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不死の王  9

「――――今回の再生は少しだけ遅かったな……」


自分の手のひらをもてあそびながら感触を確かめる。

いつものことながら気が付いたら体が元通りになっていることを確認したあと、目の前に立つ漆黒を身に纏う少女に向き直った。


「どうだ?スゲーだろ、俺」


異世界チートよろしく……と言ったところか。

完全に消滅したはずの存在を元に戻した爽は満面の笑みでギルに語りかけたが、悲しいことに返ってきた反応は予想とは真逆なものだった。


「あ……い、いや。なんだ」


ギルと瓜二つの顔立ちをした少女を、ギルは大事そうに抱き締めているが爽の言葉に回答を見つけられずに目を合わせることすらしない。


「ん?もう大丈夫だろ?」


「あっ、うん。大丈夫……ごめん(・・・)


「――――……ん、んじゃ、俺は帰るわ。あの条件のこと忘れてくれ」


ここまであからさまな恐怖の感情に対して、爽は思わず一歩後ろに下がってしまった。

魔族と言われる人知を超えた所謂『人外』と呼ばれる存在ですら目も合わせることなく、か細い呼吸を繰り返しているという事実に気が付いてしまったからだ。


「(これが普通(・・)の反応だ……)」


決して気の緩みがあったわけではない。

だが、どこかで“異世界〟だから問題ないと思っていたのかもしれないと改めて実感した瞬間だった。

いくら魔法が存在してようが、人外な種族が生活していようが、肉片すら残っていなかったものから再生させてしまったら……


『ごめん』


分かっていた。理解はしていた。

普通ならありえないことを出来てしまうのが異世界というものだと知っていた。

だがそれは二次元の中でのみ許されることなんだと深く脳裏に刻む。


「……もし、そいつが目を覚ましたら奇跡が起こったとでも言っててくれな」


そうだよな……異世界にだって起こしてはいけない現象がある。

今俺が起こしてしまった現象はまさにソレだった。

浮かれた、俺の頭ではやっていいことにいつの間にかなってた。

染み付いてんだ――――“異世界チート〟が……


「(出来たとしても……あんな夢みたいな世界じゃない限り、受け入れては貰えない)」


爽は改めて実感した異常さをぶら下げたまま、魔の森へと消えていった……





木々に誘われるように乾いた獣道を歩いていると、あの頃のように思考が一人歩きし始めてしまう。

友達と呼べるものおらず。

毎日が同じように進み。

退屈というものを意識しなくなった……異世界に来る前の世界。

スマホを開けばゲームをログインし、朝食を摂るくことなく静かに制服に着替える。

一旦外に出てしまえばオートロック式の重たい扉の音が早朝の静かな渡り廊下に響き、ポケットからイヤホンを取り出しては音感だけで選んだ洋楽を鳴らす。

徒歩で通える学校に行くには早すぎる時間帯はコンビニのフリースペースで時間を潰す。

菓子パンと野菜ジュースを袋なしで買っては、小説投稿サイトに更新された物語を読み漁る。

そして毎回思うのだ――――異世界に行きたい……と。

目の前で広がる二次創作の中では楽しい世界が溢れている。

貴族に転生して謳歌しているものもあれば、チートで人を助けているものもある。

なにより必ず美少女が近くにいることが羨ましくも思えた。


『(近くに誰かいるのはいいよなぁ……)』


家でも、学校でも、バイトでも、食事でも、誰かと関わることなく独りだけだった。

ハーレムを羨ましいく思う。

仲間が羨ましく思う。

意識しなくとも誰かと一緒にいれる創作物語(架空)の主人公が羨ましい。

そう菓子パンを齧りながら思うことも、いつの間にやら日課になってしまっている。

あとはいつもと変わらない日常を過ごすのみ……


「別に一人でいることが好きなわけじゃないんだけどなぁ、俺は」


パキっと軽快な音で意識が足元に向いた。

痛みを感じて見れば、落ちていた枝が真っ二つに割れている。


「――――そういや、俺が死ぬとあの変な魔法が解けるんだっけか」


歩いていてはいつまでも辿り着かない気がした獣道から高く飛び上がり上空へ体を持っていくと、丁度良く小さな小屋が目に入る。


「とにかく今はハウザのとこに戻ろう……。修行は……まぁ、何とかなるだろ」


ここにはない知識を持っている。

今はそれくらいにしか考えないようにと雑念の流れを断ち切ると宙を蹴って空を移動していく、空からの視点では良く見える小屋には白い結界がなくなっていた。


「解けてんな、誰も来てないといいけど」


空中歩行ですぐに小屋の目の前に降り立ち、周囲を警戒するが人の気配はない。

その事実を噛み締めながら安堵すると小屋の扉を開ける。


「おっ……何してんだ?」


そこには眠りつくハウザに張り付くように眠る魔精霊の姿があった。


『おかえりなさい。随分と荒事をしたみたいね、ご主人様』


「まぁ一回死んでるしな、だからここに戻ってきたんだけど……あんまり意味なかったか?」


床に座り天上を見上げながら魔精霊に尋ねる爽の姿は、社畜が深夜に自宅について一息ついたときに酷く酷似していたため、


『疲れてるのね。少し休んだら?』


爽の願いから創造された魔精霊の少女は微笑みをかけた。


「そのために来たんだけどさ……って、そういえばお前って今朝どこにいたの?隣で寝てなかったっけ?」


『ご主人様が守っているこの魔族の回復に努めてたのよ。全く……魔族に人族のものを使ったらダメよ?体から不純物取り出すのって大変なんだから』


「え……そうなの?エクリサーって共通の回復薬じゃないの?」


『当たり前でしょ?このご主人様から(・・・・・・)貰った記憶に出てくる物語はただの妄想でしかないわよ。〈アディベート〉ではちゃっと種族に適した回復方法があるんだからね?』


「んだよそれ、聞いてねぇー……」


『知らないのは無理もないわ、だってご主人様は本当に何も知らない状態だもの。むしろよくここまで生きて来れたものだわ。記憶を見て暇をつぶしていたけど、この魔族と出会ったところ当たりから地獄が始まってたわ……見ているこっちが気が滅入っている状態よ』


「だからそこで横になってたのか。ごめんなベット一つしかなくて」


『ご主人様こそいいの?そんな場所で。ベットくらいなら魔法で作るわよ?』


「今はいい。どうせ気持ちよくなんて眠れないし、これから俺は修行すっからよ」


四肢が漆黒の鱗のようなものに覆われているこの状態が【魔人化】だとするならば、あとは戦うために時間を費やさなければ本当に何億と挑むことになってしまう。


「せめて魔素と魔法に関して理解を深めないと……これからの戦いが長引くだけになっちまうしな」


リグレイを通じて魔王相手に宣戦布告したからにはやるしかないと、少し気怠い体に気合をいれ立ち上がる。


『私が……教えてあげよっか?』


「最高に良い提案だけど、とにかく今は〝ひとり〟でやらせてくれ。最初の掴みは自分からやらねぇと応用が利かなくなりそうで怖いからな」


『そう……。頑張ってね』


「おうよ」


表情に明るさが戻らないまま小屋を出る爽の姿を見送った魔精霊の少女は、血色が良い唇を跡がつくほど噛んだ。


『なんで……こんなに苦しい時間を人一倍味わってきたのに。それなのに助けを求めようとしないのよ』


あくまで爽の全てから創られた存在である魔精霊の少女は、異世界から来た爽の記憶を覗いていた。

となりで眠っているハウザを覚醒させる片手間に覗き込んでいた爽の記憶は、どれも見ていられない苦しい思い出ばかりで、また訳も分からず涙が溢れてしまった。


『早く、起きなさいよ……』


ハウザの体は未だに周囲から魔素を取り込んでいた。

それは人族にとって呼吸と同じようなもので、時には命と同じくらい大事なことで、またハウザが生きている証拠だった。

魔族の体の大半は魔素で形成されている……つまり魔族が死ぬときは世界から魔素が消えたときのみ。

身体からは不純物を完全に掬い取り、いつ目が覚めてもいいような状態にしている。


『あなたが止めないと、ご主人様は壊れるわよ?』


眠るハウザに静かに語りかけるも返事はない。

小屋の表側では魔素が激しく動いているのが伝わってくる。

既に修行というのは始まっている様子で馬鹿げた波動が木を組み立てて治された小屋がミシミシと揺れる。


『でも――――ここまで思われるのは、少しだけ羨ましいわ……』


あくまで爽によって創られた自分には、ハウザに向けられる思いが酷く妬ましく思えてしまった。

褐色の柔肌を撫で、目元にかかる前髪を避ける。


『私が……貴方になれたらね――――』


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