73話 僕達は妖狐に癒される
桜井さんの部屋だけは一味違った。僕達が向かうと扉は開かれており拒むなんて文字は無いと主張している。
「桜いる? 莉子だぞー」
「いらっしゃーい。莉子ちゃん入っておいでー」
僕達は安室ちゃんを先頭に足を踏み入れた。
「ねぇねぇ見てみて莉子ちゃん。このブラ可愛くない?」
「可愛いと思うぞ!」
「……」
何を見たのかは詳しく言わないが上半身を露わにした桜井さんが居たそうな……。
「ちょっと莉子ちゃん。そっちの勇者が居るなんて聞いてない!」
「あ! 春来も居るぞ!」
「安室ちゃん遅いです。あとすみません、僕も声をあげれば良かったです」
「うーん。まぁいいわ。減るもんじゃないし」
とてもオープンな方でした。ふぅ、僕も悠真の様に襲われるかと思った。
「で? どうだった? 桜の下着姿は」
「あ、それ聞きます?」
一瞬しか見えていないけど、とても女性らしいというか。僕が最近見たのは大和先輩で……えーっと、比べたら先輩に悪いな。少し落ち着こう。
そうだ、単純に女性の体として視点を変えよう。相対的では無く、絶対的に見よう。とても大人っぽい女性だ! それ以上でもそれ以下でも無くそう判断しよう。
髪型もゆるふわパーマって奴かな、とても似合ってるね。桜井さんは瞳さんより背は低いけどスタイルが結構良いからそうだな……下着の宣伝にはとても良いかもしれない。あれ? 桜井さんに尻尾が八本生えているように見えるってことは?
「あら、こっちの勇者さんは素直ないい子なのかな? 桜は少しだけ気に入りました」
「心を読まないでください」
「もふもふだな」
安室ちゃんも気が付いたら抱き着いているし……えーっと。どうしよう。
「勇者くんも触る?」
にゃんたが八匹……とても魅力的である。
「桜はその……にゃんた? 猫かな? そっちの方が気になるかな」
「尻尾の数減らしてください」
「ダメだぞ! 尻尾を減らすのはダメだぞ!」
「安室ちゃん? ここに来た趣旨を思い出してくれると僕は助かるんだけど」
あ、桜井さんが尻尾を減らした。どんどん減っていく。とうとう一本になった。
「むぅ。しかたない。桜の先祖返りってどんな力なの?」
「ふふふー。莉子ちゃん気になるのね。仕方ないなぁ」
僕も気になる。尻尾の数で力が変わるなんて初めて見た。それに、勇者である悠真を簡単に倒していたし……。
「今回は莉子ちゃんの可愛さに免じて特別に二人に教えてあげるからね? 特別に!」
「ありがとうございます」
僕はとってもわくわくしている。
「まずは一本目ね。これを出すときはなんか耳も生えちゃうのよね」
「桜可愛いぞ!」
「ありがと莉子ちゃん」
そう言って、一本の尻尾と狐耳がゆっくりと現れて実体化した。大和先輩が悠真と戦っている時の角みたいだな。あっちは化け猫の力でそう見えていたのかもしれない。
「でね、この一本だとそうね。これとか見ててね」
未開封のペットボトルを指さした。その瞬間ゆっくりと宙に浮き一回転した。
「それ炭酸ですよね」
「あー、燈のだわ。まぁ、いっか。これくらいの重さの物を持ち上げきれます! これより重いと動かせません!」
想像以上に軽い物しか動かせない事に驚いた。だから、ビー玉を最初に操っていたのか。
「次ね。ちょっと待っててよ」
そう言って桜井さんは二本目の尻尾をだして恐らく花菱さんの飲みかけのペットボトルと空のペットボトルを二本――合計三本のペットボトルを宙に浮かせた。
「一本の尻尾だと一個しか持ち上げられないのよね。そして、二本になると! 最大三つまで持ち上げられます。ただし、持てる重さは合計で一本の時くらいしか持てないのよね」
自由に操れる数が増えるがとても面倒な力に感じる。最大重量が限られているならそんなに重い物を持ち上げきれない。
「次に行くわよ? 莉子ちゃんビックリしないでね?」
「莉子です?」
桜井さんの尻尾が三本になると安室ちゃんが宙に浮いて桜井さんの御膝元にちょこんと移動した。
「凄いです! 空が飛べます!」
「三本になると私の腕力で持ち上げきれるなら操る事が出来るわ! 莉子ちゃんは小さくて可愛いから持ち上げきれたわね」
物を持ち上げる重量を三本目で増幅させているのは凄い。一見地味に見えるが痒いところに手が届く範囲が広がっている。緊急事態でも安室さんくらいなら自由に動かす事が出来るのは強力だ。筋トレすれば上限が上がるんだろうけど……桜井さんが筋トレをしている様子は想像できない。
「んで四本になるとほら」
桜井さんの掌に火球が現れた。悠真に投げつけたサイズよりも小さく安全な感じになっている。
「最大三つの火球を生み出せるわ! 原理は知らないけど何か出来るのよ。大きいのも作れるんだけど疲れちゃうのよね」
「めちゃくちゃ強いじゃないですか」
悠真の感想では野球ボールくらいの大きさでふーちゃんの一撃よりは軽い。この火球の大きさをもっと大きくしたら強大な力になると思う。
「でも、疲れちゃうのよ? 小さい火球で花火とかには便利よ? 少し風が強くても花火出来るんだもの」
「便利な先祖返りですね。でも、疲れるってやっぱり大変なんですよね?」
「そうなのよー。でも、次が不思議なのよね。莉子ちゃんちょっと離れててね」
「分かった!」
安室ちゃんは元居た自分の位置に移動して桜井さんの尻尾が五本になった。もふもふが増える様子は見ていて触りたい衝動に駆られる。
「この五本目は何て言うのかな? 第六感って言うのかな? 嫌だなーって思うのよね。相手の悪意に反応しているのかしら? 経験上先祖返りの遠距離攻撃には対応出来るわよ」
「何となく嫌な事が分かって危機を回避できるみたいな感じですか?」
僕としては心当たりが一つだけある。初めて先祖返りの力――勇者の力を使っていると周りの先祖返りに対してイライラするような感覚。あんな感じで悪意に敏感になる事が想像出来る。
「まぁ、なんか便利な力ね。次が面白いわよ」
そう言って尻尾が六本になった。すると……ん? ゆっくりと立ち上がり僕に近づいてくる。
「ぎゅ」
「桜井さん? どうして急に抱き着く……」
体の力が抜ける気がする。いや、抜けている。後ろに倒れそうになるのを桜井さんが支えていた。
「どうかな? 桜の抱き心地は? って冗談よ。六本目だと相手に触れると元気を奪えるらしいわ」
「それって抱き着く必要あったんですか?」
「ちょっとしたご褒美よ!」
「莉子も抱き着く!」
安室ちゃん重い……いや、重いというのは僕の体が怠くてそう感じているだけで、実際の安室ちゃんはめちゃくちゃ軽い。
「安室ちゃん。少し離れてくれないと苦しいです」
「むむ。わかった!」
先祖返りの力を強めよう。僕ならすぐに回復できるはずだ。
「特別に教えてあげてるから少しくらい元気頂戴」
「少しだけですからね。こんなに疲れるんですね」
「桜は元気だけどね。勇者くんのお陰だね」
さっきよりも本当に元気に見える。相手の体力を自分の物に出来る力かな、敵を倒せば倒す程自分の力に出来るのは強い。倒し続ける限り持久戦に有利というのは凄いと思う。
「それで七本目は相手の視界を共有できます! 流石に距離があると映像が乱れるんだけど……テレビで他の人の視界を見ている感覚よね?」
「おぉ、莉子が見えるぞ! これが桜の視界か」
「他人にも共有出来るんですね」
相手の監視や情報収集に優れている力だ。この力は使い方次第で犯罪な気がする。
「八本目は言わなくてもいいわよね? 飛ばして最後にしましょうか、桜の尻尾は最大九本なの」
「最後……気になります」
「莉子ちゃん? 驚かないでね?」
「二回目だな! 分かったぞ!」
桜井さんが目を瞑って九本目の尻尾が現れた。そして不思議な事が起きてしまった、まさかこんな事になるなんて……。
安室ちゃんに狐耳が生えて尻尾が九本現れてしまった。めちゃくちゃ可愛い尻尾も触りたい。
「なんか喋ってないのに心の声が聞こえる……春来いいよ? 触ってみて」
そう言って僕の体が宙に浮いた。これは妖狐の先祖返り――三本目の自身の腕力に相当する重さを自由に扱える。ドワーフの先祖返りを持つ安室ちゃんの腕力は相当強い、これは実際に腕相撲した僕が知っている。そりゃ僕の体を軽々持ち上げる程……。
「莉子ちゃん? 見かけに寄らず力持ちなのね。桜が驚かされるとは思わなかったわ」
「多分桜も上げきれるぞ?」
「わぁ、ほんとだ。莉子ちゃんすごーい」
僕を九本の尻尾の前に移動させて桜井さんを宙に浮かせてゆっくりくるくると回していた。それにしてもこの尻尾……めちゃくちゃ触り心地が良いな、安室ちゃんありがとう。ある意味萌え萌えボディです。
「やっぱり春来は莉子にメロメロだな?」
「ははは、返す言葉が今は無いね」
薄っすらと安室ちゃんの尻尾が姿を消して無くなると僕達は自由に動けるようになった。
「これが桜の先祖返りだよ。九本目はマジで疲れるから全然やらないんだけどね、今はもう力が使えそうにないわ」
「ご丁寧にありがとうございました」
「それにしても、桜の下着を盗んだのは疑っているからね」
全然そんな風には見えない。もしかして桜井さんの先祖返りを使えば犯人が分かっているのでは? だって心読めばいいだけだよね。あの場では確実に八本の尻尾を出していた。なので、桜井さんは何かを知っているはずだ。
小さな丸い半透明のハニワのような顔をした式神が紙を手に足元に現れた。その内容を見るとお食事の用意が出来たらしい。
「お、ごっはん! 莉子ちゃん行きましょ」
「行くです」
どっちも自由だなぁ。
ブックマーク70突破です!ありがとね。
評価してくれてる方も増えてるので感謝です!
やったー。




