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45話 僕と平で冷たくて堅い奴

 僕は大和先輩の元に駆け寄る。


「後輩くん、視界の隅で何やらいちゃついている様に見えたんだけど」


「気のせいですよ」


 僕が乱入したことで岩男が口を開く。


「お、観戦客だと思ってたぜ」


「先輩、何がどうなってるんですか?」


 とりあえず無視して、先輩に事情を尋ねる。


「こいつら、璃々愛を絶対に連れて行くって言うのよ? もうめんどくさい、それに私の事も楽園送りにするときたらか頭にきた。全滅よぼっこぼこにするわよ」


 血気盛んな先輩は何故か輝いている。


「あと、こいつら星相学園の手先らしいわ。遠いところからご苦労様って感じ、このごついのが通称ゴーレムでちっこい女の子が風神らしいわ」


「通称とかあるんですね」


 風神はぺこりとお辞儀する。礼儀正しい子かもしれない。


「で、帰ってくれないと……」


 そういう状況かぁ。


「うちらもボスに怒られちまうんでな。ま! 諦めて捕まってくれよ」


「いやいや、困ります。見逃してください」


 相手にも事情があるらしい。そりゃそうだよな、これが先祖返りで危険と判断された人物を捕まえる人達。


「そこの化け猫もちゃんとした組織として登録されていない。危険度はあっちにいるサキュバスよりも高い。なら、捕まえるしかないよな?」


 なるほど、正式じゃない僕達も異端扱いで楽園送り。とても分かりやすい。


「僕達はこれから正式に登録するんで逃がしてください」


「そういわれると困るんだけどよ、まぁ。楽園帰りで宜しく頼むわ」


 動きが速い訳じゃない。岩の塊が僕達を捕まえようとするも、距離を取れば躱せる。


「で、後輩くん? このでっかいやつに加えてちっこい子も居るんだけど……」


「先輩? 任せてください」


 僕は自信がある訳でもなく、慢心さえも無い。僕がどうにかする、どうにかしなきゃいけない。


 ここで頑張らないと皆が楽園に送られてしまう。僕達からすると降りかかる火の粉だ。当然の様に自分を守るため振り払わないと僕の日常が壊れる。


 初めに先輩にあった時を思い出す。確か先輩は、右足を一歩引いて左手を前に構える。


「おいおい、俺の鎧はちょっと堅いぞ?」


 その顔には一転の曇りのない自信。僕なんかよりも経験豊富で自身の力に絶対の信頼を置く証拠。


 僕は右腕を振りかぶり右足で地面を蹴る。腰を捻って体重を乗せ思いっきり壊す為に岩へ向かって振り下ろした。どんなに堅くてもどれだけ自分の拳を痛めようと構わない。この男の自信をへし折るイメージで振り切った。


 腹部の岩が粉砕し土埃が舞う、男は二メートル程後ろに飛ばされていた。


「まじかよ」


 男の驚く顔が痛快だった。


「春来……よくやった、今のうちに逃げよう」


 先輩は僕の左手を引いて璃々愛の方に走る。


「びっくりしたぜ、おい逃がすなよ」


 男の声が聞こえたが、この砂ぼこり……すぐには捕まえられないはず。


 そう思っていた瞬間、突風が砂ぼこりを吹き飛ばした。隣の女の子が分かったと口にだす。幼い声に僕は恐怖を覚えた。


「校舎に行きましょ」


 先輩に従い、僕は璃々愛を連れてついて行く。


「春来くんすげー。お姉さんは見てたよ」


「今は急ぎましょう。大和先輩このまま街に逃げるとか……」


「ダメよ。あの人たちは私とこの女の居場所は分かるはず。まずは校舎に隠れましょう」


 前に璃々愛と会った時に大和先輩には場所が分かっていた。信秀のおっさんが言ってた『天体』からの情報か……。


 僕達は校舎に入ったあと、階段を上り。適当に教室に入る。


「後輩くん手は大丈夫?」


「えぇ、今は痛くもなんともないです」


 僕の手は何故か痛くなかった。興奮していたのも影響していると思う、でもそれより自分がこんな事が出来るのに対して一番驚いていた。お姉さんに感謝しないといけないかもしれない。


「お姉さん、おまじないって僕を操ってたんですか?」


 教室で息を整えている途中で尋ねると思いも寄らない答えが返ってくる。


「ううん。学園長室であたしは言ったよね? 二度と魅了に掛からないって! 春来くんを魅了することは出来ないよん。あれは春来くんの力だよ。やったね!」


 身体能力の向上と圧倒的な回復力。大和先輩が壊せなかった鎧を破壊する程の力を僕は持っている……。


「嬉しい誤算ね。まさか春来がこんなに強いなんて」


「僕が一番驚いています」


 さて、どうしよう。校舎にあの二人も入ってくるはずだ。このままだと見つかるのも時間の問題……。


「あ、先輩? 先輩の力で僕達を見えないようにすることって出来ないですか?」


 僕達含めて認識を変えれば絶対に見つかる事は無い。このかくれんぼは必勝となる。


「やった事無いわね。どうしたらいいのかしら……」


 やった事が無いだけで出来るかもしれない。どうしよう、大まかな居場所は分かっていても階が分からないはずだ。しらみつぶしに教室を探していればここにも来る……。


 僕達は階段を一階上ったから二階にいる。下から探すなら次か……すぐにこの階にも来るだろう。


「大和先輩……ええっと、そうですね。あっ先輩ってロッカーになったじゃないですか?」


「えぇ、黒猫ちゃんロッカーだったの?」


「春来にはそう見えていたって話よ」


 僕が先祖返りについて聞いたとき実際に目の前で見た。アレは、触っても金属の触り心地で大和先輩だとは認識出来なかった。


 それなら、あの二人も見えなくて上の階に行ってくれるかもしれない。


「でもロッカーって……うーん。とりあえず試してみましょうか」


 僕達は黒板の隣にあるスペースに集まることにした。


「で、何で僕が真ん中なんですか?」


「いいじゃ~ん。両手に花って言うの? お得だね」


「変な所触ったら怒るから」


 先輩が怖い……とても怖い。でも、初めて試すので上手く行くか分からない。僕達は出来る限り体を密着させる。出入口の正反対の壁際に大和先輩、隣に僕で後ろからお姉さんが密着する。大和先輩と顔を向き合う様に抱き着いている。


「これそんなに密着する必要ある?」


「えー。だって相手にはロッカーに見えてるんでしょ? なら出来る限り固まったほうがコンパクトな感じで違和感ないんじゃない?」


 イメージでは、三人がギリギリ入れるロッカーで隠れていた。実際の僕達はただ、壁際で抱き着いているだけなのでとても変な感覚。


「足音が聞こえて来ました。音は聞こえるので黙りましょう」


 そう言って僕達三人は息を潜める。こつこつと足音がゆっくり近づく……。


 息を殺すと、微かな息遣いが聞こえる。正面に先輩の顔がある……くっついているので仕方ない。目が合うとぷいっと逸らされた。


 僕の背中には柔らかい二つの塊が押し付けられる。無理やり押し付けるようにお姉さんが手を回して僕と大和先輩を抱きしめている。


 お姉さんとは違って大和先輩はからほのかに優しい香りがする、この香りは確か桜の舞う通学路の時に似たような匂いがした。女の子の香りはこんなに違うんだと一人で感心する。


 ドアが横にスライドされる音が教室内に響く。僕は先輩の顔を見る……落ち着いている様子で大丈夫そうだ。


「あの野郎……どこに行きやがった?」


 教卓のしたや出入口のロッカーを開けた。中身を確認した後にゆっくりと僕達に足音は近づく。


 僕達の前で男が立ち止まる。すると、僕の手を掴んだ。


 ロッカーを開けるように手を引っ張られる。腕がお姉さんのおっぱいを押す。


 そのまま閉じるような動作で僕の手は大和先輩の胸に当たった。先輩の目が怖い。不可抗力です。


 そして、そのまま部屋から出ていく。ふぅー、僕達は見つからなかった。このまま三階に行くだろう。


「行っちゃったね! 作戦大成功!」


「先輩怖い目で僕を見ないでください」


「春来くん? 黒猫ちゃんのおっぱいの触り心地はどうだった?」


 おい、変な事を聞くな……。


「あー、分かるよ。うんうん。貧乳過ぎて分からなかった?」


「な、一応ちゃんとあるんだから。後輩くん? ちゃんと柔らかかったわよね?」


 この二人が僕の顔を見る……。


「いや、えっと……」


「いや? えっと?」


 先輩……僕の言葉を復唱しないでください。


「ちょっとしか当たってないんでよく分からないです」


「当たっても分からなくらいってさ。黒猫ちゃんドンマイ!」


「ふーん、そこまで言うならちゃんと確かめなさいよ」


 僕の手を掴んで自分の胸に押し当てる。ぷにっと柔らかくて掌に収まるような感触が妙に生々しい。というか、僕達は何をやってるんだろう。


「あ、黒猫ちゃん欲求不満なの? 後輩くんこれはチャンスだよ揉みしだきなさい」


 そういって僕の手の上にお姉さんは手を乗せて上から揉んでいた。


 あれ、これって人をダメにするというか癖になるというか。おっぱいって良いかも……。


 僕とお姉さんの手を払いのけて自分の胸を先輩は守った。


「ばっ、そこまでしていいって言ってない」


 先輩は耳まで真っ赤だった。


「春来くんどうだった?」


「癖になるっていうか凄いですね」


「黒猫ちゃん良かったねー」


「そこまでしていいって言ってないのに……」


 少し涙目に見えたけど今はそれどころじゃなかった。


「先輩、とりあえず場所を変えましょう。相手が探しきる前に移動することで見逃していると判断してくれると思います」


 僕は二人にそう言って、教室のドアをゆっくり開けた。男の歩いて行った方を覗くと人影は居ない。そっと胸を撫でおろし反対方向を見ると目の前には小柄な少女が立っていた。


「お兄ちゃん。みぃつけた」


 絶句……あと少しで叫びそうになった。

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