32話 僕が解決策を考える
「せっちゃん? さっきの人って知り合い?」
「いえ、知りません。突然、春来くんを押し倒すなんて……多分悪い人です」
せっちゃんが先導しながら僕達は歩く。僕も名前は知っていたけど、話をしたことは無かった。
そんな人がせっちゃんを目的に近づく……それに、幽霊に呪われているって言っていた。どういう意図があったのかな。
「春来くん! あの人は手から火が出てました。私と同じ先祖返りです。春来くん……私心配です」
「え? どうして?」
「私が居ない時に、春来くんが虐められるか私は心配です」
「大丈夫だよ」
「火傷とかするかもしれません。私から離れちゃダメですからね?」
妙に過保護というか、僕がそんなに虐められ体質に見えているのかとても心配してくれる。火傷は確かにしたくない……でも、あの竜司って人がそういう事するかな……。
「せっちゃんも女の子だから気を付けないとね」
「私の先祖返りはあの人の火よりも強いと思うので大丈夫ですよ」
気負い過ぎというか……空回りしそうな気がする。
「今日だけで明日からは話しかけてこないんじゃないかな?」
「だといいです!」
人影竜司……せっちゃんにかなり嫌われている。そりゃ、僕だって突然あんなこと言われたら嫌いになるよなー。
だから、僕は一時期せっちゃんに嫌われてたんだよなー。
第三者の目線で見ると、本当にダメな事をしていた。でも、関係は修復できる。僕は身をもって体験し身をもって実感した。
「春来くん。今日も一緒にゲームしませんか?」
「うん。いいよ」
さっきの出来事を考える、せっちゃんの対応をよく考えると普段のイメージとは違う。もう少しおどおどとするのは容易に想像できるんだけど……。
竜司って子は本当にせっちゃんしらないのかな。
せっちゃんの顔を見ていると、うーんと何か悩んでいる様子だった。
「うん? どうかしました?」
「ううん。顔を見てただけだよ」
「えっ……えっと、どうしてです?」
「何か悩んでるなーって」
更に悩む様な顔に見える、少し睨んでいるような印象を僕は受けています。
「あのー、せっちゃん?」
「なんでもないですよ。早く春来くんの家に行ってゲームしましょう」
常連さんなので、お母さんとも気楽に話す仲になっていた。せっちゃんと遊んで1日が終わり……。そして、翌日が始まる。
学校で彼は僕の前に現れた。昨日、僕を押し倒した人影竜司は休み時間に遊びへ行こうとしていた僕の前に立ちふさがる。
「おい、昨日の冬凍雪奈に守られてた奴」
「うん? 何か用?」
僕は普通に遊びに行きたい。でも、邪魔をしてくる……どうしよう。
「お前は大丈夫なのかよ。あの子の隣にいて寒く無いのか? てかよ、名前は何?」
「僕は永遠春来だよ、別にせっちゃんの隣にいても寒くないよ。慣れたからね」
「昨日も言ってたけどよ、せっちゃんって冬凍雪奈の事だよな? お前らどういう仲なんだよ」
僕とせっちゃんの仲が気になって仕方がない様子だった。そこに、偶然せっちゃんが通り掛かる。
「あ、また!」
そう言ってせっちゃんは僕の元に駆け寄る。そして、僕と竜司の間に割って入る。
「また春来くんを虐めてる」
「おい、俺は別に名前を聞いていただけだぞ。なぁ?」
「う、うん」
「でも、昨日押し倒したじゃん」
僕の顔を伺いながら心配そうな顔をしていた。でも、本当に僕は名前を聞かれて――そのあとは確か。
「あと、僕とせっちゃんの仲について聞いていたよ」
「バカ野郎、普通ここでそれを言うか?」
「私と春来くんの仲?」
だよね、せっちゃん分かるよ。突然、僕とせっちゃんの仲を尋ねてくるって意味わかんないよね。心配そうな顔から疑問が浮かんでいる顔に変わったからよく分かるよ。
「ただの友達だよね? せっちゃん」
「……は、はい。お友達です! 一緒に帰ってゲームして、春香お母さんの手作りお菓子を食べてえっとそれから……」
昨日の出来事を思い出すかのようにつらつらと言葉を並べて終わらなそうなので途中で終わらせることにしよう。
「な? 竜司であってるよね? 僕とせっちゃんはそういう仲だよ」
「めっちゃくちゃ仲いいじゃねーか……俺が聞いた噂は嘘なのか?」
「ん? 噂?」
この人影竜司という人物は何かを聞いて僕達の前に現れたらしい。何も繋がりが無かったら来るわけない……か。
「おう、冬凍雪奈が幽霊に呪われていてめちゃくちゃ困ってるって俺は聞いたんだが……ってマジで近くにいると寒いじゃん」
「せっちゃんは先祖返りで少し冷やすだけだよ」
「まじかよ。俺は幽霊に呪われていてめちゃくちゃ冷たくて困ってるって話だったんだけど……勘違いか?」
間違いではない。確かに、最近までせっちゃんは自分の先祖返りについて困っている様子ではあった。
でも、僕の家でゲームしてからはあんまり気にしていない様に見える。というか呪われてはいない。
「だからよぉ。俺のこれで暖めてやろうと思ったんだよ」
そう言って昨日と同じように指先に火を灯す。
「でも、昨日春来くんを押し倒していました」
「あれは……その、あー。完全に俺が悪い。ごめんな春来」
もしかして……素直に謝れる良い奴かもしれない。
「ううん。全然いいよ、気にしてないし。でも、先祖返りって凄いな指の火は熱くないの?」
「んあー。これか……俺は熱くないぜ。俺の先祖返りはサラマンダーって言って火を操る。お前らは?」
あれ。僕の先祖返り? あー、そうか。誰にでも発現するのが先祖返りの特徴だ。僕にも凄い力があるかもしれない。
でも――。
「僕はまだ分かんない」
「分からない? 親から聞いたりしてないのか? 生まれた時から何かしら分かるって聞いたんだけど……」
完全に初耳だった。僕の先祖返りがどんな物かお母さんは知ってるのかもしれない。
「そっちの冬凍雪奈は?」
「私は……雪女です」
せっちゃんの先祖返りは雪女かー。どうりで冷たいはずだ。僕もおとぎ話で知っている、氷を自由自在に操り全ての時を止める妖怪。その先祖返りがせっちゃんには表れてた。
「せっちゃん雪女だったんだね」
「うん。そうなの」
僕達のやり取りを見ていた竜司が納得したような顔をして口を開いた。
「だから隣に居ると寒いのか。誰だよ幽霊に呪われているとか言ったやつ」
あー、僕も言ったなぁ。
「おい、俺のこれは自由に消せるしお前もその冷たいのどうにかなるんじゃねーか?」
身近な先祖返りは初めてだった。せっちゃん以外に竜司が火を使える。これは参考になるかもしれない。
「竜司ってその火は指先にしか出来ないの?」
「んあ、今はそうだな……ちょっと集中すると……」
そう言って手を握り拳を作って前に差し出すと空気が歪んだ。その拳の周りの空気が熱せられて揺らいでいる。そして、指先よりも小さい火が拳を包む様に灯された。
「かっこいい」
「だろ? あ、消えちまった」
集中し続けないと行けないのか、拳から火がすうっと消えた。
「せっちゃん、竜司は変な奴だけど虐めてくる奴じゃないみたい」
「そうみたいですね」
警戒が解けたのか、僕の隣に移動した。間に入っていたのは僕を守ってくれていたみたいで、嬉しいような少し悔しいような。
「で、竜司はその火で何するの?」
「何するって、別に何もしねーよ? さっきも言ったけど幽霊に呪われて凍えるなら暖めてやろうとしただけだ」
少し不器用だけど、竜司は良い奴だよね。絶対にそうだと僕は確信した。
「せっちゃんもコントロール出来る?」
「えっと……どうしたらいいんでしょうか」
「そうだな……竜司の火は指とか拳だけなのか? 例えば、せっちゃんみたいに周りを熱くするとか」
「俺の火は基本的に皮膚の表面から火を出す。腕とか足とかどこからでも出せる! だから手に持った紙を触っていない所から燃やす事は出来ない。燃やすなら持っている所を燃やして火をつけるしかない」
つまり、サラマンダーの先祖返りは自分を中心に火を付ける。竜司は自分の体から火を出さないといけない、目の前に居る僕に火をつけることが出来ない。
せっちゃんにこの前やってもらったのはコップに入っている水を凍らせた。雪女はそうじゃなくて、自分の近くにある物を凍らせている。
多分、この違いがある……と僕は思った。
「せっちゃんって冷やすとき自分は冷たい?」
「いえ、冷たくないですよ」
「じゃー、何もない所で冷やしたらどうなる?」
「やってみますね」
ゆっくりと深呼吸。そして竜司と同じように片手を前にだして目を閉じた。少し離れている僕達も寒気を感じる。冷気が風に流れて僕達から体温を奪う。
せっちゃんの手を中心に氷が出現した。何かを凍らせるその雪女の力は空気中の水分を凍らせてぱらぱらと粒を地面に落としていた。
「これってよ。めちゃくちゃ強いんじゃねーか? 俺の火で暖めるってレベルじゃなくてよ」
せっちゃんはゆっくりと目を開けた。自分の手を中心に発生する氷の粒を見ている。僕の目にはきらきらと綺麗に見えるんだけど、せっちゃんがどう思っているのか分からない。
「せっちゃん、それをゆっくり無くしていく事って出来る?」
「やってみます」
手を中心に発生していた氷が無くなり、冷たさが少しだけ無くなったと思う。
「そのイメージで自分の周りも冷たくしない感じにできるかな?」
僕の言葉を聞いて、実践するせっちゃんを竜司と二人で見守る。必死に頑張っているせっちゃんを心の底から応援していた。
「どうですか?」
「ちょっと触るね」
まずせっちゃんの腕に掌を近づける……でも、よく考えてみると僕はせっちゃんの隣に居ても常に寒さを感じない。次に腕を掴むとやっぱり冷たい。
最後に手を繋いで、このまま手を引いて歩いて行けるような雰囲気で僕が手を掴んでいたので竜司が少し目をそらす。
「冷たい……。竜司も触ってみて?」
「お、俺はいいわ」
「春来くん、私には難しいみたいです」
竜司よりも先祖返りが強力だからかもしれない。同じようには行かないらしい。この周りを冷やす能力が下がればもっとクラスの皆とも仲良く慣れると思ったんだけど……中々上手く行かない。
「まぁ、慣れたら寒くないけどな」
「おいおい、春来も実は雪女で耐性があるんじゃねーのか? あ、雪男か?」
「僕にそんな力があれば、かき氷が食べ放題だな……」
将来は道端でかき氷を売ろう。夏の暑い世の中に癒しを与える仕事……。
新鮮な水と味付けシロップさえあればどこでも凍らせて作れる。
「春来くん今度作ってみますか?」
少し輝く目て僕を見ていた。そんなに自分で作ったかき氷を僕にごちそうしたいのかな。でも、せっちゃんが作るなら美味しそうだ。
「機会があったらお願いしようかな? あ、せっちゃんはどうして此処を通りかかったの? 僕は見ての通り、竜司に虐められてないから大丈夫だよ」
「私は、図書館に向かっている最中でした」
そう言って竜司に近づく。
「春来くんを虐めちゃダメですからね?」
「お、おう。別に虐めたりしねーよ」
「絶対ですよ?」
「あぁ」
再三注意してせっちゃんは去って行く。取り残される僕と竜司の二人は顔を見合わせる。
「竜司の先祖返りってもしかしてせっちゃんより弱い?」
「喧嘩売ってんのか? でも、あれは凄いわ。それに、氷が綺麗だったわ」
「だよねー。せっちゃんの先祖返りは綺麗だよね」
「ってかよぉ。男として女の子に守られるってのはどうなんだ?」
とても痛い所をついてくる。この男、物理的に熱いだけじゃなくて性格もやや熱いっぽい。
「僕は気にしないよ。昨日は急に押されてびっくりしたけどね」
「あれは悪い。俺も実はよ、びっくりしちまってな」
「ん? 何に?」
僕の質問に答えるまで少し間があった。とても、言いにくい事を言おうとしているような……こいつも顔が赤い?
「冬凍雪奈ってめちゃくちゃ可愛いよな。近くで見るとてんぱってつい春来を押してしまったわ」
「あー、せっちゃんの可愛さね。やっぱり可愛いよね」
「おうよ、正直お前が羨ましいぜ。でもよ、うちのクラスの人噛って奴も凄いぜ」
「うん? 可愛いの?」
「あぁ、可愛いうえにめちゃくちゃ胸がデカい」
人影竜司は恥ずかしげも無く、そう言った。でも、この時の僕は特に何も思わない。
「へー、そうなんだ」
「すげーからよ。今度見てみ?」
「竜司って変な奴だな」
「それどういう意味だよ」
めちゃくちゃいい奴だった。
僕は忘れない、せっちゃんにあっちへ行ってと言われた時の顔がまるで彼女に振られたような顔をしていたことを。




