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皇帝・ジルハルド

今日、2話目の投稿になります。読んでいただきありがとうございます

 ジハードの承諾から、騎士達の対応は速く、しかも的確だった。


 まるでこうなる事を予期していたかのように、村の守りは万全に。加えて馬車まで手配しており、すぐ様出立出来る用意か整った。


 ジハードがシルトレに事の成り行きを話、一緒に帝都・シーランへと一緒に向かう許可も得る。シーランからは、別行動となり、交通や買い物に便利な出入口付近の宿に泊まるようセラピアは提案し、ユーリを含めた三人ジハードとシルトレは『その通りだ』と、意見をのんだ。

 カンムルは状況が把握出来ていないのか、毛並みの黒い馬と『ぐぬぬ!貴様、正体を現すのだ!わっちの目はごまかせないのだよ』睨み合いをしていた。

 話を終え、馬車に乗り一番初めに驚いたのは、馬が難なく歩けるように舗装がなされた山道を見てからだった。


 たった数時間のうちに、この騎士たちは山に人為的な発展を見せたのだから。


 少し寂しい気持ちもありながら、それでもセラピアを想えば良しとなるのだから不思議だ。


 次に驚いたのは、カンムルの角の件に対し『まるで人と変わらない』と、話した時、頬を膨らませ『わっちらはずっと人なのだ!』と、声を張り上げた事。


 色々な事に驚かせられながら、山を降り四人はリンドゥ街道『ランバートから帝都へ繋がる道』を進んだ。

 

 一日ではつかない為、野営を地を設け一晩をこす。


 そして二日の昼を回った頃──


 シーランへ着いたジハード達は、騎士達のお願いで代表者一人が採血をする事となった『ココ最近、疫病が流行っているらしく、感染者がいた場合、シーランへ入るのを禁じているらしい』。


 ゴタゴタが続いた後、いよいよと四人は帝都・シーランへと足を踏み入れるのだった。


「しかし、高く聳えた壁だな」


 シーランは、大陸・エペシアで一番の広さを誇るとセラピアから聞いていたが、それも納得せざるを得ない。


 堪らず目を眇めてしまう高さもある壁は都と外を隔てるように建っているようなのだ。


「ここら辺の魔獣は、ランバートに比べて獰猛な物が多いいらしいのよ」

「そうなのか?」

「ええ。なにせ、黒龍が鎮座するファクル山が近いからね」

「黒龍って、んな危険なのか?


 壁を見ながら問う。


「黒龍自体の危険性は分からないわ。彼は宝を護ってるからしいし。ただ、魔獣にとってはいい迷惑のようね」

「そうなのか……でも、なんでまた、危険とわかりながらも領土を広げてるんだろうな」

「簡単な事よ。皇帝の威光を見せつけるため。危険と隣り合わせでも揺るがない安全を可能とする軍事力や権力を民衆に知らしめるためにね」

「なるほど。にしても、すげえ重圧だな。本当にさ」

「そうね。この壁の中には帝国の安寧を願ったまま生き埋めとなった僧が何百と居る話しよ」



 そう言われ目を凝らしてみれば、所々が人の顔に見えてこなくもない。カンムルに関しちゃ、壁へ近づき指を指すや否や『これ、人の手にみえるのだ!わははは!』


 等と恐ろしい事を、明るい声に乗せて言ってのける始末。


 ──本当に勘弁して欲しい。


 ジハードは平然を装い、セラピアをも道ずれにせんがため、軽い脅かしを試みた。


「ははは。なら、夜な夜なお化けになって……ってぇ! なんで足踏むんだよ!」

「あら。雑草かと思ったわ。ごめんなさい雑草に悪いわよね。彼らだって一生懸命生きているのだもの」

「おい。お前は、息を吐くように人を破壊するのか。とんでもない能力だな」



 小首を傾げて、理解に苦しむ表情するセラピアを見てジハードは思う。罵詈雑言や暴力で負傷しているのは一体誰だ、と。


「兄さんも、女装すれば絶対美女になると思う。それだけで凄い能力よ」

「喧しいわ。誰がするか、女装なんてよ」


 等と色々な話をし、落ち着いた頃、騎士に呼ばれ三人はシルトレと離れ宮廷へと向かった。


 馬車がすれ違える程に広い道が街の中にあり。建物もランバートの比にならないぐらい、高く幅も広いし丈夫そうだ。

 きっとこれが栄えているって意味なのだろう。


 馬車の中から見える景色は、ジハードに世界の広さを異端なく知らしめた。


「では、ついてきてください。この階段の先に見えますのが宮廷・ベリアルでございます」


 目の前で堂々と聳える建造物は、荘厳たるものを感じざるを得ない。


 皇帝が住まうに相応しいだとか、白を基調としたした建物は、彫刻とかが微細に施され美しいだとか、そんな安っぽい言葉で片付けること自体が烏滸がましいと分かる。故に、言葉は喉から飛び出さず、ただただ生唾を飲み込んだ。


 それしかジハードの選択肢がなかった


「はいっ!」と、実に情けない声が飛び出す。


 白い目で見るセラピアを横目に、強そうな魔物を目の前にした時とは違う緊張感が、心臓は強く早く胸を叩く。


「目が泳ぎすぎて、もはや不審者よ。それこそ、ほら」

「カンムルがどうした?」

「見習いなさいってこと。彼女は至って普段と変わらないわ。驚く程にね」



 五十段はあるであろう階段を上りながら言うが、ジハードからすればセラピアもまったく緊張感を見て取れない。仮にしていたとして、それを隠せる精神力には感服すら覚える。


「わはは! 高いのだ!」



 意気揚々と階段を上り終え、振り返りカンムルは一望できる街並みを見て笑みを浮かべる。本当に変わらない態度だ。


 けれど──


「高いし、綺麗だな」

「本当ね。夜景とか風情があって良いでしょうね。さ、騎士さんがお待ちよ。行きましょう、兄さん」

「あ、ああ。そうだな。ほら、カンムル、行くぞ」

「分かったのだ!」


 騎士の背を追い歩き、宮廷内へと入る。何人もの騎士やメイドが長く広い廊下を行き来しているが、感動をする余裕もジハードには残ってはいなかった。


「着きました。分かっていられると思いますが、皇帝陛下の御前では必ず膝を付き、許可を得るまで頭を上げてはなりません」


 決まり事を知るはずもないジハードが、軽い会釈と共に『分かりました』と、タジタジになりながらも返した矢先──


「知ってるのだ!」

「それぐらい、分かるわ」

「お、おお」


 セラピアは分かるが、まさかカンムルまでも知っているとは驚かずにはいられない。


「また目が泳いでいるわよ。なに? 兄さん、来る前にキメてきたのかしら。麻薬は御法度よ」

「誰がするか!!」

「ふふふ。兄さんは、今の方がいいわよ。緊張も解れたようだし」

「あ、あの。では、宜しいでしょうか」

「え、ああ。はい、お願いします」


 頼むと、騎士は門兵二人に話をし、頷いたと思えば身長よりも長い槍の柄で地面を叩いた。


 叩いた場所だけは鉄になっているのか、とても甲高い音が反響し、扉がゆっくりと開く。


「ふう……」


 明らかに空気が変わったのを肌と匂いで感じる。流れ込む風に、言葉に表せない何かが帯びていた。


「ジハード=バレッド及びその一行、前へ!!」


 堂々とした声に先を見つめて、ジハードの拳は力強く握られた。


「兄さん、今はまだ感情を表にだしては駄目よ」

「んな事言われたって」

 目の前には、玉座に座る皇帝を挟むように座るクルス達がいた。


 敗者の癖に、恥じる素振り見せず腕や足を組みクルスはジハードを見てほくそ笑む。これを見て、態度に示すなという事の方が難しい。


「兄さん」

「あ、ああ。分かったよ。──ふう」


 緊張感よりも込み上げる怒りが凌駕した時、昂った感情は冷静さを取り戻す。カンムルはその真横で、敵意をむき出しに囁く。


「あいつ!わっちは、あいつらを知ってるのだ」

「カンムルちゃんも、落ち着いて。ね?チャンスはいずれくるのだから」

「……わかったのだァ……今は我慢。だけれど絶対ぶちのめすのだ」


 カンムルが肩を落として歩き、ジハードはクルス達と視線を交らせながら進む。


「なぜ呼ばれたか、分かるな?」


 威厳があり、威圧も感じる野太い声音が鼓膜を叩いたのは膝を付き数秒後の事だった。




もう少しで、このリメイク版も一章が終わりそうです

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