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不死の王  7

パズ○ラ、千個当たらんくね?

そこは〈インドラ〉の王城一階にある扉を開け階段を下りた場所。

換気用の窓など一切なく、扉を開けると同時に生温かい空気と音が壁に反射し嫌でも(・・・)耳に届いていた。

獣のような嬌声が響き渡り、言語にすらなっていない叫び声も聞こえる。聞くようによっては拷問が行われているようにも思える声を辿って降りていくともう一つ扉がある。


「〝火炎〟のリグレイでございます。大事に至る前に早々に耳に届かせたい情報がございますので、入室の許可をお願い致します」


「おう……入れ」


「ハッ、失礼致します」


扉を開ければ真っ先に目に留まる巨大なベット。

少なくとも五人は眠れそうなほどのレース付きベットだけが一室の真ん中に置いてある(・・・・・)のだ……


「(これが遊戯室か……)」


レースの向こう側では何度も上下運動する影が見え、他にも複数の人影が目に入る。


「(色々と……今はそんな(・・・)気分にはなれんな)」


艶めかしい熱気が渇いた肌を蒸らし、テンポが良い低い破裂音が響き渡る一室。

たった一人の人間に出会ったことが主な原因だが、目の前で行われる情事に目を萎めた。


「魔王様、ご報告があります」


幸い……リグレイは〝火炎〟の台座に座る火にまつわる魔法のスペシャリストのためか、その熱気に当てられることなく毅然とした面持ちで扉の前に立つことが出来たが、いるだけ気分が下がる空間から早く抜け出したい一心で本題に入り始めた。


「手短にしろ。オレの今日はお前じゃ償えないんだからな」


「では単刀直入に申し上げます。先程、人族のはぐれ者と人族〝四英雄〟の〝天醒〟を除いた三名と魔の森で衝突致しました。三つ巴の末に結果は不戦不敗でしたが一つ……人族のはぐれ者から魔王様へと宣戦布告の示しを耳に致しましたのでご報告をと……」


「――――言ってみろ」


「では復唱致します――――〝愚か者はどっちか、罪を償うべき者はどっちか。近いうちに決めに行くから待ってろ〟とのことです」


「あぁ?ソイツは何を言ってやがんだ?」


人影が腰を突き上げると女性とは思えないような雄叫びが耳を劈き、リグレイは目を細め身を縮こませる。


「わ、私も理解が追い付けずにおります……。ですが私の検討だと〝大罪禁忌〟と何か関係があるように思えました」


「んだと……?」


「その人族のはぐれ者は〝大罪禁忌〟という言葉に反応を強く表しておりました……」


「…………まぁいい。今日はもう下がれ」


ギシっとベットの軋む音が響くと、その奥では冷たいオーラが円満した。

リグレイですら恐怖に足が竦む……、そのレースの向こうからは喉を詰まらせる悲鳴が聞こえた。


「で、では……失礼致します」


かんじかんだように動く手足に力を籠め部屋を後にすると背後からは、怒号と肌と肌が激しくぶつかる音が聞こえてくる。


「……テメェが擦らねぇから冷えちまっただろうがッ」


「ず、うっ、ずみばぜんッ!!」


リグレイは魔王の怒号を振り払うように素早く階段を駆け上がる。


「(切り替えろ……切り替えるんだ)」


少しだけ重く感じる扉を開け、王城の一階に戻ってくるなり足早に自宅に戻ろうとするリグレイを留める声が背後から聞こえる。


「おい〝火炎〟の……」


壁に寄りかかる幼い少女を見て、リグレイは足を停めてしまった。


「どうしたんだ?その恰好はまるで……」


それは〝真っ白(・・・)〟な服装のギルだった。

いつもならフード付きの戦闘服を常備しているのにも関わらず、今回はティルが来ているようなフリル付きの可愛らしい服装。〝火炎〟の台座に座っているリグレイからしたら、それはかなり異常であると感じ取ってしまったのだ。


「この服はティルの衣装ケースから見繕ってきた」


「……ん?どういうことだ……それは」


「後でお前も《存在結晶》の場所に行ってみな……」


《存在結晶》――――それは旧魔族の英知が詰まった魔族の象徴と言えるものだ。

どこにいるかは分からずとも、誰が生きているかは分かる……魔族の墓場。

生まれてくる魔族は《存在結晶》に自身の血液を投じ、存在していること証明する。


「まぁいい。今はちょっと面を貸せ、お前とウチにしか分からないことだ」


先に足を運び前を歩くその背中はどこか昏い……まるで戦争に向かうときのような雰囲気を醸し出す。

だがそれはリグレイ(・・・・)にしか伝わっていないだろう。


「あぁ……」




〈インドラ〉――――それは国名であり、魔族が生活場所の総称でもある。

四国に分かれる〈アディベート〉で南側に広がる魔素の濃い地域。

太古の歴史には悪魔が創った地だと記録されており、その濃い魔素にはどの種族に対しても〝毒〟となるまさに……〝魔の国〟。

リグレイとギルは王城を出ると《存在結晶》の前に立っていた。

〈インドラ〉には太陽の光がほとんど届かず薄暗いが、二人が立つその場所は星のような輝きを放っていた。


「見てみろ」


あまたの光の粒が魔族の生命を表している。もしも他種族が《存在結晶》を見てもただ輝いているように見えるそれを見ると、リグレイの瞳孔が狭くなった。


「これは……まさか」


「そうだ。ティルと〝水氷〟の輝きが消えかかってる」


「……ッ!?俺は帰ってきてからそんなこと一度も――――」


「ウチもだよ」


「は?」


「ウチがここに来なかったら、六王幻魔の上層はどうしてたんだろうなぁ……」


「お、おい、ここでそれを言うな。〝大罪〟を着ることになるぞ」


「――――知らねぇよ」


〝堕天〟の性質である深淵の魔力がギルの足元に微かに広がった。

その昏く深い闇は、今のギルの感情そのものだとリグレイは悟ることが出来てしまった……


「ウチの一番の宝は〝ティル〟だ……」


夕暮れ時、誰しもが夕飯を作り……本来の〈インドラ〉ならば落ち着いているはずの時間帯。

《存在結晶》が彩る輝きは深淵へと呑み込まれ、ギルの闇が加速していく。


「――――……分かっている。で、俺に何を頼みたいんだ?」


「私をあの紛い物のところへ連れていけ」


泣きそうなほど苦しい。

最愛の人物の死に直面したことのあるリグレイには、ギルの無表情さに映る感情を感じ取ることは容易だった。

爽が唱えてしまったあの異常なほどの回復魔法に縋ってしまう気持ちも分かる。

だが――――


「それは出来ない」


リグレイには最愛の人物との大事な約束があるのだ。

先代の〝火炎〟に座りし者……親のような人物でもあり、自らの師でもあるリンドとの大事な約束が。


「チッ……。なら、もういいよ」


更に濃くなっていく闇の中に微かに感じた〝罪〟も意思。

今なら誰に見られても背中が(・・・)語ってしまうだろう。


「待て」


「んだよ……」


「ギルの気持ちを汲み取れる以上、俺はお前の行動を止めなければいけない」


「調子に乗るんじゃねぇよ、角無し野郎が」


ギルが手を伸ばすと〝堕天〟としての力が、リグレイの喉仏に近づいていく。


「こんな所で力を使うな。戦いたいなら表に出ろ(・・・・)……お前に俺の力を教えてやる。そんな情緒で実力主義の世界を生きていけると思うなよ?」


その闇を振り払うようにリグレイは〝火炎〟としての力を一気に開放した。

日が堕ち始めた世界を灯すような明かりが〈インドラ〉全体を包み込み――――


「何をしているんだ!?」


王城まで届いた〝火炎〟の魔力によって出張ってきたのは〝深緑〟の台座に座るデイディだった。

ここまで来る速さを考えれば……ギルの〝堕天〟の力を感知していたのかもしれない。


「これから魔族の流儀に従って決闘を行うことになりました」


「なッ……馬鹿を言うな!!お前たちは六王幻魔なんだ、そんなことをする必要がどこにある!?」


「私は〝堕天〟に罵られました……それがどうしても許せなかった。私のことはどうでもいいが、リンド師匠(・・・・・)のことを言われては、戦うしかないでしょう?」


その燃え盛る業火は、デイディに伸びていく。

まるで「邪魔をするな」と言っているようにも見える炎。それに〝深緑〟として先代〝火炎〟の事情をよく知る者でもあるデイディにリグレイを止めることは出来なかった。


「分かっているのか……?六王幻魔の戦いはどちらが死ぬまでだ。お前たちは六王幻魔になったばかりなんだぞ、これから人族との戦争はいくらでも起こる。そもそも――――」


「うるせぇよ……〝深緑〟の」


「なに?」


「こっちはこっちで戦争なんだよ……誰にどうこう言われる筋合いはねぇ。戦いってのはそうじゃねぇのかよ?」


「もう既に戦いは始まっているんです――――死にたくないなら、離れてろよ」


青白く輝いたリグレイ……それに相対するのは漆黒の光沢を広げるギルだった。

六王幻魔として台座に座ることが許された者のみが持つアビリティの一つである【覚醒】。

その開放は〝深緑〟の台座に座わる旧魔族(・・・)であるデイディですら、一歩後ずさるほどの力。


「場所を移すか?〝火炎〟の」


「馬鹿言え……場所はここからでいいだろうッ!?」


地面を削り火花を散らしながらギルを蹴り上げる。

小さい体はまるで瞬間移動したかと思う程の速度で上空に飛ばされる、それをリグレイは後を追うように足元に炎を纏わせて高く飛び立つ。

その一瞬の『武』にデイディは茫然と立ち尽くしてしまった。


「…………ッ!!」


空中でリグレイの叫び声が響き渡る。

すると大爆発と共に黒い球体が北へ勢いよく飛んでいく。

追撃を忘れていないリグレイは黒い球体の追いかけ、〈インドラ〉の上空から姿を消した。





夜にさざめく魔の森。

明かりもない暗闇のなかで煌びやかに光る存在があった。


『…………』


爽の隣に寄り添うように座っていることで、眠っている爽は眉を少しだけ狭めている。


『私……捨てられるのかな』


眠っている自分の主の顔を見ることが上手く出来ない……。

顔周りに熱が籠り、唇が震える。


『いやぁ……いやだよぉ……』


せっかく生まれた。

東雲爽という人物のために生まれたのに。


――――消えてくれ――――


あの時に言われた言葉が耳から離れなかった。

苦しかった。

喉が締まった。

身体が冷たくなった。

何より、


『何も……変わってない』


夜まで一緒にいてお互いに何も言葉を発していない……そんな状態が続いていた。


『消えたくない。一緒にいたい……』


眠っている爽を横目に考えてしまう。

この耳から離れない言葉を消したいがため、爽に必要とされるため。

ただそれだけのために、


『そうだ……!私が寝てる魔族を起こしたら、必要としてくれるかな……』


〝名もなき少女〟は立ち上がった。

無防備に眠る主に笑ってほしくて。

頼ってほしくて。

必要とされたくて。

ただそれだけのためにハウザを目覚めさせようと躍起になるのだ。

これを本当に必要と思っているのかも判断せずに、健気な少女は白銀にも見える白い膜に手をかける。


『天命の終わり――――魔精霊(エニグマ)が諭した』


小屋を未だに包む熾天使ノ領域セラフ・マリアリベンジの中へ…………

微笑みが溢れた表情と共に消えていくのだった――――










読んでくれている方々は異世界転生したならどんな立ち位置がいいですか?

ちなみに私は〝転生する主人公を間違って殺めるトラックの運転手〟になりたいですね。

死に方が気になる異世界転生系の主人公たちの生みの親のような存在……

それが〝トラックの運転手〟だ!!


は?

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