異世界転生は不都合主義でした 2
太陽の光というものは温かい。
心は安らぐし落ち着かせてくれる、何よりも現実逃避している精神状態では最高のシチュエーションを醸し出してくれる。
頬を凪ぐ爽やかな風は濃密な木の香り。木々がせせらぐ柔らかな音。広大な大地に咲く芝。
「うん。最高」
気を失うほどの一撃を頭部に貰い気絶、目を覚ましたら森の中。
ここが日本だったら行方不明届が出されて捜索されているだろうが、残念なことにここは異世界。そんな生易しいものではないことは理解している。
「はぁ……こっからどうするかな、見た感じ誰もいないし。ていうか俺ってこんな堂々とした場所で眠ってたのか、それで襲われないって……以外にここは平和な場所なのか?」
あまりにも絶望的な状況すぎて考えることを止めたのち、そのまま気を失うように眠りについたが以外に目を覚ますことが出来た。
「それならいっそのこと寝ている間に死にたかったわ。……それでも【不死の吸収】ってやつで再生するんだっけ」
考えるだけ体を蝕んでいく寒気を堪えるために深く深呼吸をする。
「痛いことは嫌だし、死にたくもない、かと言ってやるべきことが分からない。あぁ、これは駄々をこねてる暇はないな。腹も減ったし……食えそうなやつを探しつつ動くか」
とにかく生きてみるしかない現状。
逃げ場はなく、また逃げる方法すらも分からない。
レアリティがノーマルが故に同じ人間に捨てられたことに復讐心がないとは言えないが、そんなことを嘆いたところで何も変わらない。
「ゆとり世代の本気を見せてやるよ」
それからは森を探索し続けた。
この世界の設定を知らければ空腹やら病気やらで死んでしまうだけ、痛みが伴わないとは言え苦しんで死ぬのだって嫌だ。
死なないなら虫だって食べるし、泥水だって啜る。
安全な場所を見つけては硬い地面で眠りにつき、得体の知れない猛獣の鳴き声を聞きながら森の中を探索していると様々なことが知れた。
それは、この世界にあるもの全てにレアリティがあることだ。
もちろんそれは肉眼で見えるものだけ。空気や地面の中にあるものは見えないが、それ以外のものは見える。まるでゲームそのもの。異世界風に言うのならば目に映るモノ全てが鑑定できてしまう。
例えば、この森の木々。
大体がNの表記で目に映る、それは虫や動物も同様だ。
そして……
「おぉ、これ食べれんのか」
スマホのカメラ機能を使うと、それが何かを知れる。
食用になるのか、換金できるのか、危険なものなのか、毒があるのか……全部が記される。
電源が切れる前にこの森にある食用の虫や木の実を調べ尽くす。
それを最初にやるべきことだと重きをおいて行った。
昼夜問わずに森の中を駆けまわり出来うる限りの知識を得ては、眠る前に整理して確認する。
それが東雲爽の異世界転生物語のチュートリアル。
――――そして、異世界に来てから何日経過したか忘れた時には、
「いやー、やっぱりこの風は気持ちがいいな」
完全に人間を辞めていた。
肌は傷だらけ、髪は伸び腰に当たり、上半身は丸見えで裸足。
雰囲気はもはや森の戦士。見方を変えればホームレスのようにも見えなくはないが……
「スマホの充電はないし、そろそろこの森からおさらばするか?いやでも……」
家のようなものも建てたし、食料にだって困ってない。
「一人にも慣れたし。別にここで生きていくのも悪くはないんだよなー」
そう……この森に慣れ過ぎた結果、ちゃんとここで住めるようになってしまったのだ。
自分がこの森で出来ることを最適化していったことにより生活を可能にしてしまった。だから目的を完遂したともいえる状態。
「……一回も死ななかったな」
いや、唯一試していないことがあった。
それは【不死の吸収】というアビリティを確認すること。
「……確か発動条件が死ぬことだったはず」
森の中を探索する上で動物を殺すことも少なくはなかった。
残念ながらそれは食料にするためではなく、自分の身を守るため。
この自然で学んだことは様々だがまずは生きること。自分の身を守るためなら弱者を踏みにじることはいとわなかった。
魔物や魔獣には出くわさなかったのが幸いなのか、それとも出会った動物らが基本的に小動物だったからか死に至ることはなかった。
「俺のステータスはもう見れないしな……あっ、でも結構痛みは味わったから強くなってるかも」
高所から転落していったり、動物に噛まれたり、枝が刺さったり、もうそれは結構な痛みを味わった。
体力が6の割には以外に大丈夫だった……
「さては……強くなってるな?俺」
口角を上げ、東雲爽はある場所へ歩き始めた。
それは未だに足を運んだことのない森の最奥。
魔の森では雲一つない満月の日に響き渡る、化け物の雄叫び。
それが魔物や魔獣なのかは不明だが、確実に化け物なのは間違いない。
「強くなってるなら見に行くことくらいは出来るだろ」
決して戦うわけではないと言い聞かせ、夕暮れに最奥へと向かって走った。
この時、彼は――――自分の価値を見誤った。
駆ける速度は早まり、慣れた感覚で森の中を突き進む。
つまりは調子に乗ってしまったのだ……
「…………あれ、人間じゃん」
森の最奥など一回も行ったことないのに警戒することもなく走る。
その走りは迷いがなかった。
「ラッキー……」
この森には異世界要素があまりないと思っているから。
この魔の森を知ったくらいで世界を知ったかのように思ってしまったから。
最初の頃のような警戒も危機感もなく、
(いける、なんか今日の俺はいける!)
調子に乗ってしまったから。
そう思ってしまった彼の背後には黒い灰が舞った。
「ん?」
その黒い灰から見えるのは人型の何かだった。
獰猛に笑っている。それ以外を確認する前に――――――キスをした。
それが東雲爽の初めての〝死〟であり、地獄の始まりでもあった……




