聖騎士
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シルトレを連れて戻り、セラピアに紹介をしたのたが。嫌な顔することなく、むしろ丁寧に挨拶をし招き入れる姿は、理解力があって本当にジハードは助かっていた。歓迎ムードを漂わせ、昨晩は二人で夜ご飯を作っていた程だ。
カンムルは、相変わらず元気がいい笑顔を絶やさず部屋の明かり以上の明るさで包み込んでいた。
それから半日程度、時間が過ぎ食卓を囲い四人で朝食を食べている頃──
「これはなんなのだ!?」
「これはね、カンムルちゃん。コッコ鳥の卵を、バラ肉と一緒に焼いた目玉焼きよ」
「ぉお!! 月みたいなのだな!!」
和気あいあいとした会話が静かな村に流れる中、先程から口数が少なかったセラピアは、箸を置きジハードの瞳を見つめた。
「兄さん、話しているとこゴメン。誰か来るわ」
「誰だ?こんな所に」
地図にもない村へ来る人なんか、もう数年はみていない。山を迷って辿り着けるような優しい場所にもないし。
「これは……そうね。マントの刺繍──女神フレイルが施されている辺りを見るに、聖騎士よ」
「聖騎士?」
カンムルとランバートへ入ろうとした際に阻止された事を思い出しながら問う。
「ええ。皇帝に絶対的な忠誠を誓う帝国騎士と女神フレイルに絶対的な忠誠を誓う聖騎士が居るのよ」
「つまり、二つの勢力が存在してるってことか?なんの為に」
「表上では皆、皇帝を支持しているわ。あくまでも、表上は……ね。簡単に言えば、掲げるモノが違うのよ」
平坦と、別段焦る様子なくセラピアは質問に対し、間を空けることなく答えてゆく。
「掲げるモノ?」
「そうよ」
シルトレは気を利かしてか、はしゃぐカンムルの口を布巾で拭きながら相手をしていた。
「あら、おかしいわね……。汚れが取れないわ」
「貸してみるのだ!」
「取れたわ。ゴメンなさいね、下手くそで」
「シルトレは悪くないのだよ!」
なるほど。属性保有者が触っていれば間接的だとしても、触ることを許さないらしい。カンムルの優しさとシルトレの暖かさを耳を通し感じながら、目はセラピアと視線をまじ合わせる。
「皇帝が人の世に法を作り、未来を歩ませるなら。聖堂教会最高指導者・教皇は神の訓が人を導き、レールの道を歩ませる。そう言う考えかしら」
「人が人の世を歩く為の力を与える皇帝と、神が人の未来を決めていると考える教皇か。なるほど──似ているようで、全く違う。それに仕える聖騎士が何たってこんな──いや違うな」
大凡の察しは付いた。きっと、昨日の事が関係しているのだろう。魔王の眷属を逃がしたんだ、その是非を問う為に。
ジハードはセラピアから目を逸らし、壁に立て掛けていた剣の柄に手を伸ばす。
「貴様様、どうしたのだ? そんな怖い顔をして」
「何もないよ。カンムル、お前はシルトレさんと寝室に。セラピア、お前もだ」
「私も兄さんと」
「駄目だ。何があるか分からない以上、大切な家族を危険に」
「大切な、家族……」
「なんでその言葉で残念そうにしてるんだ」
呆れたジハードの目を、表情を変え真面目な様子をうかべるセラピアは見つめた。
「──でも気をつけてよ。今や聖堂教会の連中は巫覡の一族を目の敵にしているのが目立つわ」
「そりゃ、また何でだ」
「…………時が来たら話すわ」
「時が来たらって。なんか含みのある言い方だな」
そんな会話をしながら、短時間で付けれる装備だけを整え扉の前に立つ。
「いいな? 絶対に危害を加えてはだめだ。特にカンムル。絶対に殺そうとするな」
「分かったのだ!」
手を挙げ、元気に承諾したカンムルを見て頷き外へ出る。そして暫くして彼等はやってきた。
砂煙をあげ、金属を擦らせ物々しい音を立てながら平和で静かなジハードの村に威圧と悪意を持ちながら。
「ジハード=バレット。巫覡の一族であり、聖戦の名を持つ者だな」
騎士達が足並みを揃え、隊列し道を開けた矢先、貫禄のある声音が鼓膜を叩いた。目を細め、嫌悪感を表に出しつつ、隊列奥から歩いてくる声の正体を睨みつける。
白髪が目立つ頭に、万全な装備をした騎士とは違いちゃんとした正装(真っ白い法衣)。
「ああ、そうだが。こんな場所に何の用だ」
「こんな場所に用はない」
唾を吐くような目で辺りを見渡し、男は薄ら笑いを浮かべながら確かにそう言った。大切な村を馬鹿にされた感じは、ジハードに憤怒を滾らせる。
柄を携えた右手には力がこもり始めた。
「要件があるのは、お前だ。ジハード」
「人に指をさすなよ。お偉いさんなら、それぐらいの事を」
「貴様! ダリア公爵様に向かって、なんたる無礼を」
剣を抜こうとする、白銀の鎧を纏った騎士に対しダリアは右手を上げ御する。
「気にするな。子供の戯れだろう。お前には皇帝陛下・ジルハルド様から来るように命令がくだっている」
このダリアと呼ばれた男は、聖堂教会とは関係がないのだろうか。セラピアの言葉を辿りながら、自分なりに考察を練るジハード。
「嫌だと、答えたら?」
「簡単な事よ」と、ダリア公爵とやらが右手を下げると、待ってましたと言わんばかりに騎士達は鞘走らせる。
「武力を持ってお前の答えに応えるさ。故に静かに従うのを勧めるが?」
「武力って。お前達にとって、俺は客人なんだろ? 横暴すぎないかね」
「客人? くヒヒヒ。自惚れるなよ無属性。女神フレイル様を救うのは我等だ。いくらでも言いようがあるんだよ、こっちは」
人に頼むような態度は一切なく。どちらかと言えば、攻撃的な口調を行使するダリアに怒りを覚えるのは仕方がないだろ。
ジハードにとって家族は何よりも大切な存在だ。脅されれば腹が立つ。それも一国を統べる皇帝の側近である大臣がだ。
「大人しくダリア公爵様に従え。で、なければお前の大切な人も場所もいよいよ無くなるぞ? 燃やし尽くしてな?」
一人の騎士は五本の指先から、眼球ほどの火の玉を出現させた。
「お前!! 俺の妹に、村に手を出してみろよ!?地の果てまで追いかけて、絶対に皮をはぎ殺してやる」
語気を荒らげ叫ぶが、それ以上の嘲笑と鎧が軋む音が声をかき消す。
「手始めに、あの建物から燃やしてやるわ」
戸建てに手を翳し、火の玉はより一層熱を迸らせ、光を増す。
だが、そんな時だった。
「ぐあぁぁぁあ……ッ!!」
嘲笑を消し飛ばす程の絶叫が村に響き渡った。
村を燃やすと脅した騎士の腕が体から離れ、鮮血で弧を描きながらドサリと地に落ちる。辺りが騒然とし、目の前大臣すら言葉を失う程の事態。
「カンムル、お前何出てきてるんだよ。じっとしとけと言ったろ。それに」
「殺してないのだ」
血糊のついた手を払い、カンムルは変わらぬ笑顔を振りまく。
この細い腕で、小さい手で、あの頑丈な鎧ごと意図も簡単に。けれど、しかし──あのランブルの攻撃を受けきれるほどの力があるのなら、と納得をしながらも短く息を吐く。
「そうだが」
「貴様様は、言ったではないか。無意味な事はしちゃダメだって」
「なら、今の行為に意味は」
「だって、貴様様は宝物と言っていたのだ。この村が。それを壊すのは駄目なのだ。壊される嫌さは、わっちにも分かる」
カンムルはちゃんと理解していた。それに俺の事を思って。やはりこの子の本質は優しいんだ。
ありがとう。
「凄い救われたよ」
「ふむ?」
「全く。二人でなにイチャイチャしてるのよ」
「セラピア、お前まで外に」
「兄さんに任せてられないもの。それに言ったでしょ?正義の刃が振りかかるなら、私はその刃から兄さんを守るって」と、騎士達を指さすと彼ら全員が剣を抜いていた。
「お前等──聖教騎士団・アロンダイトに害をなすとは。それはつまり、世界に対しての叛逆。覚悟は出来ているのだろうな?」




