憂鬱はキスさえ跳ね除ける
風になびいたポニーテールが門の影からみえて、その教師、狩谷海衣は微笑んだ。
「ごめんごめん、待たせたね」
そう言って校門を出て、少女の顔を覗いた。
亜麻色の髪をした彼女は、鉄紺色のブレザーを着ていて、やや冷たい印象さえ与える端正な顔立ちである。
まつ毛が長いのと、唇が薄いので、何だか憂鬱な表情に感じるのだった。
「別に、大して待っていない」
「……そう」
少年のような口調で相手を突き放す言葉も、狩谷にとっては慣れた事だった。
しかしこの、校外で会う度に感じる背徳感だけは未だ心地が良くない。
「本当に、いいの?」
心配そうでいて、内心楽しんでいる声で狩谷は訊ねた。ただ少女、信羽藍も、狩谷が気配りだけで言っているわけじゃないことを分かっているので、
「好きにすればいい。あなたが来たければ」
と、再び突っぱねた。
影では、女生徒を取っかえ引っかえして遊んでいるという噂がついて回っているというのを狩谷本人も知っていた。
けれどそのために臆病になってこの少女を諦めることを狩谷は出来なかった。それだけの、訳があった。
「ああ。すまない…………ありがとう」
その最後の言葉は消えそうで、しかし狩谷は微笑んで言った。
……すまない、という言葉のわけさえ、この少女は知らないでいる。僕がどこへ連れていこうとしているのかも、知らないで……
狩谷はそんなふうに、少しだけ哀れみも混じえて思っていた。
相変わらず、憂鬱そうな少女の横顔は変わらない。
狩谷はその額にキスをしようかどうか迷った末に、結局やめた。
そして二人は、信羽藍が住んでいるマンションの前に辿り着いたのだった。
さすがに第2部分からだと訳分からん過ぎたので付け足したんすけど……
ま、現実世界での話がもうちょい欲しいなと思ったら、おいおい書きますかね。