レアガチャ転生もアリでした 5
難産も簡単に超えてしまう書き手のみなさんに賞賛を送りたい。
二週間も開いて申し訳ない
魔族の大陸である〈インドラ〉の空に太陽が姿を現した。
魔王城に集まる魔族の軍勢も、傷だらけになりながらも立ち上がる魔族の王も、駆け足で我が子を抱き締めながら逃げる魔族の民も、目を瞑り自らの過ちを振り帰る魔族の双子も、深紅に揺らめく炎を纏う魔族の青年も、魔方陣から現れた人族の英雄も……。
〈インドラ〉に存在する生物が共鳴するかのように天を仰いでいることだろう。
誰も……いや誰一人として声に出すことはない。
危機感が胸を騒ぎ立て、焦燥感が胸を苦しめる。
戦うことは恐怖と勇気の表裏一体で、死と生の間である。
そのなかで見たことも無いほどの優しく暖かな光は魔族の心を奪い去っていたことであろう。
「これが太陽というやつか……どうだデイディ?初めて見た感想は」
「あぁ……酷く温かいものだな」
「ふっ、謀の名手であるお前が一瞬でも気を抜いてしまうとはな。どうだ?鼠のように這って生きて来たことを後悔はしていないか?」
魔と名の付く種族の微笑みではない聖母のような笑いをデイディに向けるハウザの様子は怖いくらいに落ち着いていた。
その様子がデイディの脳裏にある過去のハウザを焼き切った。
「――――お前はもう既に魔族とは違う……別の何かになったんだな」
見ているだけで苛立ちを覚えた彼女の姿。
周りとは一線を駕した特異な思考。
白く透き通るような白い髪も、薄く焼けた綺麗な肌も、誰を相手しても変わり映えしない自我も。
「過去を振り返ってみれば嫉妬していたのかもしれないな。周りに流されず、自分の考えをしっかり持っていた貴様の姿に」
魔族に弱者はいない。
全てが他種族間で最強にはなれなくとも、純粋な力では最強だと自負していた。
自身も魔族の中では特異な力を持って生まれた故の自尊心がハウザという弱者を認めたくなかったが、今目の前に立つ彼女を見ていると〝羨ましく〟思えた。
「私も魔族なりに力を求めていたんだよ。一人では戦えないから誰かの力を使ってでも強くなろうとしていたんだ、その結果が他種族の研究となり最初に選んだのが人族だったということだけだ。運命だって……それこそ魔族だって許してはくれない悪手を選択したのは私自身さ。――――――――結果がこれだ」
天を引き裂く一撃。
既に荒れていた〈インドラ〉の荒野には、もはや小石の一つも残ってはいないだろう。
重く圧し掛かるように見えていた闇を一瞬にしてかき消してしまえるほどの力を手にしているという現状の結果が何よりの答え。
「さぁ、もう終わりにしよう。私は行かなければならない場所がある。私が言った〝殺す〟という言葉の意味は様々な感情が込められていたが、シノノメの〝殺す〟という言葉からは確かな憎しみが感じられた……」
「おい……ハウヴァート。お前まさか――――――――」
「私はただシノノメが誰かを殺める姿を見たくないだけだ……魔王の生死は心底どうでもいい。それに怒りを露わにしているのはシノノメだけではないようだぞ?」
天に立つ二人だからこそ感じることが出来て、認識することが出来た。
「あれはリグレイ……か?」
「誰だか知らないが相当に荒れている様子だな……軍勢を裂いて向かって来ているぞ」
「――――――――行け、ハウヴァート。これから私は償いをしなければならないようだ」
空から〈インドラ〉を一望できるからこそ戦況が分かる。
この状況を企んだデイディならば手に取るように理解できてしまった。
未来を想定しながら企てた計画はあくまでも想定。現にハウザが目を覚まし暴走したシノノメを完全に開放してしまったことは想定外。
尋常ではないほどの時を参謀に尽くしてきたデイディには想定外すらも想定内ではあるが、感情の覚醒や他者の心の中までは想定出来ない。
「ほら、早く行ってくれ。あの人間が大事なんだろう?」
「あぁ……私は行くさ」
遠くから聞こえる慟哭が耳に残りながらもハウザは魔王城へと一直線に飛翔していった。
その背中を見送ると前を向いた。
大地を焦がしながら圧倒的な速度でこちらに向かってくる憤怒の化身に視界を合わせた。
「来い……リグレイ。そして私に償いをさせてくれ」
◆
魔族の先鋭たちが取り囲むのは魔王城があった場所。
誰しもが口を開けて眺めるのは壮絶な戦いの成れの果てだった。
〈インドラ〉の象徴ともいえる魔王が住む城は外壁の形を残して崩落している。肌がピリつくような魔粒子の残留が微かに存在する自意識を眠らせないでいてくれるが、魔族からしたら言葉が出てこなかった。
無傷の人間が無傷の魔王の首を握り潰す勢いで掴み上げ、何度も同じことを呟いている光景。
「何で殺した?」
黒い髪は灰を被ったかのように鈍い白へ、黒い瞳が片目だけ無色の魔力を放出し白銀にも見える。
魔族らしい角までは生えてはいない人間の姿に逆に恐怖を孕み始めてしまう。
魔族とは似て非になる異形な魔。
声音は単調なモノに変わっていき機械のようにも見えるが、いとも簡単に魔王を殺しては何事もなかったかのように蘇らせ――――――――――また首を握り潰す。
「なんで……殺したんだ?」
もはや屍のようにも思える魔王を掴んでは握り潰す。
魔王に仕える者としては止めに入るべきだが、そこにいる魔族は誰一人としてその場を動こうとしなかった…………否、動けなかった。
「なんで二人を殺した?」
魔族はそう簡単には死にはしないが、死んだ後は何も残らない。
人物を記憶させるようなものが存在すれば〝堕天〟の妹である〝聖天〟のように蘇らせることが出来る。
だからこそ――――――――怒りでどうにかなりそうになっていた。
「口も開かないか…………もういいか?」
周囲に霧散する魔粒子の残留を一瞬にして吸収し、辺りから音が消える。
「もう、殺していいだろ?」
心を溶かし、深淵と混ざり合う瞬間。
自分が自分ではなくなっていくと分かっていても止めることはしない。
ただ感情に身を任せて――――――――
死ね……




