異世界転生は不都合主義でした 1
なんだろう……ガチャの鬱憤で書き始めたはずなのに、楽しくなってきた
瞼を開いた瞬間に映る聖女のガラス細工。
その豪華な装飾をされた天井にはガラス細工を引き立たせるように照明がいくつも煌めかせていた。
あまりにも現実離れした装飾に目を奪われるも、他に問題はいくつもあった。
視界の端に映る誰かの体。
「ん!?」
起き上がり改めて確認すると、円を作るように横たわる男女。
「――――目覚めたか」
少ししゃがれた低い声がするとこに振り向くと、そこにはいかにも王様という格好をした人物が立っていた。
「少年よ、皆を起こしてやってくれ」
決してせかすことなくとても緩い感じの声音で語り掛けられ、特に何も言うことはなく、まずは両隣の男女の肩を揺らした。
目覚めが良いのか一瞬肩を揺すっただけで目を覚ました女子は驚きを隠せないでいるが、説明する時間も内容もないの伝達するように周りを起こしてもらう。
見た限り全員が高校生。きっちりと制服を着ている者もいればシャツだけでブレザーを着ていない者もいる、きっと全員が突然ここに連れてこられた者たちなのだろう。見事と言わざるおえないくらいには驚愕している。
「全員起きたか」
自分を含めない他の者たちは、その低い声に釣られるように振り向いた。
「では……まずは質問コーナーといこうか?何か聞きたいことはないかね」
「いや質問コーナーって……」
苦笑と同時に小声で囁くと隣に立つ顔立ちの良い男子が荒く息を吸う音がし、
「ここはどこだ……」
少し怯えが混ざる声音で聞いた。
「ここは人の国〈アグニ〉。人族が住む場所だ」
「アグニ?聞いたことのない国名だ……」
「それもそうだろう。君たち十一人には、こちらの世界に来てもらったのだから」
まさに異世界転生のテンプレート。
今どき常に話題となる物語の核となる設定。
オタクならばこれ以上の説明はいらないほどには知っているものだった。
「まさか……異世界転生」
周りを見渡しても、やはり理解していない人は誰一人としていなかった。
不安そうにはしているがどこかソワソワしている様子。
「ほぉ……話が早くて助かる。お主の名は?」
「いやぁ、待ってくれ」
だが、このまま物語を進ませるわけにはいかない。
「どうした?」
「聞きたいことは山ほどあるが、まずはこの視界に映る英語の意味を教えてくれ」
周りの頭上にはSRやURといった〝まるでレアリティ〟のような英語の並びがあった。
バイト以外では四六時中スマホとにらめっこしていたから頭がおかしくなっているのか、この世界に来る前にゲームのガチャで爆死しているからなのか……。
「それはお主らの価値だ。全員に見えているだろう?UR……そう書かれている者はかなりの価値を持っている。それは金銭の価値ではなく、戦う価値だがな」
「は?まるでゲームのガチャじゃねぇか」
「ゲーム……まさに言い得て妙だな。だが分かりやすく言うのならば一回おまけ付きの十連ガチャみたいなものだろうな」
「詳しいな」
「それもそうだろう。前に転生してきた奴らが文明を進めてくれたからな、ゲームくらいならこの世界にだってある。なんならお主らがいた場所よりも楽しいゲームだってあるんじゃないか?」
「ならそのレアリティは?」
「もちろんノーマルのNから始まるが……まぁこの転生の儀式で、そんな〝ゴミ〟は出ないだろうな」
笑いながら言ったその言葉に、周りにいた男女の視線が一人の男子に集中する。
「え、マジ?」
◆
というわけでゴミはゴミらしく捨てられてしまいました。
しかもゴミ捨て場はただのゴミ捨て場ではない。
『こんなハズレは見なかったことにしろ!!おい、アレを今すぐ魔の森に捨ててこい!!』
手足を縛られ、視界は塞がれ、口元は麻縄を食い込まされ、麻布袋に詰められ、挙句には後頭部を殴りつけられ気を失った。
「あ……頭クラクラする」
いつの間にか森の中に捨てられた。
少し地面がぬかるんでいて周りには大量の足跡が残る。
湿気も多い。変な鳴き声も聞こえるし、よく見えないが足跡は人間のだけではない。
「うわぁ……異世界転生ってマジかよ」
今更ながらに実感する、今まで感じたことのない空気感に少したじろいでしまう。
日本ではないことは嫌でも実感するが行ったことすらない海外のどこかでもないと感覚的に理解できてしまうところがもう既に気分を高揚させていた。
「やったぁぁぁあ!!!」
両手を上げて喜びに浸るくらいには……
「異世界転生ってマジか!今までやってきたどんなゲームもクソゲーに思えるほどには最高じゃねぇか!」
一人でお祭り状態。
興奮が冷めずに胸を躍らし、無駄にその場で飛び跳ねるくらいには発狂していた。
「あ、でもどうしよう。俺って何も知らないじゃん」
急に静かになったと思えば当たり前のことを一人呟く。
いつもの異世界転生ならばチートを持っている。
いつもの異世界転生ならば無双できる。
いつもの異世界転生ならば最強だ。
でもどうだろう……
「ん?俺……詰んでる?」
無一文、場所も分からず、知識は無し。
そして物語のようなチート能力もなし。
「しかもノーマルときた。これがゲームだったら序盤に出てくるスライムと同じ……いやアイツら強くなるしな、まさか!俺ってそれ以下なのか……?」
なんだろう……この虚無感は。
ここがどういう異世界なのかは分からない。
でも何だか物凄く悲しくなってきた。
「可能性の価値……ノーマルってことは、その価値が無に等しい」
あぁ……そうか
「これが今までゲーム内で売り飛ばされていた奴らと同じ感覚か……」
いらないから売り飛ばしたり、必要ないから交換したり。
どれだけ愛着が沸こうと他のを好きになった瞬間からボックス番、それにすらならないものは全て捨てて来た。
「なんだか……申し訳なくなってきた。あ、そういえば――――」
ポケットに入れていたスマホ。
色はホワイトでカバーはシリコンの一般的な素材。
「点くのかな」
試しに電源ボタンを押してみると、画面は真っ暗なまま。
「やっぱダメだよな……――――ん?」
気分が低空飛行を始めようとしたその時、スマホの画面には文字が並びだした。
種族 人族
シノノメ・ソウ
体力 6
魔力 6
防御 6
レアリティ 【ノーマル】
アビリティ 【不死の吸収】
「これは……俺のステータス?って何かアビリティがある」
スマホの画面の【不死の吸収】をタッチすると、画面一杯の説明文が並ぶ。
文字数で言えばそれほどではないが、
「…………」
書いてあることはそれなりのこと。
【不死の吸収】
レベルという概念が存在しなくなる。
ステータスの上昇は受けた痛みに比例する。
人体の八割が損傷したときに再生を始める。
回復魔法の効果を無効にする。
発動条件は〝死〟
開いた口が塞がらなかった。
というよりも普通に生活してきた故に理解することが出来なかった。
最後の一文の〝死〟という一文字。
それがどれほどの事実なのか……
「痛みで能力上がるのか……まぁそれはいい。発動条件死ぬって」
こんなに飲み込むことの出来ない悪徳スキルがあっていいのだろうか。
ただでさえ痛みを感じることのない日常を生きて来た東雲爽という一人の男だ。
「やべぇ……飲み込めねぇ。冷静になっても飲み込めない。この力はマジでない」
乾いた笑いが無意識に零れ始めると同時に膝が笑い出した。
心のどこかで期待していたチート能力。
ノーマルレアでも最強だったという願望。
この森から始まるこれからの大冒険。
その全部のパズルが崩れていき、とうとう笑っていた膝が地面と接触した。
「異世界転生ってご都合主義なんじゃねぇのかよ……ってそれは創作だけだよな。もういいやとにかく一回寝よう。どうせまだ〈アグニ〉って人の国なんだろ?……なら化け物はでないだろ」
湿った地面に何も考えず仰向けになり瞼を閉じる。
緊張なのか、恐怖なのか、焦燥なのか、とにかく嫌な感情に包まれた体が眠りにつくの早かった。
だがあまりにも眠りにつくのが早すぎた――――
「ハハッ……ラッキー――――人間じゃん」




