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不死の王  8

遅くなってしまったんだな。

誤字があるかもしれないんだな。

読めない文字とかもあるかもしれないんだな。


この口調って連続で言われても書かれてもウザいよね。

また《存在結晶》から光が一つ消えた。

赤青緑黄黒白の六色の輝きのうち、青白そして……黒が夜明けと同時に輝きを失ってしまった。


「勝負がついたか」


〝深緑〟の台座に座るデイディは《存在結晶》の前に立ち、リグレイとギルの戦闘の様子を結晶の輝きで見守っていた。


「今回の六王幻魔は激しいな。……いや、私たち(旧魔族)が大人しいだけか」


争いはあっても言い争いくらいだったと、戦いが終わるのを確認した後にしみじみ思えた。

そう思えてしまうのはリグレイを止められなかったからかもしれないと自らを嘲笑し《存在結晶》にある深紅の輝きを見つめる。

人族との戦争でも幾千もの同胞(魔族)がいなくなっているのを見て来た。実際にリグレイの師匠でもあり親のような存在のリンドのことは同じ旧魔族としてよく知っている。

だからこそ、リグレイが争うことを止めることは出来なかった自分に溜息をまとう。


「『燃える牙は、悪にこそ良く燃える』……か」


燃える炎の如く逆立つ深紅の髪が記憶に過ぎる。


「本当の悪はギルだったのか?リグレイ。もっと近くに……本当の悪があるかもしれないぞ?」


黒い輝きが太陽の光によって存在感が増し、思わず視線に入れたくなってしまうのはいつものこと。


「さぁ……魔王様も目を覚ましたことだし。〝天醒〟に対抗する作戦でも練り始めなくてはな」


全体的に薄暗い〈インドラ〉の朝を伝えるのは魔王城に埋め込まれた黒曜石。

これからは魔族全体が目覚めるときだ。


「これからの戦いに向けて……色々と考えることがあるようだ」


それは黒曜石の光か、それもともデイディ本人の黒い部分からなのか……

靡く深い緑の長髪の後ろ姿はわらっている(・・・・・・)ように見えた。



爆風で目が覚めることがかつてあっただろうか?

地面という最悪のベットで浅い眠りについていた爽は口の端から涎を光らせ、史上最高な阿保面をした状態で土煙に紛れたその奥を茫然と思ってしまった。


「あ……ん?」


ぼんやりとした考えぼんやりとした視界の状態で謎の墜落物体の元へと近寄っていく爽であったが、少しのクレーターで足を躓いてしまい無様に転がった。


「……ぃっ、あぁ最悪のめざ……めだ?」


地面を顔の真ん中で捕らえ、痛みで目が覚める。

だが、問題は視線の先にあった。


「お漏らし少女か……?これ」


首を回した先には心臓が抜き取られ全身が焼け焦げている少女の姿があったのだ。

焼死体を客観的に見たのは初めてのことで少し唖然としてしまうが、寝ぼけている身体に鞭を打ち叩き起こすとすぐさま〝回復魔法〟を試みた。


「んっと……あぁ、こんな感じだっけ?」


無くなっている心臓を元に戻すように、全体的に灰になった体を元に戻すように、周りの魔素を少女に向けて集中させる。

代わりに爽の体が激痛に見舞われるが、


「ッ……あぁ!目が覚めたぁ!」


おかげで目が覚めたからか気にも留めなていないよ様子で完全に元に戻った少女に声をかける。


「どうだ?」


「…………」


「起きないよね、知ってた――――」


そうだ、これは〝俺〟ではない。そう言い聞かせるように納得した時に少女の体がドクンっと跳ねた。


「うぉ!?」


身体の関節から音が鳴り、瞼が開いては転がるように瞳孔が揺れる。

そして全裸のままゆっくりと起き上がり、


やっぱりな(・・・・・)……」


勝手に一人で納得し始める姿。

それを横で眺める爽は目元を即座に隠した。


「シリアスの前に服を着てください……」


「やっぱりウチの考えは外れてなかったな……リグレイ」


「おい!頼むから服を着てくれ」


「これならティルを……」


「おーい、聞こえてますかー?服を――――」


「おい人間。頼みがある」


「まずは俺の頼みを聞けよ。服は着たか?」


「着てねぇ。もうその状態でいいから頼みを聞いてくれ」


「どういうことだよ……」


両手で目を隠しながら声の聞こえる方に体を向きなおすと、ふわっと風が手の甲に当たった。


「お前の力を貸してほしい。頼む!……この通りだ」


人族という他種族の最大の敵に対して六王幻魔が腰を折っている前代未聞の事実。

魔族だけではない、その他の種族にこの光景を見られたならばギルという少女は歴史から名を消されてしまわれかねないだろう。

人族に対して下に出ることが大罪であり、魔族としては最大の禁忌なのだから……


「はいはい貸す貸す。どの通りか分からんけど貸すわ。条件はちゃんと服を着ること、着たら俺の手を触ってくれ」


だが人外が住まない異世界から来た東雲爽という人物は、〈アディベート〉という異世界のルールなど全く意に介さなかった。


「い、いいのか……本当に?」


「あぁ、そういうのいいから。早く服着てくれない?」


「おまっ!これはッ、今ウチがしたことは――――」


「うるせぇな。いいんだよ、俺は異世界(・・・)から来てるから自由なの。俺がしたいことはするししたくないことはしない、そういう精神なわけ。とにかく人族だとか、他種族との争いだとか、本当にどうでもいい……今はハウザを狙ってくる奴らの親玉を倒す。それだけだ」


「……は?」


「いいか?お前ら魔族の考えと俺の考えは交差することはない。他の人間と違うわけじゃないけど、この世界にいる人族とは一緒にされたくねぇ」


頼るべきものから捨てられて、誰もいない森で目を覚ました時から味わい始めた解放感が元々の本能を目覚めさせたのか。

日本にいたころのスマホと向かい合い、他人と会話することもなかった自分はいなくなっていた。

縦社会であり、金が全ての世界からは抜け出した。

アビリティおかげもあって体の異変と精神の異常は十分理解した上で考えることは単純明快だった。

〝異世界を満喫する〟ただそれだけに尽力を注ぎこむ。

窮屈な思いはしなくなった。

縛るものもなにもない。


「俺を勝手に戦いの中にいれんな。戦争したいなら勝手にやってろよ……めんどくせぇ」


「他の人族とは違う……ね。なら、本当にウチに力を貸してくれんのか?」


「お前が服着たらな」


「わかった。着る――――――着た」


「はやッ」


両手を目元から外すと見たことのあるゴスロリの服装をした少女がやさぐれたように立っていた。

初めて見たときの顔面が変形しているグロテスクな表情だった印象が強すぎたのか、改めて見てしまうと目が離せないほど可憐な美少女だということに気が付き凝視してしまう。


「ウチの名前はギルだ。今はもうそれ以外に名乗るものがねぇ」


「…………あ、俺は爽だ」


「んじゃ早速、ウチの頼みを聞いてくれ」


「ちょっと待った。条件を改めて出すがいいか?」


「何でも言ってくれ、ウチに出来る事なんて限られてるけどな」


「お前って魔法が得意だろ?ほら、何か黒い物体をグワァーってやってたじゃん」


「そうだな、お前にはノーダメージだったけど」


「それは仕方ないことなんだよなぁ……とまぁ、俺に魔素と魔法を教えてくれ。それが条件だ」


「いや、お前はもう十分なくらいに使いこなしてるって――――再生魔法まで使えるんだからな」


「待った。このままだとその〝再生魔法〟について知りたくなっちまう。まずはお前のことを終わらせてからだ」


未だに白い結界で守られたハウザが眠る小屋を視線の端で捕らえ、重い腰を持ち上げた。


「……お前こそ服着ろっつうの」


ギルから見れば見事なブーメラン。

爽が辛うじて着用しているのは風化し色褪せた制服のズボンだけだ。

あとは上裸で裸足、長い髪は血を被り固まってしまっている。


「なんか言ったか?」


加えて、肘から指先、膝から足先まで黒い鱗のようなもので覆われている。

魔族であるギルに関わらず少し観察するればよく分かる。


「(魔族の何かが埋め込まれたような……なんだ、アレ)」


爽のアビリティの一つ【魔人化】については、爽本人ですらよく理解していないことが見て取れた。

確かに爽の体からは魔族特有のオーラが放たれているのだ。それなのに〝人〟としての原型を留めていることは、異形と例える他無い。

言い表すことの出来ないソレに対し首を振ったギルは森の奥を見た。


「なんでも。んじゃ、ちょっと着いて来てくれ。ここから歩いて間もない場所なんだ」


方角は北。〈アグニ〉と〈インドラ〉を繋ぐ大橋セイントエーテルは未だ凍り付いたまま。

奥に見える港町からは人の気配はなく、芸術作品のように凍てついた水路は船を張り付けたまま動かない。

枯れた大地の一部は冷気に包まれたままだった……


「へぇ、ここって簡単に出れたのか」


ギルの背中を追っていたら、思っていたよりも早く森を抜け出せたことに驚きを隠せない様子の爽だったが、一方でギルは白い吐息を吐きながら茫然とある場所を眺めていた。

遠くからでは目を凝らさないと分からない大穴。


「……あそこに行くのか?」


「うん」


「んじゃ早く行こうぜ?ここ寒すぎ」


「はっ、お前が服を着てないのが悪いんだろ?」


思いを寄せることがこの場所にあるからなのか、哀愁を醸す表情をしたギルと目が合う。

光沢が無く見える瞳が蠢めき始めたのを確認した爽はギルの抱き締め、


「動けば温かくなるだろッ!!」


一気に大穴まで飛んだ。


「おい、ウチに触っていいのはティルだけだッ!!離せッ」


「ベロ噛むぞー」


腕の中で暴れるギルに忠告しながら、地面を抉りつつも着地する。


「うぉっ……と、こりゃ……スゲーな」


「おい。あと数歩で穴に落ちるとこだっただろうが」


「直径二百メートル以上ありそうだな……」


「聞けよ、てめぇ」


腕を振り払うように爽から逃れたギルは爽に対して舌打ちをした後、躊躇なく巨大な穴へと飛び込んでいく。


「すぐ戻る」


ギルがいなくなってしまい一人となった爽は周りを意味もなく眺める。

森の中で暮らしていたこともあり、まだ〈アディベート〉という世界を知らない爽にとっては初めての外出したのだ。

例えそれが何もない荒野だとしても新鮮な気持ちで心が満たされる。


「これが森の外か……どこに獣人とか精霊族がいんのかな」


今まで見たことがないようなほど濁った空ですらも綺麗に見えるくらいに、渇望していた何かがようやく一つ埋まった気がした爽は固い地面に横たわった。


「朝方はどの世界でも地面が冷えてんだよな、やっぱり。……遠くからだと伝わらないけど、近くで見ると」


一体何がこの橋を通るのか……横幅も長さも尋常ではない。


「すげぇ……本当に異世界って感じだ――――おっ!」


即座に起き上がり視界に映った真っ赤な氷(・・・・・)が孤独に立つ場所へ駆けた。


「んだこれ……血の匂い?」


冷たいというよりは、冷えるに冷気から漂うのは思わず表情を歪ませるほど香る濃厚な血の匂い。


「……中は、濁ってて見えねぇな」


触れてみても何があるわけでもない、真っ赤に染まる不気味な氷塊。


「俺にはどうすることも出来ないな。よし、戻ろう」


振り返ると巨大な穴から黒い(もや)が湧き上がっていた。

その黒い靄は爽も体感したことのあるギルの魔法。


「何だ……、何かおかしくねぇか?」


肌にまとわりつく蠢く魔素は巨大な穴の底から湧き上がる。

ギルと一緒にいたこの数十分間で、ギルから感じたことのない雰囲気……


「大丈夫か?あいつ」


その蠢く存在へと小走りで向かおうとする爽であったが、走り出した一歩目の地面が崩れたことにより立ち止まる。


「いぁ……テ、ど……ッ!!」


湧き上がる黒い何かを通じてかギルの叫び声が爽の耳を通り抜けた。


「ギル?」


「やだ、イヤ……嫌だぁぁぁあ!!!」


深淵から耳を劈く少女の叫び声が響くと、辺りに広がる魔素が呼応し世界が薄暗くなっていく……

ギルの力なのか、それとも異常現象が起きているのか視界に映る魔素が黒い靄と同じように蠢き始めたのだ。


「うわッ」


見ていて気分が良いものではないの確かな光景は広がることなく、徐々にギルの元へ圧縮されていくような動きを見せる。


「嫌な予感っていうのはこんな感じのことを言うのか……ッ!!」


魔素が自ら動きを見せ、そしてそれがギルの方向。

どんなアニメでも、どんなラノベでも、どんな漫画でも、こんな状況で良いことがあった試しはない。

それは異世界から来た人間だからこそ思えたことなのだろうか――――爽が取った判断はあまりにも速かった。

地面を爆破させるほどの踏み込みからは音が一瞬遅れて聞こえるほど、更に躊躇なく穴の上で空を蹴り、真っ暗な……深淵の中へと踏み込んだのだ。


「――――ギル!」


超速で墜落してきたからこそ最奥までは一瞬で到着するが、周りは闇に覆われていて何も見えない。


「どこだぁ!!返事をしてくれッ!!」


光が届かないほど深い場所。もちろん酸素も薄く息苦しい、あまり声を出すと一旦この場所を離れることになってしまい……取返しがつかない出来事が起こることが容易に予想出来てしまった。


「――――ぁあ……ティルッ」


森で培われた野生の感なのか、それも自然に対応され人知を超えた聴覚をもってしまったからなのか、微かに聞こえたギルの囁きで勝手に首がそっちに向いた。


「今から全力で捕まえにいく、抵抗すんなよ」


息を止め、無音の狭間から微かな吐息を聞き取り――――一気に踏み込む。

風の着る音。

視界を動く魔素……


「これか――――」


確かに抱えた人型を確認するために空中へ力の限り跳躍する。

視界の暗闇は和らいでいき、抱き留めているのがギルだということを確認すると空中を何回も蹴りながら地上に戻る。


「……ティル、ティルがぁ」


目元を腫らし、強く握っているのは薄汚れた白生地。


「これじゃ……もう、戻ってこないよぉ」


力無く地に伏せる少女を横目に、爽はかける言葉を持ち合わせてはいなかった。

それでも、


「(やってみないと分かんないでしょ)」


常人には理解出来ない、自身を持ち合わせていた。


「おい貸してみろって」


枯れた大地を涙で湿らせるギルの手から白い布を無理やり抜きとる。


「おいッ!!触んじゃ――――」


頭に思い浮かばせるのはステータス。



【魔法の源収】


魔力が関わる全ての物質を吸収する。

(物理攻撃は吸収不可)


吸収した魔力を力に変換する。


魔力を内部に蓄えることが出来る。

(現在の蓄積値 155パーセント)


「平常心……平常心だ」


ギルの時もそうだった。

俺は詠唱なんて出来ない……だから全て魔素に任せる(・・・・・・・・)

魔素は頼んだことをやってくれるのかは分かんねぇけど――――


「俺の魔力も持ってけ。〝治せる〟か?」


【魔人化】のおかげで存在がしっかりと視認できる魔素に声をかけた爽の視界に広がったのは、体から濁流のように勢いよく流れ出る魔力と魔素が融合していった目を細めてしまう程の輝き……


「俺は〝死なない〟から“好きしてくれ〟」


ティルという人物を微塵も知らない。

それでもティルが生きていたという証が存在するなら、魔素が勝手に治してくれる。

俺はそれ以外に魔法を使っていない……ということはそういうことだろう?


「ティルってやつを“治してくれよ〟」


意識が白く染まっていくにつれて、体を痙攣させるほどの痛みは消えていった。

そして魔の森で輝く白い輝きもまた――――




魔法とは何か?

そう考えた途端に書いていた腕が止まり、妄想に沈んでいった。

魔術、魔導、魔法。この三つの何が違うのか?その真意はなんなのか?


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