最強と最弱・前編
書き直しました。少しは変わったと思います
ジルハルドの提案は、公平に見えて、本質は圧倒的な不公平と不条理を兼ね備えていた。
だからと言って、断れば何をされるかも分からない状況に於いて、ジハードの退路は奪われてしまう事となる。
「こりゃあ公開処刑となんら変わらねぇなあ」
「戦うまでもなく、結果は決まっているだろ」
「まあ、ランバートでの一件の話を聞きゃあ、誰しもが望む結果ではあるだろうな」
「街を破滅へ導いただとか、なんとか」
「無属性の死、をか?」
「そうさ。第一、無属性しか魔王を倒せないとか、信憑性がねーんだよ」
「確かに、な」
観客席は貴族や冒険者達で一杯になっており、誰しもがクルスに期待の眼差しを送っていた。
そんな中──
「そういやあ、ジハード。お前と闘うのは初めてだな?」と、クルスは勝ち誇った笑みを浮かべ立つ。
──闘技場・オケアノス。
貴族達の娯楽として建てられた此処は、天井がなくドーム状の造りとなっている。普段は、魔獣と勇士を戦わせるのだとか(死者が出ることも稀にあるらしい)。
「それがどうかしたか?」
ジハードからすれば、どうでも良く興味のない話題だった。冷めた視線を送れば、クルスは鼻で笑い呆れた様子で口を開く。
「いいや。どの道、結果が見えてる事だし。ま、命だけは落とさねぇよー精進……いや、消尽しろってこった」
腰にぶら下げた二本の鞘、内一本を鞘走らせ、切っ先をジハードへと向けた。眩しい陽射しが、丁寧に鍛え上げられた刀身によって両断される。
「二本、使わないのか? クルス」
「ハンッ。お前如きに二本使うかよ。それに完膚なきまでに叩きつける且つ余裕を見せた方が──目立つだろ?」
得意げに手首だけを使い剣を振るうクルスからは、ジハードと違い緊張感をまるで感じられない。
「目立つ、ねえ」
切っ先を向けるクルスから目を逸らし、待機所の椅子に座るセラピアとカンムルに視線を向ければ──
「ボッコボコのバッキバキにしてやるのだ!!」
「兄さん、私の為に争うのはやめて」
「お前等……少しは俺を憂いろよ。……やれやれ」
だが、彼女達の言葉はジハードに伸し掛る荷を軽くする。
「すぅ」
歯と歯の間から空気を細く漏らし、ジハードはゆっくりと剣を抜いた。双方を見ていた騎士は、対峙する二人の間に立つなり──
「これより、勇者・クルスとジハードとの一騎打ちを始める。勝敗の決定は、戦闘不能のみ。尚、崩落魔法は禁止とする! では、ジルハルド皇帝陛下、よろしくお願いいたします」
湧き上がる歓喜に手を振り答え、ジルハルドは言った。
「うむ。これは未来を決める一騎打ちである。両者の健闘を祈ろう。──始め!!」
ジルハルドの号令と共にクルスは、肩幅ほどに足を開く。
「まずは肩慣らしだ」
『エアリアルオブジェクト』
『バーストオブジェクト』
クルスが言葉を紡げば、腕を伝い剣に二つの属性が渦を巻き宿る。ジハードは幾度となく、この魔技を見てきた。
暴風を用いて、爆炎剣の火力を底上げするクルス独自の技──
「獄炎剣か」
迸る熱を数メートル離れた位置に立つジハードは、感じながら後ろへと距離をより取る。
「逃げた所で俺からは逃げられねぇ! この檻の中じゃなあ!? ──トップスピードだこら!」
足元に水を張り、その上から高温を加え一時的な爆発を起こして間合いを詰める技。戦闘特化のクルスが得意としていたものだが──
「お前は未だにその弱点を知らない」
だが、間近で見ていたからこそジハードは知っていた。この移動手段が小回りの効かない直線特攻だと言うことを。
「勝手に言っとけ!」
爆音を立て、重々しい鎧を厭わずに人力を超越した速さで特攻するクルスをジハードは難なく躱す(それでも、クルスの高熱魔技の前では皮でのコート等は焼き付く)。
「まだまだぁ!!」
壁から壁へ──縦横無尽に駆け回るクルスをジハードは目を離さずに、尚且つ的確な動作を以て応える。
最小の力と最善の判断。長年共に行動してきたからこそ分かるのた。
「次は右。次も右か」
クルスの力み方、視線、動作。それら全てが知識として力を与える。しかし、それはジハードに“避ける”方法を授けたに過ぎない。
──攻めきれるはずがない。
決め手がないのだ。無属性のジハードにあるはずもない。ランブル戦に於いて、彼は無防備と変わらなかった。しかし、目の前のクルスは完璧な装備を身に纏っている。
無作為に剣を振るえば、刃こぼれを起こすか──あるいは弾かれ隙が生まれてしまう。
「なんで当たらねぇ! 当てられねぇ!」
怒りを顕にするクルスを横に、ジハードは剣を交える事も出来ないまま、歩調を変則的に動かし避ける。時折、すれ違いざまに柄で鎧を思い切り叩き一層のプレッシャーを与え続けた。
「くそ! なんだ!? 砂煙が凄くて全く見えねえよ」
「どっちが優勢なんだよ!」
「そりゃあ、この攻撃はクルスのもんだろ? 一向に剣がぶつかり合う音もねぇことから圧倒してんだろ」
「流石は聖帝魔法の使い手だ。さっきの剣だって、普通の人間じゃ扱えない二属性を併用してのものだろ?」
「クルス一人で地形を変えれる力を持っているらしいしな」
騒ぐ観客達の声も、轟く音の中で聞こえるぐらいジハードは冷静でいる必要があった。クルスの攻撃はそれほどに高威力であり、当たれば一撃で意識は彼方へと、飛ぶ可能性がある。
「てめえ」
次第に減速し、目の前に立つクルスは気に食わない様子でジハードを睨み付けた。
「姑息な手を使いやがって」
「勝手に言ってろ。それで、終わりか? 肩慣らしってやつはよ」
出来るだけクルスの感情を逆撫でるように努めた。冷静にぶつかり合えば手数の少ないジハードの不利は変換不可能。
少しでも相手の行動に明白な“隙”を生ませるには、これが一番手っ取り早い。ジハードに唯一クルスと同じ戦いが出来るとすれば、それ即ち──心理戦。
「俺を怒らせたいのか? よしよし……そこまで言うなら──後悔するなよ?」
「こっちのセリフだよ、それはな」
クルスは両手で剣を掴み、切っ先を真後ろに向けた。ジハードを見つめる目は鋭く、一切の温かみも無い冷酷なもの。
だがジハードにとって、クルスの殺意とかはどうでもよかった。必要としているのは、構えと宿る属性のみ。それさえ分かれば、クルスの攻撃法を覚えているジハードは回避ができる。
「褒めてやるよ、無属性の落ちこぼれ。俺に肩慣らしとは言え、この技を使わせた事をな」
剣を包む灼熱の熱量は爆発的に跳ね上がり、そこに観客全員の服や髪を踊らせる程の暴風が纏う。
「灰燼に帰せ」
構えるクルスの足は地面にめり込む。
技が穿たれる前の刹那、臆することもなく、ジハードはクルス目掛けて突っ走った。
「爆風炎」
「予想通りの行動だな、クルス」
後方にて燃え広がる遠距離剣技。回避不可能と騒いでいたが、これにだって弱点はある。
距離だ。間合いを詰めれば、単なる火柱と変わらない。ジハードが何故、何度も死に目にあいながらも、危機回避が出来たか。それはクルスたちによって身についた観察眼にある。
「馬鹿め!自ら死にに来るとはな!? そのまま燃え朽ち果てやがれ!」
眼前に迫る深紅の炎。爆風を兼ね備えたそれをギリギリまでひきつけ、ジハードは爪先に力を込め真横へと飛び回避する。
受身を取り、すぐさま再び駆けた。
「っっらぁぁぁあ!!」
炎の真横を走れば、目眩しにもなりクルスからは見えないはずだ。
間合いに入り、ジハードは目で追うクルスと視線を交えながら剣を振りかざす。
「──ッ!?」
鋼と鋼がぶつかり、甲高くも重鎮足る音が鳴り響く。
「こっのっやろ……がっ」
砂煙の中でクルスの姿が瞳に写った。
「抜いたな、二本目を。最弱だと罵った俺に」
どうしても、無属性と六属性とじゃ闘い方が地味になってしまいまして。面白くなかったらごめんなさい。こればかりは、剣戟を打ち合うなんて到底出来ないんです……




