2話 僕は女子の連絡先をゲットする
道具小屋の扉が開く。せっちゃんの氷が解けて少し力を入れると開いてしまったようだ。
「ちょっと、悲鳴あげなくてもいいじゃない……って冬凍さん何してるの?」
「あの……えっと……その」
「まてーい。僕を鬼の形相で追いかける人噛さんから僕を救おうと身を挺してくれたんだ」
「鬼の形相!? そんな顔してたの私……」
いいえ、めちゃくちゃ笑顔でした。だから、逆に怖かったです。人噛さんは尻もちをついている僕とせっちゃんを起こすと道具小屋の外に出た。少し気まずそうな雰囲気を見ると、冷静になってくれた様子。
「人噛さん……さっきの話なんですけど――」
「待った! ちょっとこっちに来て」
僕は人噛さんに引っ張られてせっちゃんと距離が出来た。そして、小声で人噛さんは僕に言った。
「さっきの話はその……ごめんなさい。急すぎたよね。あと、冬凍さんにも内緒にして欲しいんだけど」
「あぁ、僕もそう思う。あの人噛さんがあんな事を言うとは誰も想像出来ないからね。イメージは大事だよね?」
「ん、まぁ、そうかもしれないけど。二人っきりの秘密にして欲しい」
人噛さんと秘密を共有。なんて素晴らしい響きだ、思春期の男女が二人だけの秘密を握る。とても青春っぽい。
「あぁ、任せてくれ。でもなんて説明しよう……」
「わ、私に合わせて頂戴」
僕と人噛さんはせっちゃんの傍に戻ってきた。怪しいものを見るような目でせっちゃんが僕たちを見ている。いや、まぁ怪しいよね。絶対。
「冬凍さん、私達はちょっと……そうね。鬼ごっこよ鬼ごっこ! 春来さんと校庭を走って鬼ごっこをしていたのよ」
十七歳で鬼ごっことはあまり聞かない気がする。小学生の頃は友達とやっていたけどさ、それに普段はあんまり係わりの無い二人が急に鬼ごっこを始める……せっちゃんの目が疑っている。
「春来くん。そうなんですか? 鬼ごっこしてたんですか?」
「お、おおう。せっちゃん。僕は人噛さんと二人で鬼ごっこをして校庭を駆け回っていたのさ。僕が走るのが好きなのは知ってるだろ? それで鬼ごっこをする事になったのだよ」
「それにしては、何か怖い者から逃げるような様子だったけど……遊んでいただけなの?」
せっちゃんの疑いの視線が痛い。この雰囲気は嘘だとばれているのかもしれない。だが、人噛さんが考案した鬼ごっこして遊んでました! 作戦を完遂する為には、引き下がる事は出来ない。そんな事を考えていると人噛さんが口を開いた。
「春来さん、さっきから冬凍さんのことをせっちゃんって……二人はどういう仲なの?」
ナイス人噛さん。これで話題を上手い事ずらせば……逃げれる。
「おう、僕とせっちゃんはそうだな。幼馴染だよね一言で表すなら」
「は、はい。私と春来くんはそうですね。幼馴染です」
「そうなのね? 道具小屋で二人を見た時……その、とても距離が近かったから恋人なのかと思ってしまったわ」
「こ、恋人!?」
せっちゃんの顔が赤い、肌が白いせっちゃんが赤くなるととても分かりやすい。
「いやいや、恋人だなんて。僕はせっちゃんとは熱い友情で結ばれていてですね」
「そ、そうですねー」
眉に皺が寄った気がするが、気のせいだろう。僕は間違っていないはずだ。
「そうなのね、また連絡するから……えっと、春来さん。連絡先を交換しましょう」
「うん、僕も最近携帯電話って奴を持ち始めたからね」
「えっ」
せっちゃんから驚くような声が聞こえた。
「春来くん、聞いてません。私とも連絡先を交換しましょう」
「お、おおう。いいぞ」
僕は放課後、女子二人の連絡先を入手する事に成功した。何よりも人噛さんの連絡先を持っている男子はこの世にどれ程いるだろうか。とても嬉しい。
「連絡するからね? 春来さん。今日は私……帰るわね?」
「おう、人噛さん気を付けて帰ってな」
「冬凍さん、さようなら」
「はい。さようなら」
僕と人噛さんだけでは無く、せっちゃんと人噛さんも連絡先を交換していた。僕のひと夏のグラウンド鬼ごっこは幕を閉じる事となった。が、しかし。まだこの一日は終わらない。
「春来くん、人噛さんとそんなに仲良かったんですか? 二人で話している所を私は初めて見ましたよ」
「んー、そうだな。えっと……」
「怪しいです。二人でこそこそしていて、とても怪しいです」
「な、何でもないぞ? そう、鬼ごっこだな。鬼ごっこ」
「春来くんは、私とは鬼ごっこしてくれないんですか?」
「おいおい、僕と鬼ごっこをするって事は永遠に鬼になるってことだぜ? せっちゃんの体力じゃ僕を捕まえられる訳ない」
春来くんと僕の名前を呼び、せっちゃんは手を差し出した。真っ白い手を僕に突き出し、掌を上に僕を見ている。僕はその手とせっちゃんの顔を見比べると、とりあえず掌に手を乗せてみた。まるで、飼い犬がお手をしているようにも見える。
「はい、春来くんを捕まえました。春来くんの鬼です」
「おい、今のは反則だ」
「そんなことないですよー」
僕とせっちゃんは、道具小屋の中身を片付ける。さっき転んだ時に少しスコップやら箒を倒してしまった。綺麗に並べて道具小屋の扉を閉める。まさか、人噛さんに見つかるとは思わなかった。あの短時間で姿を消すにはここしか疑えない気もするが、人噛さんの察知能力が凄いと思う事にしよう。
「ところで、せっちゃんこの後は帰るだけかな?」
「はい、私は帰りますよ」
「じゃぁ、一緒に帰ろうか」
「はい」
僕はせっちゃんと二人で校庭を離れて校門へ向かう。野球部やサッカー部が部活を始めようとしていた、陸上部もグラウンドに集まってきている。僕が放課後直ぐに向かわなければ彼らの邪魔をしていただろう。そんな事を思いながら僕はゆっくりと歩幅をせっちゃんに合わせて歩く。人噛さんの突然の告白には戸惑った。僕達三人は同じクラスで過ごしているが、あんまりクラスで関わる事は殆どない。
「二人で帰るのも久々ですね」
「小さな頃は毎日一緒に帰っていたけどなー」
僕とせっちゃんは家も近くて一緒に帰っていた時期がある、今は僕が寮に移ったので途中から道が違う。
「それにしても人噛さんの足は速かったな。勉強もできて運動も出来る。それにとびっきり美人って神はいくつも与えすぎだよな」
僕はそう言ってせっちゃんを見る。
「思ったよりも話しやすい人なんですね。勉強も出来て運動も出来て美人さんで……春来くんを誘惑するとは強敵です」
「誘惑って訳じゃないけど、そうだな。あの運動能力は強敵だ。せっちゃんが居なかったらアレはやばかったかもしれない」
「春来くんは私が居ないとダメですね」
二人で歩く道を夕日が照らし暑くもなく心地が良い。僕とせっちゃんは坂道を下ると分かれ道が現れ寮に向かうので左へ、せっちゃんの家は右だ。
「せっちゃん、また明日な」
「はい。お気をつけてお帰りください」
僕はせっちゃんと別れて寮に向かう。吸血鬼の先祖返りである人噛さんが僕の血を求める。つまり、僕の体が目当て? とても悲しい気持ちになった。
僕の――人間の血を口に入れた人噛さんはどうなるんだろう。本格的に吸血鬼としての能力を得るかもしれない。僕の血液が無くなるまで吸われるかもしれない。どうなるか分からないが、可愛い子の連絡先をゲット出来たので取り合えず良しとしよう。
さて、寮が見えてきた。僕の寮は先祖学園から一キロ程離れていた。学園内に寮が存在するが主に女子優先で男子は少し離れている所に寮がある。
僕は寮の入り口でうろうろする人影を見つけた。見た目は中等部かな? とても幼く見える女の子だ。最近、中等部に上がったばっかりかもしれない。ここに居るって事は寮を間違えたのか? 女子優先は学園側だぞ?
恐らく迷子な女の子に僕は声を掛けた。




