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幼馴染は雪女で同級生は吸血鬼 ~先祖返りと青春の世界~  作者: Yuhきりしま
一章:人を噛む吸血鬼は嫌いですか?
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1話 僕は女子に追いかけられる

 夏休みまで一ヶ月を切っていた。出席だけは大の得意で皆勤賞を目指し日々勉学に勤しんでいる。と言っても勉強が好きな訳で出来る訳でもない。


 そんな僕は先生の言葉を上の空で聴きながら過ごすのは悪いと思いノートを取ろうと思った。


 学生らしく勉強をする……夏休み前だけど!


 意欲は湧かないけど!


 筆箱からペンを取ろうとしたら指先に鋭い痛みが走った。


 コンパスの針が指に刺さってしまった。皆はコンパスを筆箱に入れる際は要注意して欲しい指に刺さらない様に工夫して頂きたい。


 刺さった指を見ると人差し指の先に小さな穴が開いており、赤く血が滲む。僕はこんな時の為に所持していた絆創膏を指に貼る事で処置を行った。


 本当は靴擦れした時に使うつもりだったけど役に立ったので満足だ。


 目的のペンを手に入れ先生の言葉で大切だと思う所と、テストに出そう……と山を張れそうな所をノートにメモる。すると、しばらくして誰かに見られている様な違和感に襲われた。


 ノートを取る手を止めて僕はそっと振り向くと……と人噛(ひとがみ)さんと目が合った。


 目が合った事で驚いたのか、少し目が大きく見開いてそっぽを向かれてしまった。偶然だろうか、あの人噛さんが僕なんかを気にするわけがない。授業中に空を見上げているような男だぞ? 僕は気にしないで、ノートを取る作業……もとい山を張る作業を続ける。


 それからも僕は視線を感じる……けど、早く帰りたいし学校もそろそろ終わる。気のせいだと思う事にして一日を過ごした。


 放課後になり、僕は靴箱を開けると一通の手紙が入っている事に気が付く。ゆっくりと開ける……すると『放課後、体育館の裏で待ってます』と手紙には書いてあった。そして、差出人には人噛瞳(ひとがみひとみ)の名前が書いてあった。


 成績優秀で容姿端麗の彼女は憧れの高嶺の花。しかし、クラスで友達と一緒に過ごしているのはあまり見ない。その彼女からは高貴なオーラを感じ取っているのか皆は近づくのを躊躇っている節があり僕も今までは見ているだけだった。


 手紙を貰い、ガッツポーズと同時に疑問が浮かんだ。どうして僕なんだろう?


 放課後の靴箱に手紙が入っている……これはもしかして告白? これこそ青春!


 だが、しかし。残酷なイベントがあるのを忘れてはいけない。良く思い出して欲しい『あ、本当に来た。嘘に決まってるじゃん』とただの悪戯で終わる事があったであろう……僕に至っては指定の時間に指定の場所へ行ったが差出人不明で誰も来ない……そんな経験がある。


 だが、今回は差出人が分かっている。人噛瞳(ひとがみひとみ)さんからのお誘いだ!


 とても嬉しい……でも、もしもその場に人噛さんが居ないとしても僕は後悔しない。怖いのは人噛(ひとがみ)さんじゃなかったらどうしよう。男として人噛さんの好意は無視できない、僕は下心満載で体育館の裏へ向かった。


 すると、なんということでしょう。僕はちらっと体育館の裏を覗くと人影が見えた。しかも、見覚えのある人物が一人で佇んでいる。肩まで伸びた髪の毛を風になびかせながら腰の後ろ辺りで両手を組み、右足を軸に左足の爪先でバランスを保っていた。


 如何にも『遅いなー、まだ来ないのかなぁ……』と言いたげな様子で人を待っていた――否、僕を待っていた。これはとうとう、この僕、永遠春来(えいえんはるき)に春が来るんじゃないですか? そっと深呼吸。ふぅ、行くぞ僕。勇気を出せ!


 近づく人――僕に気付いた人噛さんも僕に歩み寄ってきてくれた。


「えっとー、人噛(ひとがみ)さん。僕の靴箱に手紙が入ってたんだけど、僕で合ってる……よね? 誰かの靴箱と間違えた訳じゃないよね?」


「あ、うん。春来(はるき)さんに出しましたよ。来てくれて嬉しいです……」


 頬を薄っすらと赤く染めて人噛さんはとても可愛い。僕の目の前には人噛瞳さんが立っている。容姿端麗……とても胸が大きい。クラスの中でも目立つほど素晴らしい……とても素晴らしい浪漫の持ち主だ。


 普段、人の顔を見て話す時は少し照れ臭くやや視線が落ちてしまい、もはや胸元の膨らみと話している僕はここで初めて気付いた。人噛さんの身長は僕より五センチほど高い。僕が百七十三センチだ。人噛さんは四捨五入すると百八十センチに至る事になる。


「本当に来てくれてありがとう、春来さん。えっとね、話があるんだけど……」


「は、はぃい」


 少し声が裏声気味になってしまった。落ち着け僕、堂々とするんだ。


「今日授業中に怪我……してたよね? 大丈夫?」


「うん。ちょっとコンパスで指先を刺しちゃっただけだから大丈夫だよ。ほら、絆創膏も張ってるし」


「本当だ。これで大丈夫だね。ずーっと気になっちゃってて」


 人噛さんが僕の心配をしていてくれた? 嬉しい。それにしても、さっきから僕の指先に視線を向けている気がする。


「本当に急で迷惑だと思うんだけどね。私に……」


 僕の心臓がドキドキと鼓動が激しくなる。これは絶対アレだろう? 


『私と……付き合ってください』ってパターンだろ? ん? 『私に』と言ったか?


『私に……付き合ってください』と言われてお買い物に連れていかれるパターンか!?


 僕の予想は大きく外れてしまった。


「……一口だけ舐めさせてください」


 僕は、人噛瞳という美しい女性に放課後呼び出され、二人っきりで言われた言葉が『一口だけ舐めさせてください』舐める…舐めるとはなんとまぁ、妖艶な魅力が溢れる言葉である。ん、そういえば……。


「えっと……その前に、確認したいのですが人噛さんの先祖返りって確か……」

「吸血鬼だよ?」


 先祖返り――その昔に勇者が数々の敵を倒して頂点になり多種族を嫁にして吸血鬼や雪女、天使や人魚を嫁にして子孫を残して行った結果。遠い御先祖様の特徴が現れる事がある。


 しかし、今の時代ではそれが普通で何かしらの特徴が表れている。完全なる吸血鬼や雪女になっている訳ではない、だから吸血鬼は太陽の下でも活動できるし、人間の血が主食では無く、僕たちと変わらない食事を摂っているはずだ。


 そんな吸血鬼の先祖返りが人噛さん……僕へじりじりと距離を詰める。それに対してゆっくりと後ずさるが、後ろは体育館の壁に行く手を阻まれた。そして、人噛さんの手が僕の頬数センチ隣にドンと軽く叩きつけられる。


 先ほども言った通り、人噛さんの方が背が高い。僕の視線は豊かな膨らみ――では無く人噛さんの顔を見上げていた。当然、僕は見下ろされていることになる。美しい女性に壁へ追いやられ僕は上目遣いで見上げて逃げられない、これが壁ドン?


「ひ、人噛さん。その……僕の血が舐めたいってことですか?」


「うーん。少しよく分からないの、戸惑ってる……のかな? つい春来さんの事が気になるっていうのかな? こう早く自分の物にしたいというか、まるで食べちゃいたいような気持ち……胸の奥が熱くなるような、そうこれがきっと恋煩いなのね。初めてなの私……それにとても舐めたいって気持ちが大きくて呼び出しちゃったの」


 人噛さんは吸血鬼の先祖返り……僕はご飯? このままでは食べられてしまう。恐らく僕はちゅうちゅうと吸われて干からびてしまう。


「人噛さん。ま、また今度ってことで……」


「今がいいんですけど……」


 少し人噛さんの視線が冷たくなった気がしたが気のせいだろう。


「と、言う事で僕は用事を思い出しました失礼します」


 そう言って僕は走った。青春から逃げてしまった……否、ご飯にはなりたくない。逃げる僕と追いかける人噛さん。


 放課後のグラウンドを僕は走っている。まさに、青春の汗を掻きながら風を感じて――危機を感じながら走っていた。


 僕――永遠春来は帰宅部で帰路についているはずだった。


 満面の笑みで追いかける人噛瞳から逃げる放課後なんて想像してなかった。


「春来さん待ってくださーい」


「逃げてる途中で待てと言われて待つ奴がいるかぁー!」


 二周くらい走ったが、このままではキリが無い。ふと、視界に手を振る人物が見えた。僕はそこに向かって走り抜ける。僕は元々いた体育館の裏に走り、僕に向かって手を振っていた人物の誘導に従い、道具小屋に転がり込んだ。扉を閉めて開かないようにせっちゃんが、がっちりと固定する。


「春来くん……何かしたんですか?」


「落ち着け、僕は何もしていない。それと、ありがとう! せっちゃん」


 僕は息を整える。耳を澄ますと人の近づく足音が聞こえた。人噛さんが僕を探し周りの確認している様子。


 道具小屋もがちゃがちゃとドアを触られたが、がっちりと雪女の力で固定しているので開くことは無い。


「春来さーん。どこですかー?」


 声が聞こえたが、僕はそっと息をひそめる。暫く待って耳を澄ますと足音が遠ざかるのを確認した。


「ほんっとうにありがとう! せっちゃん」


「本当に何もしていないんですか? 人噛さんが男の子を追いかける姿なんて初めて見ましたよ」


 深い理由はあるが今は説明してられない。そんな僕を助けてくれたのはクラスメイトで幼馴染の冬凍雪奈(とうとうせつな)だった。昔『ゆきな』と呼んで複雑な関係になったが今はそれどころじゃない。せっちゃんは雪女の先祖返りで周りを凍らせる事が出来る。それで、道具小屋の扉を凍らせて開かない様にしてくれていた。


「それにしても、せっちゃんは何をしてたの? 帰っていても不思議じゃない時間だけど……」


「私にも色々とあるんですよ? 春来くん。それに偶々私が見かけたからこそ無事ですよね?」


「そうだ、聞いてくれ。人噛さんがこう、僕に迫ってきて……壁ドンって意外とかもしれない」


「か、壁ドン!? 春来くん人噛さんに壁ドンしたんですか?」


「いや、したというよりされたというか……」


「意味が分かりません」


 周りにはシャベルや箒などが無造作に置かれていた。壁の周りに立てかけられているので扉付近はスペースがあり、二人で居てもそこまで窮屈じゃない。ようやく腰を下ろして落ち着くことが出来る。


「春来くん……今からどうしましょうか?」


「そうだな。人噛さんとの今後の付き合い方も悩むが今はここから出ないといけないよな」


「こ、今後の付き合い方? 春来くん何があったんですか?」


 じーっと見つめてくるせっちゃん。髪の毛が結構長い彼女は後ろで束ねた後に、上にあげて髪留めで固定している。なので、後ろから見るとうなじが見えるのだが今は隣で僕の手を掴んでいる。


 僕にボディタッチしてくれる稀有な女の子である。


 そのまませっちゃんの手を両手で包み込む様に掴む。驚いた表情をした後に、せっちゃんは僕の手を握り返してくれた。


「せっちゃん……本当は人噛さんって、とても怖い人なのかもしれない」


「あ、えっと。春来くん? 虐められたの?」


 僕は唯一手を握れる女の子、せっちゃんの柔らかい手を堪能しながら口を開く。


「実は……」ガタン。


 僕の喋りを邪魔するかのように……道具小屋の扉に音が響いた。

 僕とせっちゃんは二人で顔を合わせる。二人で息を潜め、丸くなるように小さくなった。


「なぁんだ。ここにいるじゃない」


 声の主を反射的に確認する、道具小屋の換気するために用意されていた小窓から人噛さんが此方を見ていた。


『ひいぃ』と僕はせっちゃんと悲鳴をあげて腰を抜かしてしまった。

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『大っ嫌いな幼馴染がゾンビに噛まれて隔離されてやんの……え?俺も?』から来てくれた人ありがとー!本作も応援して頂けると嬉しいです。



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