33話 僕がお邪魔する
「お母さん! 僕の先祖返りって何が出るの?」
「んー。んーー?」
僕の突然の質問が楽しい食卓を凍らせた気がする。
「お父さん? 僕の先祖返りって何?」
「春来のご先祖様は人間しかいないぞ?」
人間しかいない。つまり……僕に雪女の様な凍らせる力も、サラマンダーの様に燃やす力も存在しない。少し、残念な気がする。
「でも、春来? おじいちゃんも偶に教えてくれるけど。春来のご先祖様は勇者らしいよ? お父さんには特徴が出てないけど、春来にはでるかもしれないよ」
昔、おじいちゃんが何か言ってた気がする。でもまぁ、勇者かー。勇者ってなんだろう。とりあえず、火とか氷とか出せそうにないので僕の中で興味は消えた。
「そっかー。あ、そういえば! そろそろ修学旅行があるんだよー」
「来週だったよねー。春来? お土産待ってるからね? あと、雪奈ちゃんと写真も撮ってくるのよ?」
「分かった!」
そんなやり取りをして朝ごはんを食べ終わり、僕は自分の部屋に籠る。特に何かするわけじゃないけど……。
先祖返りは特徴が表れる人が大多数だ。でも、せっちゃんくらい強いのは珍しい。殆どの人はあまり変化が無く終わる。
それなら僕の先祖返りが特に無くてもいっかー。そりゃ、何かカッコいい事が出来たらいいなって思ってたけどさ。
別になくても構わない。特に困らないしと僕は考える事にした。でもやっぱりカッコいいのは欲しい。
今日の学校はお休みでせっちゃんと遊ぶ約束をしている。もう少しで来ると思うけど……のんびり待とうかな。
唯一僕の部屋にあると言える本を手に取る。その漫画を一冊読み終えてもせっちゃんが家にくる気配は無かった。流石に、こないのは変な気がする。
僕から行ってみよう、せっちゃんの家は知ってるし大丈夫。
僕は遊びに行ってくるとお母さんに伝えて家を飛び出した。歩きなれた道を少し駆け足で進む。日が落ちかけたらちゃんと家まで送っているので僕は迷わずせっちゃんの家にたどり着いた。
そして、チャイムを鳴らすとせっちゃんのお母さんが出てくる。せっちゃんにそっくりで、髪の毛の癖も同じだった。とても大人びていて綺麗だと思う。少なくともウチのお母さんより綺麗だと思う!
「あら、春来くん。いらっしゃい。雪奈なら部屋にいるはずだよ。あ、春来くんは苦手な物ある?」
「苦手な物は無いです! お邪魔します」
玄関から直ぐの階段を上り、僕はせっちゃんの部屋に着いた。コンコンってノックしても反応が無い。
ゆっくりとドアを開けると、白を基調として可愛いピンク色のカーテンや小物があり女の子の部屋って感じで、せっちゃんらしさが溢れている。本棚には、僕が出会う事の無いような本が並んでいた。
そして、当の本人はぐっすりと眠っている。
「せっちゃん? 遊びにきたよ?」
特にデリカシーが足りない僕は普通にせっちゃんを起こす。
「うーん。春来くん?」
瞼を擦りながら体を起こす。布団に隠れて見えていなかったが、薄い青色のパジャマを着ていた。というか、はだけていた。
「おはよう春来くん。えーっと、あ! 今日は遊びに行くんだった!」
覚醒したせっちゃんが全てを思い出したという風に布団から飛び出す。
「せっちゃん服……」
「え? 服?」
何を言っているのか理解出来ない……そして、姿見で自分の姿をせっちゃんは確認していた。髪の毛はボサボサで変だ……それよりも寝る前にボタンを掛け違えていたのか下着が丸見えだった。
「あ、えーっと……」
せっちゃんを中心に白い煙がうっすらと浮かび上がる。少しずつ氷が広がって……。あれ、これは不味い気がする。
「せっちゃん? ちょっと落ち着いて」
「み、見たよね? 服って言ったから見たよね?」
「うん。スポーツブラって奴? 初めて見た」
「もー!」
せっちゃんの部屋が全て氷に包まれた。完全に凍っている訳では無く、表面に氷が張り付いている。しかし、部屋が包まれているので冷凍庫の中に居る気分だった。
「ごめんごめん。でも、せっちゃんがうちに来るの遅かったから……」
「うー」
「あら、雪奈。今日は凄いわねー。あ、また寝ぼけてボタン掛け違ってるの? ブラ付けてて良かったね。春来くんにおっぱい丸見えになる所だったね」
ふふふと後ろでせっちゃんのお母さんが飲み物を持って立っていた。
「っても―! お母さん何で起こしてくれなかったの!」
「だって、雪奈何も言ってなかったでしょ? 知らなかったわよ?」
「あー、うーん。とりあえず二人とも部屋から出て!」
ばたんとドアを閉めてせっちゃんは着替えていた。その間、僕はせっちゃんのお母さんと二人っきり。
「春来くん? 起きてる時はしっかりしてるのよ? 寝起きがダメダメなのよねー。今日も雪奈を宜しくね」
「いつもしっかりしてると思ってた……せっちゃんもダメな時があるんだ……僕の方こそお世話になってます」
「先祖返りの力を気にしない春来くんが居て良かった。私よりも強いから心配なの」
そう言って何もない手の平に氷の粒を造り上げた。せっちゃんのお母さんも雪女の先祖返りが出ている。キラキラとした氷はいつ見ても綺麗だった。
せっちゃんも大きくなったら今よりとっても綺麗になるんだろうなーと、氷を見ながら……思っていた。
「お待たせ」
何事も無かったかのように、せっちゃんが扉を開けて立っている。こほんっと少し間をおいて口を開いた。
「春来くん改めましておはようございます」
「おはよー」
「雪奈、何も無かったみたいな顔してる! 可愛いー」
「ちょっと、お母さん黙ってて!」
「はーい。これどうぞ」
僕は用意されていた飲み物を受け取った。暑かったでしょーと手渡されたグレープジュースは炭酸がきいてて美味しかった。
「せっちゃん、部屋の氷は大丈夫?」
「うーん。多分大丈夫だと思うけど……少し片付けるね」
「手伝うよ」
僕は本の表面を覆う氷を取ろうとしたつもりだったけど……殆どやる事は無かった。なぜなら、せっちゃんは氷を少しだけ操ることが出来ていた。
竜司が体面に自由に火を出せるのと同じように、せっちゃんが凍らせた氷はゆっくりと僕達の元に集まる。磁石で引き寄せられているかのようにせっちゃんに集まっていく。
「この氷の塊をベランダに置いとけば大丈夫」
「せっちゃん凄いね」
「そう?」
少し得意げ少女はとても輝いていた。




