛び散った臓物や夥しい量の血も合わさり、最高潮に達する。


 クルスは込み上げるこの上ない快楽感に、身を委ねながら高らかに叫んだ。


「ま、ま、ま……ママァァァァァァ!? やだやだやだやだ!!」

「はは……はははっ! 一気に戦場らしくなったじゃねーか。さあ、坊主、逃げろよ? 俺の魔法が届かない所まで。じゃねーと、死ぬぜ? あのくそ魔人のよーにな!?」

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