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幼馴染は雪女で同級生は吸血鬼 ~先祖返りと青春の世界~  作者: Yuhきりしま
一章:人を噛む吸血鬼は嫌いですか?
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4話 僕はデートの約束をする

「ってちょっと!?」


 僕はベランダを確認すると、そこには人噛瞳さんが立っていた。


「来ちゃった」


「健全な一男子としては、綺麗な女子が自宅に訪問するのは嬉しい。けど、急に来るのは如何な物かと思います」


「もしかして、お邪魔だった?」


 そう言って人噛さんは靴を脱いで僕の部屋に入る。自宅に女の子が入るなんて、せっちゃん以外初めてです。


「待ってください、人噛さん」


「あら、冬凍さんが入る訳じゃないのね? あ、猫ちゃん」


 人噛さんは横に寝転んでいたにゃんたを撫でる。目を開くと目の前に知らない人が居る、にゃんたは気づくと飛び起きた。そして、人噛さんから距離を取り様子を伺っている。


「人噛さんどうしてここに?」


「学園長に春来さんの事を尋ねたら教えてくれましたよ?」


「あの爺、僕のプライバシーはどうなってるんだ」


 僕は先祖学園の学園長とは見知った仲だ、というか色々とやっかいになっている。この部屋もタダで借りてるのでやや頭が上がらない気がしなくもない。


「で、人噛さんはどうして僕の部屋に来たんですか? ストーカーですか?」


「そうね、今日の私はストーカーと言っても過言ではないわね。気になる男の子の家を調べて押し掛ける」


「ですよね。これって警察を呼ぶ案件ですよね?」


「呼ぶの?」


「……呼びませんけど」


「ありがとう」


 人噛さんはにゃんたの座っていた所に腰を下ろした。制服姿の人噛さんは帰らずにその足で学園長の元へ向かい、部屋の明かりがつくのを待っていたのだろう。


「飼い猫かしら?」


 相変わらず人噛さんから距離を取るにゃんたを見ながら僕に尋ねた。


「いや、飼い猫……じゃないけどよく遊びに来てくれる猫だよ」


「そう、黒猫……可愛いわね」


「可愛いですよねー」


 僕はにゃんたを撫でると満足したのかベランダに足を運んで帰ってしまった。


「で――人噛さんどうしたんですか?」


「放課後の件はその……ごめんなさい」


「いえ、もう気にしてないですよ」


「それは良かった……でも、最近おかしいのよね。吸血鬼の先祖返りって言っても私は血を吸った事なんてないのよ?」


「は、はい。そうなんですねぇ」


 僕の声は少し震えていたかもしれない。夜の人噛さんの目を見ると少し紅色に見えた。これも吸血鬼ゆえなのだろうか、夜になると力が強まるとか?


「春来さん以外の人はあんまり魅力を感じないのよね。その……混ざりものというか、美味しくなさそうっていうか」


「やっぱり人噛さん僕を食べる気ですね。助けてください」


「ちょっと待って、食べないから。これはそうね、人生相談って訳でもないかもしれないけど……春来さんは何の先祖返りなんですか?」


 ベランダからは涼しい夜風が入り込む。僕の部屋の照明のせいかとても妖艶な表情に見えた。そして、人噛さんは僕に尋ねた。何の先祖返りか。僕は素直に答える事にする。


「僕のご先祖様は人間ですよ。他の種族の血が入っていない人間ですよ」


「そう……春来さんは純粋な人間だからなのかな? 胸が高鳴るというか……」


「それ、普通の男女が二人っきりで胸が高鳴るって恋だと思いますよね? でも、人噛さん僕を食べたいだけですよね?」


「食べないってば! それにしてもそうよね? もしかしたらこれは恋しているだけかもしれないわよね?」


 おおっと、これはもしかすると、僕に春が来たのか? 本当は春なのか? 食料では無く恋人として!?


「で、ええっと。人噛さんが僕を意識したのって指を怪我してからですよね?」


「んー。そうね、とても良い匂いというか。その……想像するだけで口の中が唾液まみれになるような」


「絶対に恋じゃないです。僕の血を舐めたいだけです」


「うーん。そうだとしたらとても春来さんには迷惑……掛けてるわよね?」


 美人が僕の家を尋ねてくれる、この血にありがとうと思う反面。


 恐怖を覚える、が、しかし。


 この血が無ければ人噛さんとこんなに話す事なんて……僕の頭の中で煩悩が溢れかえる。そして、僕が煩悩に勝てる訳もなく。


「いえ、迷惑じゃないですよ」


「そう、良かった」


 心底安心した表情の人噛さん。見ている僕もなんだか安心する、というか見ているだけで幸福感を得る。美人はお得だ、ずっと見ていたい。いや、待てよ? ここって二階だよな?


「そのー、人噛さん。ここ二階なんですけど、ベランダにはどうやって?」


「あぁ、そうよね。夜になると吸血鬼の力が強まるのか身体能力があがるの。ちょっと……ぴょんってね?」


 はにかむ顔も可愛いが、少し跳ぶだけで二階に忍び込む事が出来る。吸血鬼の力恐るべし、伝説級に珍しいだけはある。


「吸血鬼とは永く付き合っていかないといけないんだけど……正直な所、不安です。このまま本当に吸血鬼になって春来さんの血を吸って吸って吸い尽くすかもしれないと考えると」


「冗談でも辞めてください……」


 先祖返りの中でも思春期は一番力を発現する時期である。


 この思春期の間に自分の先祖返りと上手く付き合う方法を自分で悩まなくてはいけない。


 小さなころは少しの力しか発揮しないが大きくなると顕著に表れるパターンが存在する。


 となると、人噛さんもまた先祖返りに悩まされる一人なのだ。


「約束するわ。私は春来さんの血を吸わない、出来ればいいのだけれど友人として私の相談に乗って欲しいの」


「血を吸わないなら……分かりました。友人として相談に乗りましょう」


 小さい頃のせっちゃんを思い出す。彼女もまた、先祖返りに悩まされる一人だった。


「春来さんはその、私が言うのもなんだけど体が強い様だし。私から逃げきれたのは正直びっくりしたわよ?」


「ははは……足だけは昔から早いので」


「そうなのね。それで相談の内容は暫くの間でいいのだけれど、私と過ごしてくれないかしら? その……この欲求がどれくらいコントロール出来るのか自分で試したいの」


「す、過ごす? それってどうしたらいいのですか!?」


「そうね……とりあえず私は隣に住む事にするわ。あと、今度の休みにお出掛けしましょう」


「それってデートですか!?」


「デート……そうね、デートね」


 僕は人噛さんと想像していた展開とは違うが、デートする約束をした。そう、女の子とデートだ。


「じゃあ、要は済んだから帰るわね」


 そう言って人噛さんは、ベランダの靴を履いてぴょいっとジャンプした。


「帰る時は玄関から帰ってください」


 僕の声を聞いたのかベランダの下を見ると無事に着地していた人噛さんが手を振っていた。僕の家から女子が跳んで来て跳んで出て行った。


 訂正しよう、玄関から入ってきたのは今も昔もせっちゃんだけだ。それにしても、人噛さんとデート。僕はテンションが上がった。何処へ行こう。悩む、悩むぞ。


 僕の携帯電話が鳴った。人噛さんからでも無く、せっちゃんでもない。内容を見るとバイトの連絡だった。


 少し憂鬱になるがしかたない、今日はとりあえずバイトに行こう。


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