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76話 僕達は魔王を退ける

 地面に激突する事は無く僕は安室ちゃんの隣に着地した。


 体中が痛い……回復に努めたい。


「春来」


 僕の倒れそうな体を安室ちゃんが支えてくれる。腰を下ろしている僕の上半身を後ろから抱きしめていた。


「ただいま」


「無事でよかったぞ」


 目の前にはふーちゃんが魔王の連弾を防いでくれている。


「風神はどれくらい持ちそうかな?」


「もーそろそろ疲れる」


「じゃぁ、さくっと終わらせよう」


 女将さんの手には悠真の荷物が握られている。その中から悠真は剣を取り出した。鞘から抜いた剣は安室ちゃんより一回り小さい刀身を銀色に輝かせている。


「私は今から魔王を殺すだろう……」


 悠真の目に迷いは無さそうだ……僕とは住む世界が違うと思ってしまった。


「女将は木霊をそこら中に出してくれないかな」


 悠真の声を聞いて女将さんが庭中に小さなハニワっぽい表情をした一頭身の猫耳式神を展開する。


「桜ちゃんも私に力を貸して頂戴」


「分かったわ。でも、長くは使えないからね」


 悠真の頭からは狐耳が生えて尻尾が九本姿を現した。


「行ってくるね」


 そう言って悠真が魔王の隣に姿を現す。さっきとは違って剣を振り下ろし光が放たれた。


「危ないなぁ」


 魔王は悠真の光を躱した。射線上が剣で斬り付けた様に光に沿って切断されていく。悠真は火球を三個作りだし、魔王目掛けて撃ち放った。


 魔王も同じように黒い火球を展開して撃ち落とす。瞬きする間に悠真の姿が様々な所に現れていて魔王の攻撃は届いていない。


 式神の視界をジャックして視線の先に瞬間移動を繰り返しているのか……これは、悠真と相性がいい。


 魔王がふーちゃんに向かって掌を向けようとした時には既に悠真がふーちゃんの前に現れ光を放った。相手の心も読めているので何をしようとしているのか手に取る様に分かっている。


 魔王の黒い火球を切り裂き連続した爆発が周りに巻き起こる。魔王は腕を交差させて剣撃を防いでいた。


 その手には血が流れている……切断出来ない硬さを誇っているのかあの鱗は……先読みする如く悠真が魔王の手数を撃ち落とす。


 様々な方向から放たれる光に対応が出来ないらしく何度も魔王は血を流していた。


「どっちも本当の勇者なのかしら……」


「死になよ」


 悠真の冷たい声を認識した時には超至近距離で剣を振り下ろす瞬間だった。悠真の攻撃は近ければ近い程火力が上がる……この距離なら魔王も……自爆した。


 魔王が切られる前に自分を巻き込んで黒い火球を爆発させた。


 悠真は振り下ろす前に瞬間移動で躱す事に成功したが――九本の尻尾は消えてしまった。桜井さんを見ると汗を掻いていて疲弊している。これが九本目の活動限界。


「ごほっ、巻き込めると思ったんだけどなぁ……強く爆発し過ぎたか……流石に辛いわ」


「私はまだまだ元気だよ」


 魔王の攻撃はどれもが悠真にとって一撃必殺、それを女将さんと桜井さんの力でカバーしている。


 今はもう桜井さんの力は悠真に無いけど魔王も遠距離から切られて体中に傷を負っていて、自分の力でもダメージを負っている。


「甘く見てたわ、流石に出直そうかしら……」


「私が逃がすとでも?」


「そろそろ剣も限界なんじゃない?」


 悠真の手に握られている刀身はボロボロになっている……気付かなかった。


「魔王の力も完全じゃないし……ばいばい」


 薄っすらと背中に黒い何かが浮かび上がりゆっくりと実体化して漆黒の翼が姿を現した。その後にジャンプして飛び立つ。


「わたしは逃がさないよ」


 ふーちゃんが空に舞い上がり両腕には轟音鳴り響く風を帯びている。


 その光景は僕の目では天災にしか見えなかった。


 竜巻が咆哮の如くふーちゃんを中心に魔王目掛けて放たれる。空が割れて魔王を巻き込み打ち上げるが竜巻内部で爆発音が響いた。


「……ダメだったみたい」


 ふらふらと風に乗ってふーちゃんが地面に降り立つ。


「風神も疲れて無ければ行けたかもね」


「あれは撃つまでに時間が掛かる……皆を守りながらだと撃てない」


「私の剣もボロボロになってしまったね、でも皆が無事で本当に良かったよ春来も大丈夫?」


「大丈夫だよ、十分休めたからね」


 安室ちゃんが力強く僕を抱きしめてくれる……少し力が強いけど今は気にならない。ふーちゃんが僕に近づいてくると股の間に座ってもたれ掛ってきた。


「わたしも頑張ったよ」

「ふーちゃんもありがとね。悠真が来てくれなかったら僕は大変だったよ」

「私はいつでも駆け付けるからね」


 このイケメンはカッコいい……自然の流れでウィンクし様になっている。


「皆さんありがとうございました。私は天体に戻ります。旅館は自由に使って頂いて構いません」


「女将も本当に助かったよ」


「いえいえ、お役に立てて良かったですよ。式神は朝までは持つと思うので各部屋に一匹置いておきますね」


 そう言って女将さんは去って行った……。


「もー、どうなるかと思ったわよ。悠真は直ぐにやられちゃうし勇者くんは空高く打ち上げられるし」


 桜さんが肩で呼吸をしながら呟いている。九本の尻尾を維持するのがどれだけ大変か見ていて分かる。


「桜ちゃんの力が無かったら大変な事になっていたね。それよりも」


 花菱さんの元に悠真は駆け寄った。


「燈ちゃん本当にありがとね」


「はい……よかったです……」


 花菱さんが泣いて悠真に抱き着いていた。自然の流れで悠真も腕を後ろに回して抱きしめる。


「お兄様……この人達は頼りになりますね」


「うん。春来さんと悠真さんはとっても凄いんだよ。俺達もお手伝い出来れば良かったけど……」


「君たちが無事ならそれでいいんだよ」


 悠真が薄い緑色の髪を撫でながら答えていた。


「お兄ちゃん、もう疲れたからお部屋に行こ?」


「莉子も心配し過ぎて疲れました……」


 ふーちゃんは特に頑張ってくれたからね。本当にありがとう。


「旅館は自由に使って良いって言ってたから休もうか、私は部屋に戻るよ。風神は……こっちの部屋に来ることは無いし春来に頼んでもいいかな?」


「ふーちゃんはいいけど……あの剣は何?」


「内緒だよ」


 謎多き勇者だ。


 ふーちゃんの事は快く承諾しよう。さて、部屋に戻ろうか。僕達は各々の部屋に戻って行った。それにしても突然来訪した魔王はどういう存在なんだろうか、半壊した天体がどうなっているのかも気になる。


 しかし、知る術は無い。僕も疲れは感じているので休みたいな……部屋に戻ると布団を敷いた、当初の予定通り布団は二組しかないので近くの式神に尋ねると付いて来いとジェスチャーしているように見えるのでついて行こう。


「ふーちゃんは布団で休んでていいからね。安室ちゃんものんびりしてて」


「はーい」


「分かったです」


 さて、僕は式神の後をくっついて旅館内を歩く……ん?


 遠いけどアレは花菱さんと紗愛さんかな。花菱さんが頭を下げている……何かお礼してるのかな?


 その後に、紗愛さんが何やら応援するようにガッツポーズを取っている? 二人は仲良しさんだなぁ。


 そんな事を考えていると式神が僕の足をちょこちょこと押している。


 あぁ、ここの押し入れに予備の布団が入っているのか。僕はそっと開けると一組の布団を取り出した。


 布団を抱えて僕は自分の部屋に戻る、花菱さん達が居た所を見ると花菱さんが一人で悠真の部屋に入っていくのが見えた。


 足元の式神が正方形の何かを持っている二人の邪魔はしないようにしよう。


 僕は部屋に戻るとすやすやとふーちゃんが寝息を立てている……。


「寝ちゃったです」


 安室ちゃんが小声で呟く。丁度真ん中が空いていたので持ってきた布団を敷いた。


「今日は色んな事があったね……」


「春来頑張ってた。凄かった」


「あはは、それはありがとう」


「莉子はとても心配した……ちゃんと春来は莉子達を守ってくれました」


 布団の上で座っていた僕の頭を撫でる。小さい手で撫でられるのは気恥ずかしい、よーく考えると撫でる事はあっても撫でられる経験は少ないなぁ。


「僕は汗を流してくるね」


 大浴場もあるが各部屋にはちゃんとお風呂も完備されているので軽く入ろう、僕は服を脱いだ。四畳分のシャワースペースに二畳くらいの浴槽がありとても快適に使える。


 魔王か……シャワーでお湯を出しながら僕は考える。


 あの魔王がまた現れたら僕に何が出来るんだろうか。悠真の光を放つ攻撃……前は自分の拳を使っていた。そして今回は剣を使っている。


 伝説の光の攻撃は飛ぶ斬撃だったんだなぁ、近ければ近い程に攻撃は強くなる。僕にそんな事は出来ないので頭を悩ませる……頭にシャンプーを付けて洗い始めた。


 目を閉じて考える。僕は空が飛べないのでまた今日の様に打ち上げられたらどうしようもない。なんか声が聞こえたので僕は大丈夫だよと言った、すると任せてと声が聞こえる。任せる?


「もしかして安室ちゃんいる?」


「いるよ?」


「あ、あれ? どうして居るのかな……」


「お手伝いするけど大丈夫だよね? って聞いたら大丈夫だよって春来は言った」


 考え事をしていたので僕は気づかなかった。空返事をしている……。


「あのー、安室ちゃん? 僕は目を閉じてるけど安室ちゃんは服を着てるよね?」


「服を来てお風呂に入る習慣があるの?」


 何だかこのやり取りした記憶があるなぁ。咲夜さんそういう事か! こういう事なのか!


「僕としては恥ずかしいんだけど?」


「莉子に任せてください! 妹としてちゃんと洗います! 莉子は器用なのでお任せあれ」


 僕は目を開ける事なくお風呂を出る事となった。二人で入った浴槽は広くて本当に助かった。


 あと、僕に妹は居ない。

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