表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/97

39話 僕と先輩の絆

「ほぉ、良い身分だな」


 大和先輩の声が聞こえる……。寝よう。


「起きないわけだな?」


 僕の体が浮く……浮く!? 目を開けると僕の胸倉を掴んだ大和先輩が映っている。なんとまぁ、素晴らしい力の持ち主で。


「やぁ、おはよう後輩くん」


「おはようございます大和先輩。なんだか僕の背が伸びたような」


 普通に手を離された。僕の体が机にぶつかる。とっても痛かった、でも今の僕には先祖返りの力がある。


 集中すると、痛くなくなった。痛みを感じない訳では無い、痛みが和らいでいく。変な気分だと自分でも思う。


 せっちゃん達も同じ気分で凍らしているのかな。とても気になるので今度尋ねてみようと思う。


「で、大和先輩どうしてここに?」


「携帯電話に連絡しても来ないのは何処の誰?」


 だって僕寝てるもん。しかたないよね。


「次からは、気付いたらすぐに見てね?」


「あのー、寝ていたんですけど……」


「見てね?」


「はーい」


 この大和先輩は怖いです。信じられない力を秘めている先輩は何なんだろう。何の先祖返りだろう。


「はい! 先輩! 質問いいですか?」


「くだらなかったら怒るよ?」


「えー、えーっと。多分大丈夫です。大和先輩の先祖返りって何ですか?」


「私の先祖返りか……いいだろう。教えよう」


 大和先輩の謎がやっと解ける。どうして、消えるのか。どうしてこんなに力が強いのか。


「私の先祖返りは化け猫だよ」


「ば、化け猫? 文字通り、何かに化ける力ですか?」


 化け猫って力が強いのか、仕組みがよく分からない。どういった理由であんなに強いんだろう。


「春来が分かる様に教えるのはどうしようかな。化け猫の力は単純に認識をずらすくらいだよ。って言っても分からないよなあ」


 とてもバカにされている気分だが、その通りなので仕方ない。


「こっちに来てみろ」


 僕は相変わらず教室に居る。クラスには誰も居ないので、僕と大和先輩の二人っきりだ。そして、箒が入っているロッカーに大和先輩は近づいて隣に立つ。


「今から春来の認識をずらすからよーく見ていろ」


 じーっと、大和先輩を見つめる僕は驚いた。見ていたはずなのに消えた。文字通り目の前から姿を消した――けどロッカーが二つに増えている。


 僕はそっと金属に触れると冷たさをちゃんと持っていて手触りも堅いこれが大和先輩の能力か……大和先輩を大和先輩だと認識できない。これは凄いな。ってか殆ど透明人間じゃん。


 次に瞬きしたら僕のお腹が殴られていた。なんで――殴られた?


「許可なく何処を触っているんだ後輩くん?」


 僕は一体何処を触っていたんだろう。僕の手に残る感触は平で冷たくて堅くて……。


「先輩痛いです……」


「ふん」


 ゆっくりと深呼吸。集中しろ僕。


「この認識をずらす能力で学園長室に居る時も、休日かくれんぼしている時も見えなくなっていたんですね」


「あぁ、その通り。私を私だと認識できない。春来は私に勝てないね」


 でも――力が強い理由にはならない。いま話しているのは化け猫の認識をずらす内容だ。


「で、なんでそんなに馬鹿力なんですか?」


「しらん、化け猫が実は強いとか? 細かいことはどうでもいいよ。後輩くんが先祖返りの力を使う事で回復力が上がる事が分かった。それだけじゃない。あの時は腕力も確かに上がっていたはずだよ? 君がもう少し力を引き出せればとても素晴らしいと思うんだけど」


 僕自身も力の使い方なんて少ししか分からない。


「まぁ、ゆっくりでいいさ。長ければ長い程に辛いだろうけどね」


「先輩絶対に僕で楽しんでますよね?」


「さぁな。ん?」


 大和先輩がポケットの中を漁ると携帯電話を取り出した。中身を確認すると嫌な笑顔を浮かべていた。


「後輩くん、私達の目的は君の力を借りる事にある。では、何に力を貸してもらうかを考えてみよう」


「確か、この街を守るんでしたっけ?」


「じゃ、守りに行こうか?」


「嫌な予感がします」


 僕は先輩を追っかける小さいのに俊敏な先輩だ。学園を出て商店街に向かう。僕は息が上がってきたけど必死に走る。


 人が行き交う商店街は夕焼け色に染まっていた。


「先輩? もう僕は疲れたんですけど」


「もう少し頑張りたまえ」


 商店街の中を奥に進む、大和先輩は何かを見て位置を把握している様子なので僕は何も考えず――先輩について行く事だけを考えていた。


 人通りのない路地を進むと空き地の様になっており、周りは建物で囲まれている。


 明らかに死角となっているスペースには学生が二人、明らかに服装が違ういかつい兄ちゃんが一人。ごほごほと咳をする僕に相手は気づいた。


「お前たちはなんだ?」


 様子を伺うと、学生はカップルか? 僕とは制服が違い先輩と同じだった。高等部の生徒が絡まれている。男の子が地面に膝をついていて女の子が傍で怯えていた……。どういう状況だ?


「後輩くん、解決したまえ」


「え、えぇ!?」


 僕は呼吸を整えて一歩前に出る。


「あのー、これはどういう状況ですか?」


「こいつらの知り合いじゃねーのか? ったくよぉ。このクソガキが俺の足を踏んでよ謝りもしねぇ」


 あれ? 足を踏まれただけでこんなに怒っている? この人……。


「それだけでこんなことに?」


「足が踏まれただけじゃない、その後こいつが何て言ったと思う?」


 こいつ……倒れている男か? 顔は殴られたのか腫れている。


「ごめんな……さいとか?」


「ちげーよ。何処見て歩いてんだ? って言ってくるんだぜ? そっちから踏んだくせによ」


 学生の方からこの男の人に絡んできた? 見た目がオカシイ。僕よりも線が細い男がこの男に喧嘩を売る? 考えられない。


「その後、ここまで連れてこられて殴られたんだぜ? だから、一発やり返したらこのざまだ」


 話を聞いていると自分から喧嘩を売って殴られた。なんなん……。膝をついている男の子に近づいて話しかける事にした。顔は下を向いているので表情は読めない。


「ねぇ、君もどうしてこんな事するの?」


 僕の問いかけには何の反応を示さない。怒っている? そっと肩に手を置くと。


「触るんじゃねぇ」


 そう言って僕の手を払いのける。触れられる事を嫌った? ゆっくり立ち上がる彼は力が入っているのか入っていないのか判断がつかない。その顔を見ると朧気な表情が異質だった。


「おいおい、絡んできた事はもういいよ。あっちいってろ」


 いかつい兄ちゃんはそう言って背中を向けた。この場を去ろうとしてくれている。なのに、学生は後ろから殴りかかった。


「ったく、なんだよこのクソガキはよぉ。寝てろ」


 体格差があり、殆ど力を感じられない学生を押し倒す。これ以上相手をするつもりは無い……そういった意思が見える。


 なのに、この学生は? わざわざ突っかかるのは何でだ?


「もうやめて!」


 さっきまで怯えていた女の子が叫ぶ。その声で、学生は動きを止めた。


「彼女か? そいつもそう言ってる事だし、もう絡んでくるんじゃねーぞ」


 そう言う彼に彼女は近づく。足取りは軽く、怯えた様子は無い。確かな足取りで近づいて兄ちゃんの肩を叩いた。


「なんだよ」


 そう言って動きが止まる。二人は見つめ合っている、いかつい兄ちゃんは女の子を真っすぐみて、女の子も同様に見ている。


 隣に居る僕は全く理解出来なかった。この女の子が彼女さんだったら、普通そっちじゃないよな。


「あのー、どうかしたんですか?」


 僕の声を聴いても反応しない。さっきまで僕とは話を交わしていたはずなのに無視される。


 そして、女の子が口を開いた。


「やっちゃえ」


 僕はやっと理解した。僕が聞いていたのは先祖返りの解決。


「あのー、暴力はいけないと思うんですけど」


 さっきまでの雰囲気とは違う、僕を見る目は怒りに燃え焦点が合っていない。いかつい兄ちゃん……僕に近づかないでください。


「大和先輩? これまずくないですか?」


 僕は助け船を求めて後ろで様子を見ている先輩に声を掛けるも特に意味が無くおわった。


「さぁ、後輩くん。解決したまえ」


 どうしても僕にやらせたいらしい……。


「あっはっは。もーう、男って単純で楽しい」


 さっきまで怯えていた少女の姿はもう無い。目の前には不敵な笑みを浮かべる悪魔の様な女が立っていた。


「正義の味方かなぁ? 君は逃げないの? そっちは二人でこっちは三人だよぉ? 後ろの女の子は私よりも華奢だよね? さぁ、早く逃げて」


 あー、だよなぁ。僕の後ろには大和先輩が一人、相手は数の暴力で勝っている。僕が逃げれば大和先輩が一人になると。


 普通は圧倒的不利に見えるよなぁ。


「おいおい、お姉さん。僕は逃げも隠れもしない。何より気になるのはこの人たちに何をしたんだい?」


「ふーん。逃げないんだぁ。私がちょっとお願いすると、この人たちは操り人形。男の人って馬鹿だよねぇ」


 妙に男って煩い女だな。僕は大和先輩を守るように立ちふさがる。怒りに血走っている兄ちゃんが襲い掛かってきた。


 もちろん喧嘩慣れしていない僕は顔を殴られてさっきまで弱っていた学生が僕の足を引っ張る。そして、背中から地面に倒されてしまった。


 大和先輩よりは痛くないけど……。この男の人たちは何にも悪くないんだよなぁ。


「あら、弱い弱い。君はどうして逃げなかったのかなぁ?」


 僕の足を捕まえる学生は体重を掛けて払えそうにない。僕の腕は押さえつけられて身動きが取れない。あぁ、困った。ほっぺたの痛さはゆっくりと和らいでいく。


「ちょっとお姉さん? 僕を捕まえてどうする気なんですか?」


「うーん。どうしよっかなぁ?」


 僕の胸当たりに両足を置き――あ、この子のパンツは白色だった。僕は地面に倒されて天を仰いでいるのでパンツが直接見える。


「あのー、痛いのは苦手なんですけど」


「じゃぁ、大人しくしていてね?」


 ふふっと笑う。顔をよく見ると、ショートカットの女の子はぺろりと舌を出していた。


「あ、可愛い」


「ありがとね」


 そう言って僕に馬乗りになり、大和先輩に見せつける様に視線を向ける。


「君の彼氏さん? 助けなくていいの?」


「しらん」


 寂しい、大和先輩は僕を助ける気はさらさらない。


「もう辞めませんか? どうして操ったりするんですか?」


「どうして操る……それはね?」


 恍惚な表情で見つめる顔は小悪魔的だった。僕は力を入れてみるが、逃げられそうにない。


「楽しいからだよ? うーん、よく見ると可愛い顔してるね? その制服は中等部の子かな? ねぇ、お姉さんとイイコトしない?」


 年上のお姉さんが馬乗りになり、恍惚は表情で僕を見ている。血走った眼付きの兄ちゃんが僕を拘束して居なければ素敵な状況に見えなくもない。


「えっと、イイコト? 僕はそろそろ家に帰らないと行けないような気がするのですが」

「お姉さんの家に行く?」


 やばい、お持ち帰りって奴をされてしまう。今世紀最大の危機が迫っている気がする……。


「僕としては年上の素敵なお姉さんに情熱的に誘われると嬉しいのですが……」


「ほんと? やったぁ。このまま家に持ち帰ってどうしようかな? 枕にしようかな、召使にしようかな。私のお気に入りにしてあげるね」


 他の人にやった様に、僕の目を見つめる。そっと首を動かして視線を外したが、お姉さんの手ががっちりと僕の顔を固定して視線を外せないようにした。じーっと吸い込まれるように意識が薄れるような……。


「はぁ……後輩くん? 何をしているのかな? その女はどうせ悪魔か何かの先祖返りでしょ。このまま君は操られて私を襲うのかな?」


 大和先輩の声が聞こえる。確か僕は先祖返りの力を使いこなす特訓をしていて……。ぼんやりと意識はある。しかし、体が動かない。


「もう拘束しないでいいよ。君達は要らない。あっちに行って全部忘れてね」


 そう言って、僕を拘束していた二人がとぼとぼ、おぼつか無い足取りで去って行った。


 当の本人――つまり、僕はゆっくりと立ち上がりお姉さんの隣に立っていた。意識はあるのに体が自由に動かない。


 先ほどの朧げな学生の顔を理解出来た。あの人もやりたくてやっていた訳じゃない。この女に操られていただけ。


 今までにない先祖返りを用いた度を超えた悪戯。集中しろ僕、意識をしっかり保て! 首から上は僕の自由が利くようだ。もっと力を引き出せれば、全身を取り戻せるはず……。


「大和先輩、体の自由が無いんですけど」


「あら、凄い。私の魅了を受けても意識があるの? やっぱり凄い! 顔も私好みだし……」


「あんた趣味悪いんじゃないの? こんな冴えない顔のどこがいいのかしら? 簡単に捕まるような貧弱な男」


 ごもっともです。大和先輩! でも、段々僕の心が! メンタルが削られていきます。


「あっれー? 彼氏さんじゃないの? なら貰ってもいいよね」


「はいはいどうぞって言いたい所だけど、彼は私の後輩くんなのよね。仕方なく面倒を見ているの、だからそれは少し困るな」


 先輩……僕を見捨てないで有り難うございます。


 僕の目に映る先輩は女神に見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ