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幼馴染は雪女で同級生は吸血鬼 ~先祖返りと青春の世界~  作者: Yuhきりしま
一章:人を噛む吸血鬼は嫌いですか?
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6話 僕は先輩に呼び出される

 とぼとぼと教室に戻り、午後の授業を受ける。集中できない。


 少し、いや。とても納得いかない。そりゃ、僕が大人げなく力をだしたのが原因ではあるけれども、ドワーフ系女子恐ろしい。あの力は恐らく同じクラスの誰よりも力が強いに違いない。


 それに、ゆっくりと力を出していた。自分の力もコントロールしているに違いない。


 逆に、一人で道を歩いていても心配する必要は無いかもしれない。安室ちゃんには文字通り強い力がある。それがあれば安心だ。


 そんな事を考えながら、僕はぼけーっと空を見る。今日も朝から青空でとても良い、午前中殆ど寝ていたのでとても気分もいい。


 そっと、せっちゃんを見ると、目が合った後に目を逸らされた。次に人噛さんを見ると此方に気付いて手を振ってくれた。


 少し顔がにやけそうになるが、そっと我慢。


 そう、僕は何やら危機的状況に身を置いているらしい。せっちゃんとの絆が試される。


 そもそも、幼馴染ってだけで特にイベントは無いけれども。僕はそろそろ山を張る作業を開始しようと思う。いつもの様にそれっぽい所をメモに残す。


 学生の本文は学業だと思うけれども、青春だって今しかできない。と、僕は考える。


 マナーモードにしていた携帯が震えた。そっとポケットから取り出すと、学園長から連絡が来ていた。またバイトの話かと思ったがそうではない。


 よく見ると学園長の娘さんからだった。僕と同じバイト先の先輩。大和黒猫先輩だった。そして、内容は今日の放課後に屋上へ来いとの事。


 僕はボコボコにされるのだろうか……やや、いや。とても不安である。あの先輩は強引で僕は苦手だ。


 分かりやすく僕の肩は落ちる。机に両肩がついてしまった、午後ももう寝てしまおう。


 僕はゆっくりと思考する、昨日のバイトで失敗しただろうか。うーん。何も思いつかない。


 もしかして、安室ちゃんを泣かせた場面を見られていたのだろうか。行きたくない……。


 僕は授業も曖昧に受けて時間を潰した。皆は真似しないで欲しい、絶対に授業は先生の言葉を聞いて大切な所をメモしましょう。


 出来る事ならテストの傾向を掴んで山を張りましょう。いや、ちがう。とうとう放課後だ。


 帰りの支度をする、カバンに荷物を詰めて教室の外に出ようとすると、せっちゃんが話しかけてきた。


「今日はもう帰るの?」


「んー、帰るけどー、ちょっと寄り道」


「そう、また人噛さん?」


「違う違う」


「ふーん、暇だったら一緒に帰ろうかと思ったんだけど。忙しいなら大丈夫。あ、知ってる? 春来くん。昨日の夜……深夜一時くらい? 近くで事件があったって。確か、火を出す感じの先祖返りで火事とかー。気をつけてよ?」


「おーう、任せろ。たとえ火の中水の中、僕はちゃんと帰ってくるよ」


「……またね」


 せっちゃんはカバンを手に持って教室を出ていく。昨日久々に一緒に帰ったのに、今日も一緒に帰りたい……なにか用があったのかな。


 少しだけ心配になる、心の片隅にそっと今は置いておこう。それより、優先するべきは屋上だ。


 重い脚を無理やり動かして階段へ向かう、精神と肉体は連結していると思う。必死の思いで階段に着いた。


 僕は階段を上り、屋上への扉を開けた。すると、そこには一人の女性が立っている。


「遅いぞ」


「すみません」


「まぁ、近くに座りなよ」


 僕は言われるままに近くへ座った。目の前には大和先輩が立っている。一つ学年が上で先輩だ、それに普段お世話になっている。


 腰まで長い黒髪は美しく、前髪は方耳にかけている。きりっとした目が印象的で何処か雰囲気が人噛さんに近い気がしなくもない。


「ところで、春来。私がここに呼び出した件について心当たりは?」


 眉間に皺が寄っている、年上の先輩に怒られる後輩。こういう図は嫌いではない、だが相手は大和先輩かぁ。僕はとても苦手だ。


 色々あったからこそ苦手だ。今はとてもお世話になっているので頭が上がらない。


「えっとー、心当たりですよね。あると言えばある。無いといえば無い。そんな感じなんですけど、えっとー。まずはそうですね」


「で――あるのかしら?」


「昨日、力を使った事でしょうか?」


「正解。あと今日も使ってるわよね?」


「不可抗力と言いますか……男には譲れないものが時にあるのです」


「小さな女の子を泣かせるのが男の譲れないもの?」


 この先輩は今日の出来事も全て知っている、なんてことだ。もう広まっていたのか。僕は弁明する事も出来ずに黙るしかない。


 そして、この大和先輩は僕の先祖返りを知っている。


 他に学園長も知っているので、この学園では二人しかいない。そして、僕の先祖返りに大和先輩はとても大反対だった。


 かといってご先祖様を選べる訳でもないので、主に僕が力を使う事に関して反対している。


「出来る事なら春来には、あんまり力を使わずに学園生活を過ごして欲しいのだけれども」


「大和先輩、男には全力で逃げないといけない時があるのです」


「その逃げる相手のえっと、人噛瞳さん? と今度デートに行くのよね?」


「……」


 何故その事を、僕の口から一度だって言った事は……あったな。僕はせっちゃんに言ってしまった。


 その時に聞かれていた?


 それとも、せっちゃんから聞いた?


 この先輩には隠し事が通じない。


「あの子は吸血鬼の先祖返りよね? 私は少し心配しているわ。今までに無い大物だからこそ、何が起きるか分からない」


「だ、大丈夫ですよ。僕は吸血鬼なんかにやられたりしませんし」


「春来の場合はコントロールが出来ているけれども、出力を間違うと大変な事になると思うの。それに、身近な生徒とトラブルになるのは避けた方がいいと思うし、ここは私に任せてくれない?」


「大和先輩の様子を見ていると人噛さんはやばいんですか?」



 僕はいつも冷静で的確な指示を出してくれる大和先輩と長く付き合っていて分かる。この人が基本、僕を心配する事はあまりない。


 その彼女が僕の心配をしている……人噛さんとのトラブルを危惧している。先祖返りは、ゆっくりと体に変化が起き大抵は落ち着く。


 しかし、自分で制御できない場合も発生する。


 その場合は、とある組織が沈静化を測るのが世の中の常識となっていた。



「老婆心ながらの説得はしたつもりだけれども、何かあったら直ぐに連絡しなさい」


「先輩はまだまだ若いですよ」


「……老婆心は必要以上にって意味があってだな?」


「や、大和先輩は可愛いですよ」


「話を無理やり逸らすな」


「ごめんなさい」


「とてもとても、私は心配しているのです。力の出し過ぎで人噛さんも私同様、傷物にされたらどうしようって。春来、慣れて無いのかちょっと強引な所があるからね? まぁ、私は少し強引な感じでも嫌いじゃないわよ?」


「あれー? 大和先輩何やら怪しいというか不穏な事を口走ってません? もし誰かに聞かれたら変な誤解を生みかねないといいますか」


「そうね、誤解は良くないわよね。アレは、三年前だったかしら? 春来が無理やり私の服を」


「大和先輩? ちょっと待ってください。変な出だしで話さないでください。そんな色っぽいイベントはありません。主に僕がボコボコにされた記憶しかないです」


「まぁ、そうかもしれないな。だが、それもまた愛情表現かもしれん」


「絶対憂さ晴らしですよね? 愛情表現なら僕はもっと、そうですね。ラブラブな感じがいいです」


「ラブラブ? こんな風にか?」


 僕の目の前まで歩いて腰を下ろした。髪の毛が地面に着きそうになっていたが、ギリギリ着かない。僕と目線が合うと大和先輩の顔が僕に近づく、その時に大和先輩の右腕が僕の後頭部をがっちり掴んでいるから逃げる事は出来ない。


 そして、今までに無い距離で大和先輩の顔を見る事になったとても驚く。


 もう目と鼻の先っていうか、鼻がぶつかった。あれ? このまま初キッスを奪われる? そんな危機感とは裏腹に、大和先輩の顔が離れて言った。


「とても衝撃的でした。襲われるかと思いました」


「何を大げさな、いつもやっているではないか」


「え? いつも?」


 僕は大和先輩の顔を此処まで近く見たことが一度だってあっただろうか。


 いや、無い。絶対にない。もしあるならこの先輩の顔が絶対毎度夢に出てくるはずだ。


「可愛い後輩にちょっかいを出すのはここまでにしよう。私は本当に春来には学園内では平凡に生活して欲しいと思っているのだよ? それは本心だ。何より、周りの子と同じように学校を卒業する……それを私は見たい」


「大丈夫ですよ。大和先輩こそ僕の卒業式はちゃんと見に来てくださいよ。一年早く卒業しちゃうんでしょ?」


「あぁ、約束しよう。その変わり絶対に無茶しちゃだめだからな。今日はもう帰りなさい」


「お疲れ様でーす」


 僕はルンルン気分で階段を下りる、今日は暴力的な事が一切なく終わった。僕はとても気持ちがいい。


 それに、先輩の以外な一面を見る事も出来た。鼻がすこしぶつかっただけだが、超至近距離で大和先輩をこの目に焼き付ける事が出来たのだ。


 屋上に向かった時とは足取りが違う、めちゃ軽い。僕の足は超高速で階段を下りる。


 僕の心は軽い、明日は土曜日だしお休みだ。


 しかも、土曜日の次の日は日曜日でお休みだ。好きな事をして過ごす事が出来るのだ。とても、素晴らしい。僕は全力で寮に向かった。


 鍵を開けて、僕は我が家に入る。照明の電源を入れると明るい部屋がそこにはあった。服を脱いで洗濯機に放り込み、お湯を溜めた。


 お風呂は心を癒してくれる。先人の言葉だ、なので出来る限り湯舟に浸かる様にしている。


 僕は帰ってきてゆっくりと湯につかった。次は、食事だ。とはいえ、一人暮らしで自炊はとても面倒。洗い物も面倒……僕は炊飯器でお米を炊く準備を始めた。


 お米を研いで炊飯器にいれて正しい分量の水を加えてボタンを押すだけ。文明の力である。


「えーっと、お肉あったよね」


 僕は冷蔵庫に話しかけながらお肉を取り出した。そして、フライパンに油を敷いた。お肉を一切れ入れて焼き始める、両面焼けたらとりあえず、紙皿に移した。


 次に火を入れるお肉以降には味付けを施していく。塩と胡椒で荒く味付けをして焼く。お米が炊けたら、丼の底に炊きたてご飯を敷き詰めて上に焼いたお肉を乗っける。


 最後に焼肉のタレをぶっかけてとても簡単な肉丼が完成した。


 テレビを見ながら手作り肉丼を口に運ぶ、雑な味だが嫌いじゃない。僕はおちゃを飲みながら肉丼を完食した。


 僕が食べ終わるのと同時に、そとからにゃーと声が聞こえる。ベランダを開けるとにゃんたが座っていた。


「ちょっと待ってろー」


 紙皿に移していたお肉をレンジで少しだけ温める。そして食べやすい様にハサミで切り分けた。


 にゃんたは猫だから猫舌のはずだ、ふぅーっと吹いて熱を冷ます。ふと、温めた意味について少し考えるが気にしないことにした。


 猫様を思うなら次から冷えた飯にしよう。ベランダから部屋に入りちょこんと座るにゃんたの前に紙皿を差し出した。匂いをくんくんと嗅ぐと一切れずつ口に入れる。


 ちょこちょこと食べる様子が可愛い。全て食べ終わるとにゃんと鳴く。


 僕はソファーに座って側をぽんぽんと叩くと、理解しているのか隣に座ってくれた。そのまま首の下を撫でると気持ちよさそうな顔をする。


 そっと抱きかかえて僕はソファーで横なり、にゃんたを胸に乗せた。頭を撫でながら鼻を近づける。猫の世界ではこれが挨拶らしい。



「にゃんたは可愛いなぁ、そういえば今日はとっても怖い先輩に屋上に呼ばれたんよー。んでなー、今日は珍しく慎ましいというか、いつもはデカい態度なんだけど、忠告をしてくれただけだったよ心配なんかね? それに、めちゃくちゃ近くで顔をみて可愛いのなんのって」


 にゃんたの顔を撫でる、満足したような顔に見える。


「まぁ、にゃんたも可愛いけどなー。いつもは直ぐに暴言吐いたり暴力的で態度もデカい、でも本当に今日は慎ましい……ちなみに、にゃんた? 胸部が慎ましいのはいつも通りだからな?」


 がぶっと顎を甘噛みされたが、ぺろぺろと舐めてくれた。


「そこも含めて魅力的な頼れる先輩なんだけどね」


 僕はにゃんたをもふもふと満足すると開放した。少し、ゴロゴロとしてにゃんたはベランダから旅立った。

一章のヒロインが全員出ました!

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