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死を乗り越えた力  2

ゲームは単発で奇跡を起こせるのに、十連では奇跡は起こらない。

俺は何のために魔法の石を貯めこんだんだろうか……

耳の横で風を切る音がとても心地いい。

常人ではありえない速度で走り抜ける森のなかは楽しい。

地を蹴ればめくれ上がり、それから視界に映る光景が線に変わり一瞬で移動することが出来る。

快晴の空に向かって飛び上がれば、見上げていた周りの森林たちの背が小さくなる。

なんなら空気すらも――――蹴って進むことが出来る。


「ハハハッ!!自由だ、今の俺はどの人間よりも自由だ!!」


いくら前の世界で陰キャを極めようとしていたと言っても決して外に出歩かなかったわけではない。

課金するためにバイトを行い、勉強するために図書館へ歩いたり、ゲームで爆死すれば家の周りを走り回ったこともある。


「お、見え……た?」


空中から見渡す光景には苦労して作り上げた自慢のマイホームが確かに見えた。

だがその周りには見たことのない人型の何かが群がっている。


「まさか!俺の家をアジトにでもしようと……マズイ、そうはさせねぇ」


無駄にテンションは爆上がり、それに相まって今の自分には出来ないことがないとまで言い切れるとんでもない身体能力を手に入れたシノノメは……調子に乗っていた。

空中を蹴り、ロケットのように地面に着陸すると大地がシノノメ中心に爆発した。


「な、なんだ!!」


「体制を整えろ!!襲撃だ!!」


土煙が漂い吹き荒れるなか、複数の男の声が響いた。


「(人間か……?)」


言葉を発する別の種族を目にしているシノノメは自分と同じ言葉が使えるからといって同じ種族とは限らないことを知っているためか、土煙を払うように腕を振るうと暴風が土煙をさらっていく。

すると見えてくるのは鎧を身に纏う甲冑姿の三人だった。


「よう……俺の家に何の用だ?」


「き、貴様!何者だ!!」


腰の剣の柄を握り構える男の声は少しだけ震えた声で叫ぶ。

男が叫べば周りの騎士たちも臨戦態勢に入り、弓を引く。


「待て待て、俺の名前は東雲爽だ。アグニとかいう人の国に捨てられてこの森にいる。そっちは?」


「人の国〈アグニ〉から転送されてここへ来た、名はカイエル。他の二人は新人の騎士だ」


「「ん?アグニ?」」


そんな気の抜けた言葉が互いの口から洩れた。


「(……冷静にいけ、俺は一回捨てられてんだ。いくら人間とは言え簡単に信じるな)」


そう、これが東雲爽に良縁を結ぶ話とは限らなかった。

半年という歳月が経過した今、捜索という形で来たわけではないだろう。

見れば全員のレアリティが(レア)。力の可能性で言えば最下層の人間が三人集まったところで何が出来るというのだろう。


「なんでこの森に来たんだ?」


「その前に……シノノメ。一つ聞きたいことがある」


先程から剣呑な雰囲気が続く。

誰一人として友好的な態度は取らず、武器を構えたまま。


「貴様は一回捨てられたと言ったがそれはいつ頃だ?私たちは国からの任務を受けてこの場所に来ていてな、少しでもいいから情報がほしい」


「なら武器をしまってくれ、そんな態度じゃ話せねぇよ」


両手を上げておどけて見せるが騎士たちは一向に武器から手を離さない。


「すまないがそれは出来ない。が、私たちがここに来た理由は伝えよう。国王が異世界召喚を行った際に逃亡した異世界からの来訪者を探しているのだ。この魔の森に捨てたと言っておられたが何か知らないか?」


「…………知らん」


い、いやそれって完全に俺のことじゃん。


「詳細は中肉中背の男、髪は黒く肌は白い。……そうだレアリティを見せてはくれないかシノノメ、探しているその男のレアリティは(ノーマル)なんだ」


「レアリティ……?な、なんだーそれは。俺がここに捨てられたのは五年前くらいだからそんなことは知らないなー」


「五年前……」


少しだけ声が震えたが切り替えるようにして剣から手を離す。

すると甲冑姿の男から張り詰めた空気感が無くなった。


「まぁ今はいい……ステータスを開け、自分を頭の中で想像すれば自ずと脳に刻まれていく。それを徐々に表に出していくんだ。一枚の用紙に記すようにな」


「(なんだ?突然優しくなって)」


声質が柔らかくなったことで何だか安心して言葉が耳に入り、言われたことをそのまま実行する。

想像するのは今の自分の状態。幾度となく死に至り覚醒しているであろうステータス。


「ステータス」



種族 人族 


シノノメ・ソウ 



体力 6  攻撃 6   


魔力 6  敏捷 6 


防御 6  



レアリティ 【非表示】(これ以上は進化できません)


アビリティ 【不死の吸収】【魔混の生命】

      【魔法の源収】【封神の洗礼】

      【斬打の虚無】【不倶戴天の存体】

  


【不死の吸収】


レベルという概念が存在しなくなる。

(存在の昇華が終了)


ステータスの上昇は受けた痛みに比例する。

(全てのステータスが上昇、これ以上の成長はありません)


人体が損傷したときに超再生を始める。


回復魔法・聖属性魔法・光属性魔法の効果がダメージに変換。


発動条件は〝死〟



【魔法の源収】


魔力が関わる全ての物質を吸収する。

(物理攻撃は防御不可)


吸収した魔力を力に変換する。


魔力を内部に蓄えることが出来る。

(現在の蓄積値 20パーセント)



【斬打の虚無】


〈虚無の剣〉から生存したもののみが覚醒する。


ありとあらゆる衝撃が存在しなくなる。

(衝撃の分の痛みが生じる)


痛覚が異常に発達する。



【魔混の生命】


〝魔〟と共同する者。


魔族と会話できるようになる。



【封神の洗礼】


〈封神の鎖〉から逃れた者が覚醒。


ありとあらゆる罠が無効。



【不倶戴天の存体】


状態異常にかからなくなる。


痛覚が鈍くなる代わりに、その他の神経が鈍くなる。

(ダメージは残る)


【魔混の生命】

【魔法の源収】

【封神の洗礼】

【斬打の虚無】

【不倶戴天の存体】

これらのアビリティは【不死の吸収】により吸収。


「……このアビリティは外れじゃなかったんだなぁ」


「どうした?大丈夫かシノノメ」


「尋常ではない言葉の羅列が脳みそに流れて……少し休ませてくれ。あとレアリティは――――」


ステータスでは【非表示】とあったが、


「SRって……記されてるな」


誤魔化しておこう。


SR(スーパレア)か!これは凄いことだ、今すぐに〈アグニ〉に……って戻りたいわけないよな。とにかく情報感謝する。それと家の周りを取り囲んで悪かったな、この魔の森には魔族が出没するので気を張っていたのだ。許してくれ」


綺麗なお辞儀と共に森の中へと消えていく三人の騎士の背中を眺める。

次第に甲冑が擦れる音が消えていき、木々が揺れる音がし始める。


「戻ってきたんだな、ここに」


頭痛は激しく、まるで頭の中で汽笛がなっているかのようだ。

それでも家まで向かいたくなるのは一種の帰省本能みたいなものだろ思う。

そこからの枝や葉をかき集めて、少し深く地面を掘り、焚火や物干しも作った記憶が懐かしく脳裏を横切る。


「とにかく色んなことを整理するか……」


頭がもげるくらいの激痛が走り続けるが、この程度の痛みは耐えられないこともない。

殺され過ぎて一周回って冷静になるくらいだ。これ以上の痛みでのたうち回るようでは、半年間も殺され続けてはいないだろう。


「心は死ぬかもだけど……俺が中二病でよかったわ」


吐くように呟き、そこらの木材を加工して適当に作ったベッドに座る。

不思議と中は小綺麗で未だに誰もここには訪れていないようだ。


「まずはここは〝魔の森〟だったか?さっきのカイエルとかいう奴も転送されてここに来たって言ってたし……まずここは〈アグニ〉ではなさそうか」


記憶に残された僅かな出来事を徐々に蘇らせていくが、特に何も思うことがない。

ゲームのレアガチャのように召喚されて、魔の森に捨てられ、森の最奥に向かう途中でハウザに出会い頭で殺される。

そこから殺され続ける毎日。拷問なんて生易しい……本物の生き地獄を体験してきたわけだが、人間の短所に近い〝開き直る〟という思考回路で何とか打開出来た。


「ステータス……」


脳内では文字の羅列が並び、一つずつ確認していく。

まず気になるのはステータスの標準が増えていることだ。

最初は体力と魔力と防御のみ、それが今になって攻撃と敏捷の追加。


「これは多分ハウザに捕まる前から目覚めてたな……自覚はある」


動物を狩っていた時に目覚めたものだろう。

逃げもしたし、素手で殺していた記憶が懐かしくも感じる。


「んでこの髪の毛」


スマホの電池が切れてから日付を確認することを諦めて、スマホと共に様々なしがらみを湖に放り投げた。

そこで一年以上だと仮定するならば体感で言えば二年くらいは森の中で過ごしたことになる。


「じゃなきゃこんなに髪の毛は伸びねぇだろ」


人生で初めて腰に髪がかかる(・・・・・・・)体験などまずないと言えるだろう。

毛先は針金のように固く乾燥しているがよく伸びたものだと思わず自画自賛してしまうほどだ。


「とりま標準スタッツに関してはこんなんか……問題はこの謎のアビリティ集団だ」


【魔混の生命】

【魔法の源収】

【封神の洗礼】

【斬打の虚無】

【不倶戴天の存体】


「あぁ、もう、なんか眺めてるだけで目が痛くなってくる――――ぜッ!!」


すると目を抉り取られたと錯覚するほどの痛みが眼球を襲った。


「…………ぃッ、クソゲーが……。確か痛覚が発達してんだっけか、それと神経も」


このアビリティについてはよく確認した。

【魔混の生命】については魔族のハウザと半年も一緒にいれば納得できた。

【魔法の源収】については魔法が吸収できて無効果する。魔力の蓄積は……置いておく。

【封神の洗礼】については罠――――つまりトラップ無効。

【斬打の虚無】については物理的攻撃を無かったことにする、だがダメージはある。

【不倶戴天の存体】については異常に気が付かないほど馬鹿になる。


「そんで、この【不死の吸収】の能力変更か……」


【不死の吸収】に関しては文章が変わっていた。

それでも特に思うことはなかった。


「まぁ……死なない(・・・・)しいいや」


異世界に来た頃とは違い、〝死〟という文字に何も思わなくなってしまった。

本当に生き返るのか?

本当に再生するのか?

その他にも恐怖や不安。様々な負の言葉が頭を過ぎっていたが、人間の奇跡に対する希望が心から欠如してしまったのだ。

これを幸福と捉えるのか、不幸と捉えるのか。

東雲爽というただ異世界に召喚された一般人が、いつでも死んでもいいとまで思えるようになったことは普通なのか、異常なのか。


「しかし、すげぇー力だな。吸収ってそういうことだったのか」


小・中・高と基本的には一人でいた。

誰とも友好的な関係は築けず、周りには人はいなかった。

勉学も学校生活もそれなりで問題視されることはなく、強いて言えば授業中でも関わらずスマホゲームをするくらいなものだ。

抽象的にまとめられた総称で呼ばれるなら〝陰キャ〟などと呼ばれるが、家の中にいるよりもバイト先のコンビニにいることの方が多かった。

全てはゲームに課金するために。

家族擬きの関係に一つの切れ目をつけるために。

そんな陰を踏みながら生きようとしていた(死体)は、異世界に来てから少し……ほんの少しだけ変わった。


楽しく笑うようになったのだ。


痛みで泣き叫ぶことはあった。

喉が渇き、声なき叫びが声帯を荒らした。

涙腺から水分という形で涙が溢れ干乾びた。

体内からこみ上げた「無」をまき散らした。

どれだけの惨殺をされたのか正確に覚えてはいない、それでも世界に一番死んだし殺されたことだけは分かる。

もしかしたら彼はいい意味で開き直ったのかもしれない……

激痛の先には暗闇ではなく、いつも通りの光景が広がっているだけ。

生きている。

どうせ死にはしない。

決して人間の思考に刻まれることのない事実を刻み込み、独りで立っている。


「これからもいっぱい死ぬんだろうな……そのたびに強くなっていくのか――――」


これが彼の元々の思考回路なのかもしれない。

きっと異世界に来たからとかではない。

チートは貰えない。

ハーレムもない。

ご都合はない。

世界は優しくない。

それなら異世界に来る前と何一つ変わらない。


それでも確かな力を得た――――


「どうせ死なないなら、どこまで強くなるんだろうな」


彼は不敵に笑いながら、久しぶりに自宅で目を瞑った。


クソ雑魚のキャラでもいつかは使うときがくる。

クソ雑魚のキャラでも滅茶苦茶な進化を繰り返すとガチャ限よりも強くなる。

俺はそんなゲームを知っている。

周回は嫌いだけど、そいつが強くなるならやるよね?

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