【ぶりっ子解体新書】case2 完璧主義ぶりっ子
完璧主義ぶりっ子とは、人に媚びることを目的としておらず、ぶりっ子を演じることを目的としたものである。
相手の反応の分析、好奇心、個性の確立など様々な理由があるが、完璧なぶりっ子への追及が大きいだろう。
また、ぶりっ子はネット上で中傷の代名詞にもなり得るため、明確な作り方は記されていない。
自身の経験を土台に改善を繰り返すしかない。
ここではぶりっ子の行動の意図と効果について記す。
また、以下の行動を全て計算して行うことは難しくないことを主張する。利益があるかは別として。
1,動作は鼻から胸の範囲でおさめる。
基本動作は全て小さく行う。イメージとしてはリスがドングリを集めるといった小動物的な動き方。行動が小さいことで力の弱い存在であることを分かりやすく主張するためだ。
笑うときは口元を隠す、疑問符を浮かべる時は小首を傾げて、否定する時は手を小刻みに振って、さよならの挨拶は手を緩く振ってなど女性らしい動きを意識する。また、片手は緩く握り、基本的に顔の横、輪郭に沿って斜めに配置すると防御姿勢になり不安そうに見えるため守ってあげたい対象になりやすい。しかし、拳をしっかりと握ると力があるように見えるため注意が必要。
手を握る、開く、などの動きははっきりしすぎない方が良い。ただし、ゆっくり動かすと鈍臭く見え、相手をイライラさせてしまうため加減が必要。
2,話し方はゆったりと。けれど呂律は回す。
早口で話すと頭の回転が早く、落ち着きのない人間に思われてしまうためゆったり余裕を持って話す。声はワントーン高くし、相手に好感を持っていること、自身の機嫌が悪くないことを示す。しかし、呂律が回っていないと聞き取りづらく、相手にストレスを与えてしまうため伝えたいことは強調して言う。
「聞き上手さんだねぇ」「甘えたさんなん?」など、〇〇さんといった幼い表現は相手に柔らかい印象を与える。また、「それ好きなん?」「なにしとん?」語尾に“ん”をつけると言葉が砕け、距離感が近いように感じる効果がある。
3,好きなものの定番をおさえる。
「好きなものは?」と尋ねられた際にすぐに答えられないと、キャラ作りであると思われる。また、「ない」という回答は話題が広がらないため避けた方が良い。
好きな食べ物は苺。好きな動物はウサギ。好きなタイプは優しい人。など、ある程度定番は抑えておく必要がある。また、簡単な理由を添えられることで話題を広げることが楽になる。
4,相手と正面から目を合わせない。斜め横から。
自分の顔によほどの自信がない限り、正面から目を合わせるのは控えた方がいい。相手と身長差があればあるほど、相手に自分がどう映っているか予測できない。それが完璧な角度であるかどうか事前に把握した方が良い。
斜め横から視線を合わせるのは相手に圧迫感を与えないため適切である。これは、初対面の人間と話をする時や、相談をする時に適切な位置である。
また、相手としっかり目を合わせるのは褒める時と甘える時、冗談を言う時に限ると、構ってほしいタイミングを分かりやすく示すことができるため相手も行動に出やすい。
5,基本的に視線は斜め下。他人の視線の位置を把握する。
日頃過ごす中で視線は斜め下、前を歩く人の腰と背中の間の位置に置いておくと良い。常に周囲の視線がどこに向いているか把握し、自身の身だしなみや態度に気をつける。たとえ通りすがりの人間であっても気を張ることで、ぶりっ子の維持が簡単になる。
また、人と食事をする際も視線は斜め下に向け、相手の視線を把握することが必要。ご飯を口に運び入れる際、相手が見ている内は少なめに入れる。決して食べながら目を合わせたり話したりしてはいけない。
ジュースを飲むときはペットボトルを控え、ストローの物を選ぶ。顎を上げる仕草は顔を崩れやすくし、ペットボトルを持ち上げる仕草は小さい行動ではなくなってしまうため、両手でパックを持って少しずつ吸うのが適切である。
9,初歩的なボディタッチの仕方。
ボディタッチは相手に好感を示すのに適している。しかし、相手がそれを避ける場合があるため、まずは手相の話を振る。「私、ちょっとだけ手相わかるんだぁ」と、自分の手のひらを机の上に乗せ、相手に向ける。ここに相手の手を乗せるように促すが、相手に躊躇いがあるようならば自分の手のひらを見本にして手相の説明をする。生命線、感情線、頭脳線、KY線、守護霊線、仏眼、M字線など簡単な知識は身につけておくこと。占い好きの人間は多いため簡単にボディタッチに移ることができる。
また、男性を相手にするなら筋肉に興味を示すのも良い。「もしかしてお腹むちむちだったりして」と冗談を言えば触らせてくれるパターンもある。そこで褒めることで好感度を簡単に上げることができる。その流れで腕相撲にもっていき、自分の非力さを主張することもできる。
10,苦手なものは克服する。高い歓声を上げない。
怖いものが多いことは守られる環境を作るために適している。けれど、女特有の高い声を嫌う人、オーバーリアクションを嫌う人は多いためある程度克服している必要がある。
幽霊、虫、などは悲鳴は上げず、相手の服などを掴む、背中に隠れるなどして恐怖心を訴える。
絶叫系は断りすぎるとノリが悪いように捉えられてしまうため、ある程度は応える必要がある。
高所、閉所、暗所の類は悲鳴を上げず、「怖い」を連呼することもせず、静かに恐怖を訴える。「ごめんね。どうしても苦手で…」と謙虚な姿勢で伝えると、弱々しさが強調されるため良い。
また、好きなものに対してもオーバーリアクションはせず、満面の笑みを浮かべてホクホクと自分の心を温めている仕草をする方が女の子らしさが強調されて良い。ただし、相手からプレゼントを貰った場合は表情を最大限に活かして驚きと感謝を伝えた方が好感は高い。
13,人によってキャラを変えない。
男と女によってキャラを使い分けるといったことをすると、引かれる可能性が高い。「可哀想」「頑張っている」と思われてはいけない。あくまでも自然体でいることが大切。
そうすることで、ぶりっ子と天然、不思議ちゃんの境界線が曖昧になり、中傷されにくくなる。ぶりっ子は中傷の代名詞であるが、天然と不思議ちゃんは違うからだ。
前作【ぶりっ子解体新書】に記した“良いぶりっ子のつくりかた”に加え、以上のことをすると中傷されないぶりっ子になることができる。
ぶりっ子は中傷の対象であるはずなのに何故ぶりっ子を極めようとするのかといえば、単純に、相手からの反感を買わないようにする対振る舞いを秘めているからである。
ぶりっ子の行動自体は相手を尊重しており、かといって自身を貶して相手を持ち上げるようなスタイルではない。
何が問題かといえば、相手を選んで行動をしてしまう人がいること、程度が過ぎることである。
ならば、その程度を調節し誰にでも同じように振る舞えば、それは完璧なコミュニケーションへと変わる。
ぶりっ子とは対男性への女性らしさを強調したコミュニケーション方法である。
それを応用すればもちろん女性への効果も発することができる。
*
整えられたボブの黒髪を揺らし小首を傾げた彼女が、その大きな瞳に俺を映して問う。
「今日朝ごはん食べたぁ?ちょっと元気なさげな気ぃする」
「ああ、時間なくて食べてこなかったわ」
そう言えば彼女は眉を八の字にして困ったような顔をした。一人前に心配をしてくれているのだろう。
「前も食べてこなかったって言ってた…。そんなんしてたら体壊すよ?あ、そういえば私、手相見れるから見てあげようか?もしかしたら大変なことになってるかもよぉ?」
語尾に少しだけ意地悪な色を含めた彼女がニマリとしながら手のひらをこちらに向ける。普段袖に隠れているその手は思ったよりも小さく、白かった。
その手におずおずと自分の手を乗せれば、彼女が緩く俺の手を引いて自分の顔に近づける。
ふわりと香る甘い匂い。僅かに触れる柔らかい腕の感覚。
途端にスッと真剣な目をする彼女。
細い指が手のひらの線をなぞってくすぐったい。
「あらぁ。大変ね」
「何が」
「生命線。二股に分かれてる。大きい病気するかも」
「やばいじゃん」
「やばいね」
やばいだなんて思っていない軽い声色に所詮は占いかと密かに思う。
スルスルと彼女が手のひらに指を滑り、今度は中央に引かれた一本の線をなぞった。
「これね。人生に成功する人の線なんだよ」
「そうなん?」
「そう。お金持ちになるの。まあ、格好いいし運動もできるから当たり前かもね。いいなぁ。」
そこまで言った彼女は俺の手を解放し、自分の手相を見比べた。私にはないもん。と軽く頬を膨らませる。
俺は去った体温をじわりと滲ませながら手を元に戻した。
「お前も可愛いから成功すんだろ」
一方的に褒められた仕返し、というか礼というか。
ぶっきらぼうに言えば彼女は目を見張って驚いた顔をした後、口元に手を当て花が咲いたように小さく笑った。
「ありがと。そういうとこ、格好いいよね」
口から溢れたよな、着飾らない言葉が胸に落ちた。
*
顔が可愛ければなんでも許される。
けれど、相手を不快にさせない行動くらいは自分で身につけたいと思う。