獅子となりて
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「カンムル、お前、角はどうした?」
「んあ?あれは取れるのだ!!」
隣に立つカンムルは、言うなればただの美少女となっていた。魔獣が生やす歪な角を取ったと聞いた時には、緊張せざる成らない局面で、ジハードの表情は実に間抜けなものになっていた。
「まあ、その話は追々聞くとして──殺しちゃダメだ。あくまでも、相手の戦意を消失させる事のみ考えろ。で、セラピア」
カンムルとセラピアは、ジハードを挟む形でたっており、しかも無装備だ。万全な装備を整える聖教騎士とは相反して、不完全な装備をするジハードに寝巻き姿の二人。なんとも珍奇なものだろう。故に騎士数名は剣を構えながらも、肩を上下させていた。
だが、事これに関しちゃジハードにも言いたいことがある。
「カンムルはまだしも、お前はシルトレさんのそばにいろよ」
戦闘能力が飛躍的高いカンムルは、騎士相手に遅れをとるはずは無いが、セラピアは戦闘力皆無に等しい筈。
気持ちは嬉しいが、危険な目には合わせたくない。
「爆炎剣」
「暴風剣」
「水流剣」
「土星剣」
ジハード達の会話を待つはずもなく、騎士達は各々魔技を発動──剣に属性が纏う。
「甘く見ないでちょうだい。私は兄さんより、遥かに強いわよ」
「今はそんな冗談を言ってる場合じゃ……」
ジハードは騎士達に細心の注意を払いながら、剣を中段に構え、強気なセラピアに心配をするも──
「冗談じゃないわよ。本気と書いてマジよ、兄さん」
「どんな言葉だよそれ」
「気にしなくていいわよ。まあ、見てれば分かるわ」
セラピアが数歩前に出ると、痺れを切らした一人の騎士は爆炎剣で空気を燃焼させ、蜃気楼を発生させながら駆ける。
「まずは、女! 貴様からだ!! 燃え果て朽ちるがいい」
「燃えるのはゴメンだけれど、萌え果てさせるのは魅力的ね」
「意味のわからない事を言うな。と言うか、俺が止める!」
ジハードが前に出ようとすれば、セラピアは手を水平に伸ばし拒む。
「言ったでしょ? 私は、今の兄さんよりは強いわ」
手のひらを広げると、影は一つの円となり、セラピアを囲う。
「貰ったぁぁあ!!」
間合いに入った騎士は頭上から剣を振り下ろさんと、跳躍し飛びかかる。
「何も渡さないわよ。影囲い」
セラピアを中心に展開されていた影がセラピアから離れ、広がり一気に騎士を取り囲む。
「……な、何だここは。く、暗い。女、貴様何をした!!」
ドーム状に形成された影の中、騒ぎ立てる騎士に背を向けセラピアは人差し指を天に突き立てる。
「ね?私は中々強いでしょ」
「強いでしょって……なにをしたんだ」
「ただの拘束術よ。殺してないわ。肉体的には……ね?」
スタスタと戻ってきては、何食わぬ顔でセラピアは言う。だが、その文言が気にならない訳が無いジハードは問うた。
「どう言う意味だ?」
「簡単よ。光をも食らう深い闇は、人の心を呑み込むの」と、影を指さすと聞こえてきたのは絶叫だった。
「誰だお前は……。離せ!離せ!止めろ、やめろぉおお!!」
「わはは!凄いのだ!!つぎは、わっちの番なのだよ!行くのだァァァ!」
「馬鹿が!一対一にならなきゃ怖くわない!悪いが、手加減はしない。一気に行くぞ!」
無防備で突っ走るカンムルに対し、五人が刃を向ける。
「でも殺しはしないのだ!」
「ぬかしてくれる!!」
地面に手を付き、細い足をしならせ両刃の剣を容易く破砕。
立て続けに、鎧へ掌をかざし──
「哨波!なのだ!」
「なっ!?鎧が大破した……だと?!」
カンムルはたった数秒で、騎士五人を無力化して見せた。
「ぐぬぬぬぬ!なぜ上手くいかない。終焉の巫女め。邪魔ばかりしおって!ええい!他二人はどうでも良い!無属性だけを狙え!物量戦だ」
ダリアの一声で、騎士達は統一された動きを見せ、迅速に散開をした。
「珍妙な術を使うにしろ、隙を見せなきゃいいだけよ」
「嘗められたものね。良いわ、貴方達には痛みより酷い屈辱を与えてあげる。覚悟しなさい」
「ははは。怖い怖い」
「悪いな嬢ちゃん。さっきの奴らみたいに上手くはいかねえよ。さあ、俺達と遊ぼうか」
「むう。わっちは、飽き飽きしたのだよぉお」
セラピア・カンムルを一五人づつほどが囲い視界を遮る中、騎士三〇人余りがジハードを取り囲む。
「無属性相手に人数多すぎだろ」
「馬鹿か。これはお前のためじゃない。万が一、包囲網がとかれた時の二人に対しての保険だよ。偶然、魔人を追い払えたからとて、調子にのるな」
馬鹿にされたものと思ったが、騎士の言葉は的を射ていた。
それにこんな人数を一人で相手に出来るはずもない。
──いや、そうじゃない。
大人数を相手にしようと考えているから駄目なんだ。これだけの人数が居ても、前にいるのはせいぜい七人。
加えて、一人を相手に七人同時に攻撃なんか出来るはずがない。つまり、攻撃先を見極め的確対応すれば倒せずとも突破は可能。あとは、属性に対しての対処だが、これも仲間討ちが有り得る間合い故に、全開では使えないに違いない。
ジハードは解を出すと、冷や汗を垂らしながらも薄ら笑みを浮かべた。
「良くも悪くも、クルス達のお陰か」
囮にされたり、毎回窮地に追いやられていた経験がジハードに知識を与えていたのだ。
「何を一人でボソボソと!!自分の立場を理解しろや!!」
「十分に理解しているさ」
振り下ろされた剣を真横に躱し、地を叩いた剣の平を剣で叩き飛ばした。
「なっ!?」
甲高い音と共に騎士の手から離れ宙で回り、離れた場所で突き刺さる。
騒然とする中で、ジハードは剣を構えて言った。
「お前らこそ今ある状況を理解しろ。群れた犬より、一匹の獅子はつえー事、証明してやるよ」




