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少年は少女と竜を探す  作者: うなぎうなぎ
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第3話 「少年は少女を保護する」

「騒ぐな、俺は人間だ。この血は後ろの魔物の血で、俺はお前があいつ等に食われるところを助けてやった」

少女が叫ぶのをすんでのところで止めながら、状況を小声で説明するが、少女は未だに目を見開いた状態で固まっている。まだ起きぬけの衝撃が抜けないのか。仕方がない。服で血を拭い、片方の手で頭を軽く、けどしっかりと叩く、そしてもう一度小声で言う。

「俺は助けた、お前は助かった。まずは分かったか?」

恐る恐るだが、少女は首を縦に振った。

「よし。じゃあ、色々聞きたいところだが、すぐに街に行くぞ。血の匂いに釣られて他の魔物がじきに来る。要するに、安全な街へ行く、その間は大声を出すな、できる限り喋るな、良いか?」

少女が少し固まった後にまた縦に首を振る。

・・・少し物分りが良すぎる。何故ここにいる?少女が一人で来れるような場所ではない。

隣の村へと続く道には魔物が出にくい。おそらく、道ができているということはそこは人間の領土と考えているのだろう。そして、そこを通る時には強い人間がいるということを学習しているのだと思う。道を通る時は腕に覚えのある者を雇って移動するのが常だからだ。魔物は賢い、少なくとも人間の子どもよりは。

だが、ここは道から随分と離れている。獣道を幾つも通らなければ辿り着くこともあるまい。

つまり、道から外れても大丈夫だと自負のある腕のたつ人間が故意に置き去りにしたか、幸運にも魔物に見つからずに少女が迷いこんだか。・・・あるいは、少女を魔物に確実に食わせるために誰かが危険を承知で捨てたか・・・心中ならば分からなくもない。母なりだった場合は魔物に連れ去られたか・・・だが、それならば少女が無事な理由が分からない。

剣と鞄を拾い、ついでに片割れが持っていた剣を拾いながら、耳を澄まして周りを見渡す。・・・まだ音も形も何も無い。

オークを見る。まぁ、順当に雄だ。だから、

「こっちを少しの間見るな、喋るなよ」

と少女に良い、少女が後ろを向いたのを確認し、オークが持っていた剣でオークの睾丸をとる。

オークの討伐の証は雄は睾丸、雌は乳房である。豚のような顔から、子どもを授かりたいという親達にそれ等から作った薬は人気なのだ。正直、正気の沙汰ではないと思う。こんなのを口になんかしたくねぇ。

睾丸をとった後は、敢えて腹を十字に裂く。少しでも匂いがキツくなるように。切った後の剣はそこらの葉っぱで血を拭う。マント、正確にはローブというらしいが違いもよく分からないのでマントと呼んでいる、が返り血を吸っているのであまり意味はないのだが、血の匂いがする物を持っているのは危険だ。フードを被り、少女を小声で呼ぶ。

「行くぞ」

こくん、無言でこちらを見ながら頷く少女。

・・・正直、不気味ですらある。少し年が下であろうか、この位の少女であればうるさいのが常である。少なくとも喋るなと言って、本当に何も喋らないことなどありはしない。名を尋ねる、連れがいるなどと騒ぐ、泣く、街の人間でないなら村に帰ると言い出す、思いつくことはキリが無い。だが、こいつは言いつけを守る。無言である・・・確かに、その方が都合が良いのだが。

ところで、俺は木をつたってきたが、この少女には無理だろう。そうすると茂みを突破するのが都合が良いが、虫に刺されでもしたらそれも面倒である。

・・・・・・・溜め息が出る。使うしかあるまい。

「目を塞いでくれ、内緒なんだ、今からすること。ここから何回かまた目を塞いでもらう、理由は聞かないでくれ」

そう言うと、少女は初めてきょとんとした顔を見せたが、頷いて目を閉じ、律儀に手で目を覆った。

それではやるか。

近くの背の高く、太い木を選ぶ。

これが良いか。

オークの剣を構える。ちなみに自前の武器でないのは大した理由ではない。たんに鞘に戻しているからだ。剣を2本使うということは3本目を拾えば必然的にそうなる。

想像する、この剣が切ることを。そして魔力を通す。

一閃目は水平に。

二閃目は斜めに、一閃目の軌道上と交差するように。

そして一閃目と二閃目の間を蹴り飛ばすと、木からまるでケーキのピースのような木片が蹴り出される。

バキバキバキと木が軋み、ずぅぅんと腹に響くような音がして木が倒れ、木の上に道ができる。驚いた虫達が多少飛ぶが、茂みを突っ走ったり、茂みがない場所を探して歩くよりよっぽど良いだろう。

「目を開けても良いぞ」

声をかけると、驚いた顔をしていたが声をださない。

驚くのは分かる。オークの持っていた剣は鈍らだし、俺のような小僧がそれで木を切れるとも思うまい。

「さぁ、木の上を歩いて行くぞ。足を滑らせるなよ、怪我をする。気をつけて、そして急いで行くぞ」

さて、ここからは血と今の派手な音と、これからも同様の方法をとるのでその音と、どちらに魔物が寄って来るか。あるいは音には警戒するのか、運任せである。

バキバキ、ずぅん。

バキバキバキ、ドォン。

少女に言っていないことがある。

実のところ、木が一直線に街の方に斜めに倒れているのはよろしくない。

頭が働く魔物に見つかれば街に来てしまう。

だが、俺は朝ご飯までに戻らないといけないのだ。太陽の傾き具合と、自分の体内時計とでいくと、ギリギリ間に合うとは思うのだが・・・。


結論を言えば、幸運にも魔物に出会わず道に出れた。

そして、朝ご飯も間に合った。というか、間に合わせてくれた、皆が待っていてくれたのだ。

「ごめん、なさい、神父様。遅く、なり、ました」


「いえ、大丈夫です。すぐに戻ると信じていましたから。それにその状況を見れば分かります。貴方は貴方の信条と秤にかけた上できっと最善を尽くしたのだと」

神父様と子ども達は少女の手を引いて走ってきた俺と少女を見ていた。

ちなみに二人とも息が切れている。


「森で拾いました」


「こら、ヴィル。言葉遣いが悪いですよ」


しかし、事実であるのだが。

「・・・森で保護しました」


「そうですね、その方が良いでしょう。さて、お嬢さん、貴方のお名前は?」


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

ん?話さない。

「もう喋っても良いんだぞ?森を抜けたし、ここなら魔物が来ない」


少女は首を振る。そして、首を押さえると

「・・・ぁ・・・ぅぅぁ・・・・ぁぅ」

微かに音がする。しかし、少女は一生懸命であるのが表情から分かる。

何より、俺が、この俺が『偽り』だと、演技だと気づかないわけがない。

つまり、こいつは喋らないんじゃない!話せないのだ!!


「無理をさせてしまいましたね、良いですよ。無理をしないで、さぁ、二人とも食事にしましょう」

神父様も気づくと、少女の頭を撫で、背を押して席に案内する。

俺もとりあえずは食べることにする、でないと他の皆が食べれない。


「「「ヴィル兄、臭い」」」

あ、マントとオークの睾丸入り鞄を外に出しておくのを忘れていた。

鞄と、マントとを水につけにいく。消臭効果がある葉を揉んでつけた特別な水である。勿論、洗濯などで使った水を再利用している。俺が戻った時には既にご飯が開始されていた。


食卓だが、いつもより数倍うるさい。

客がいるからだ。

子ども達は娯楽に飢えている。いや、新鮮なものに飢えているといった方が正確だろう。大人よりも子どもの方が飢えている、大人は自分の意思でどこにでも行けるが、この子達はまだ行けない。

特に森には興味津々である。神父様と俺からキツく、それはもうキツく、行ってはいけないと言われているからだ。ちなみに森に関しては神父様も容赦がない。ご飯抜きで済めば良いが、大抵は何かしらセットである。基本は尻叩きか。ちなみに何度も繰り返して足を折られた子もいる。ただし、あまりにも綺麗に折ったものだから回復は早かったが。1つか2つ上の兄貴達だったので覚えている子も多いだろう。あの時の神父様は怖かった。なにせ、無表情に折ったのだから。折った後も無表情だったが。

子ども達の中では森は興味と恐怖の象徴でもあるといえよう、ただし森に行くことを許されるようになった俺から言えば森よりも神父様の方が何倍も怖いと思う。

そんなことを喧騒を聞き流しながら思っていると、

「ヴィ・・・ル・・・ヴィル・・・ヴィル!」


「あ、はい!神父様!!」


「この子は話せないのだから貴方が説明をなさい」

見れば、質問攻めにあっている少女の姿。

一生懸命に子ども達は「はい」か「いいえ」で答えられるような質問をし、少女はそれに忙しく首を縦や横に振っている。


仕方が無い、彼女を保護した時のことを話すことにする。つまり・・・俺もこの少女について何も知らないということを。

「・・・ということです」


「・・・そうですか」

神父様の表情が暗くなり、皆もつられて暗い表情になる。

いけないな。


「ところで、皆、さっきから質問をしてたけど何か分かったか?」


「うん。あのね、ここの子じゃないって!」

「名前は『あ』からは始まらないって!」

「『い』でもないって!」

「『う』でもないよ!」

「『え』から始まるんだって!」

「お父さんはいないんだって!」

「お母さんはいるらしいよ!」

「遠くでも近くでもないって、住んでるとこ!」

「色んなとこに行ったことがあるって!」

「ヴィル兄は怖いって!」

「でも彼氏はいないってよ?」

「婚約者も!!」

「ヴィルお兄ちゃん、良いんじゃない?」

「えぇ~!お兄ちゃん、ギルドのお姉さんと仲が良いよ!」


「だぁ~~~!!!うっせぇ!!分かった、分かった!悪かった、ありがとうな、うん、色々聞き出してくれたんだよな、ありがとう、でも、ほら皆もご飯が冷めるぞ」

は~い、と元気な声で応えると、皆一生懸命に食べ始める。

「ほら、急ぐな、喉に詰まらせるぞ。ところで、あぁ~、名前が分からないからあんたと呼ばせてもらうが、あんたも悪いな、こいつ等うるさかったろ?」

そう少女に苦笑しながら謝ると、少女は笑って首を横に振った。

「そうかい、じゃあ、食事が終わったら一緒に冒険者ギルドへ行こう。そこで、母親がいるんだろ?母親がどこにいるか確認してみよう。もしかしたら捜索願いが出されているかも知れないし、そうでなくてもこっち側から母親の捜索願いを出すことができる」


「そうですね、もし見つからなくても貴方のお母様が見つかるまでここにいても良いですからね、不安なことは何もありません」

そう神父様も言えば、、少女の瞳は先程までよりも一層輝き、少女は笑顔で頷いた。


・・・この時はまだ何も知らなかったのだ。

世界が広く、現実は時として想像を遥かに超えることがあるのだと。


こちらのみをブックマークしてくださっている方は、ひっっっっっさしぶりでございます。

うなぎうなぎです。


活動報告にも書きましたが、メインはもう一つの連載の方なので中々更新ができず。補足するならば、向こうもあまり更新ができていなかったのでなんともはやという感じです。


さて、同日の更新ということで『もっふもふ』も同時更新でございます。

よって、先に出来上がった向こうの方で後書きを書いているが故に何を書こうかなというところ。

では小話を。


先日、踏み切りが開くのを待っていた時のこと。

中々開かない踏み切りに若干の苛立ちが募り、また後ろには列ができはじめていました。

「なげぇよ、この踏み切り」

皆の声が心に聞こえてきそうな、そんな時。

駅の方に電車が止まり、乗客たちが降りてきたのでしょう。

近くの駅の出口からも人がぞろぞろと降りてきました。

より、混雑する周辺。

更に苛立つ自分。

そんな中、ふと気づいてしまいました。

さっきまで隣には誰もいなかった筈なのに誰かがいる。

それはおかしいことでもありません。周囲は混んできているのですから。

ですが、気配がおかしいのです。

一人の人間が出すような気配ではない。

瞬間ゾッとする自分。隣を見ない、隣を見ないとしていると、

横から

「ば!!」

変な声が大きく響きました。

ひぃぃ!と怯える自分。でも周りの人は誰も騒ぎません。

自分にしか聞こえないのか?そう疑念が湧くと同時に気配が遠ざかります。

恐る恐る、気配がした方へ首を回すと、

・・・誰も立っていません。

気のせいだったか、早く脈打つ心臓を宥めながらふと後ろを見ました。

そこには・・・

赤ん坊を抱いたお父さんの姿が。

「いないいない・・・ばぁ!」

そう。

一人の気配ではないのは当たり前、しかも「ば!!」ではなくて「ばぁ!!」

正体見たり枯れ尾花、踏み切りが開くと同時になんともいえない気持ちを抱きながら周りの人に流されて歩いてその場を去りました。


・・・最近、あった実話です。






以下うなぎうなぎのいつもの!


皆さんからの後書き上の「勝手にランキング」の1日1回ぽちっと、感想、評価、いずれも楽しみにしております!読者の皆様からの反響はとてもモチべUP要因です☆


是非ご贔屓に♪


『もっふもふ』もよろしくぅ!(某アニメ風に)





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