21話 僕はお招きする
僕達は自分で掃除した玄関から外にでる。うん。綺麗になっているな。靴を履き替えて僕達は僕の家へと向かう。
「瞳ちゃん好きな食べ物とかある?」
「うーん……なんでも食べれるよ」
一瞬、僕を見た気がする。目は合った。しかし、気のせいだと自分に言い聞かせる。僕達は三人でいつもの坂を下る。
なにより、三人で帰る日が来るとは思わなかった。
なにより、両手に花とはこの事だ。
幼馴染の冬凍雪奈はいつも通り髪の毛を上げている。今日の髪留めは赤色を使っていて日の光で輝きが増す。
うなじも良く見えて眼鏡はうっすら青みを帯びせっちゃんの良さを引き出す。吸血鬼の人噛瞳はせっちゃんより少し背が高い。
大人っぽい雰囲気と、ベリーショートの髪の毛は毛先に癖がありふわふわだ。二人が並ぶと、胸囲の格差社会を感じる。いや、せっちゃんもそこそこ大きいはずなのに……。
「春来くん聞いてます?」
ごめんなさい、聞いてないです。
「春来くんの家はお皿とか人数分あります? フライパンの大きさとか気になります」
「あぁ、んー。あったと思うよ。まずは、うちに寄ってからお買い物に行こうか」
二人が楽しそうに会話をしているので邪魔しない様に家に向かう。
「せっちゃんは春来さんとどれくらいの付き合いなんですか?」
「ここまで仲良くなったのは中等部くらいからなんですけど……もっと前から付き合いはあったよね? 春来くん」
「初等部の頃、色々とあったけど今よりギスギスしてたなー」
懐かしい。せっちゃんと仲良くなるまでに僕は色々頑張った気がする。
「そんなことないですよ。今も昔も春来くんと私は仲良しです」
記憶が捏造されてる気がする。昔はひどい目に……。
「あ、私も気になります。瞳ちゃんは春来くんとデートしたんですよね? 楽しかったですか?」
「うん。とっても楽しかったよ。うちに写真があるから見せるね」
僕は直ぐに、マイルズデリックを思い出す。アイツの顔が全ての思い出を吹っ飛ばした気がする。いや、瞳さんのパンツが黒色だったのは鮮明に覚えている。あのジャンプ力は凄かった。
「気になります。とても見たいです」
興味津々……せっちゃん怖い物は苦手だったような。
僕達は雑談をしながら歩いていると寮に辿りついた。何よりも僕の部屋に女性が二人尋ねてくるなんて思いもよらない。しかも、ちゃんと玄関から来るので安心だ。
カードキーでオートロックを開ける、そしてエレベーターで三人の密室。僕の腕にせっちゃんがぶつかった、狭いではあるがそこまで密着する必要は無い気がする。
ドアが開くと瞳さんが先に出て僕が後に続いた。鍵を解除し扉を開ける、二人を先に家に上がらせた。
「「お邪魔します」」
二人は、中に入った。僕は遅れて家に入る。
「春来くん冷蔵庫に何がある?」
僕の部屋で女の子二人が手料理を作ってくれるとの事なので、全ての食材を明け渡そう。
「お肉と豆腐と卵とえーっと、ピーマンならあるよ?」
「春来くん普段何食べてるんですか?」
「昨日は……サバの缶詰」
以外と美味いんだよね。
「フライパンとお鍋もあるんですねー。春来くん料理するような風に見えますが使ってるんですか?」
「鍋はこの前カレーを作った時に使ったぞ?」
「ふむふむ」
せっちゃんは色々と物色している。
瞳さんは物色するせっちゃんを眺めつつ尋ねた。
「せっちゃん何作ろうか?」
「そうですねぇー、家庭的な感じで行きましょう。瞳ちゃんと私でお買い物に行ってきます」
「あれ? 僕は?」
「春来くんはゴロゴロしていてください」
僕は……ある意味蚊帳の外だった。
「では、行ってきます」
「春来さん待っててくださいね」
僕を置いて二人は去って行った。お財布だけ取り出し荷物は僕の家に置きっぱなしである。
二人の仲が良いのは僕にとっても嬉しいので良しとする。
それにしても、この短期間は色々とあった。初めは瞳さんにラブレターを貰った事がきっかけだったはず。
それがせっちゃんと二人でお出掛けだ。何が起きるか分かったもんじゃない。
ちなみに、瞳さんにはちゃんと口止めしといた。僕のバイトについては他言無用! せっちゃんが変な心配をするのも想像しやすいので内緒にする。
僕は手持無沙汰なので少し困った。お留守番になるとは予想外なので困惑する。しかし、こういう時こそ普段と同じ事をしよう。
テレビをつけてソファーに寝っ転がる。二人が帰ってくるまで三十分以上はあるはずなので、ゴロゴロと過ごす。にゃー。
ん?いま、にゃんたの鳴き声が聞こえたような。そっとベランダを開けるとにゃんたが佇んでいた。
「にゃんたああああああ」
僕は嬉しさのあまり涙が出そうになる。一体……どれだけ待ったんだろう。一週間以上、にゃんたを見てない。そう、見て無かった。
ベランダからちょこんと部屋に入ってくる。黒猫で、赤い首輪が付いていて鈴がリンリンとなっている。会いたかったぞ!!
「ご無沙汰ぶりだなー。にゃんたは何か食べるか?」
ふと、僕はこれから料理が行われるので勝手に食材を使うべきではないと思い出した。
「ごめんよにゃんた。今からせっちゃんと瞳さんが料理をしてくれるから勝手に使えないんだー」
「にゃー」
気にしなくていいよって言ってくれた気がした。
「にゃー」
女の子を連れ込んでるんだねって言ってる気がした。
「にゃー」
何故か罵倒された気になってしまった。
「にゃんた? なんか変なオーラを感じるけど? とりあえずこっちに座って」
「にゃー」
ちょこんと座る。隣ににゃんたが居れば癒される。毛並みも整っていて多分、いい家の飼い猫なんだろう。頭を撫でると気持ちよさそうにお腹をだした。
僕はお腹も撫でる。しっぽがふりふりと左右に動いて気持ちよさそう、僕も気持ちいい。
ぴこぴこと耳が動いていて癒される。
「にゃんたー、君が来ない間に色々あったんだぞー。そうだな、吸血鬼って怖いんだぞー。めちゃくちゃ強いからにゃんたも気を付けるんだぞー。あとは……聴いてくれ大和先輩が僕の為にお弁当を作ってきてくれたんだ」
「にゃん」
多分このにゃんは相槌である。僕はそう思う。
「それで、とっても可愛いキャラ弁でよ。あの先輩は絶対子供っぽい趣味だな。下着もウサちゃんセットでギャップがもう可愛いってなんの」
じーっとにゃんたは僕を見つめている。
「甘えん坊さんだな。うん、絶対に甘えん坊だ。あの先輩、実は寂しがりやなのかもしれない」
「にゃん」
僕は隣に座っているにゃんたを抱いて横になる。腕の中ですっぽり収まるにゃんたは可愛い。ぎゅーっとしても逃げないのでめちゃくちゃ人に慣れている。
何処の家の子なんだろう? というか僕はこんな扱いをしていていいのだろうか。
抱きしめて匂いを嗅ぐとやっぱり匂いがしない。せっちゃんはどんな匂いがしたんだろう? 僕は慣れ過ぎて全く分からない。
いや、鼻が悪いのか? 少し心配になる。でも、瞳さんが眠った後のベッドはちゃんと分かったので大丈夫のはずだ。
「にゃんたは暖かいなぁ」
「ごろろ」
猫は甘える時に喉を鳴らすらしい。窮屈かな? って思っていたけどそうではないみたい。なので安心。黒色の毛並みはいいなぁ、触り心地も良くて癒される。
「にゃんた……うちの子にならないか?」
「にゃ」
人の家の猫を招く。多分、ダメな事だ。そっと諦めよう。
目を瞑っているとにゃんたの暖かさに全ての意識が集中して満たされる。ゆっくりとううん。いつもの様に意識が落ちて行った。




