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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第6章 魔王編 -ほんとの俺は王子様-
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第83話 優しさというか甘さ

 円柱に半円……円錐と言えばいいのか? で蓋をしたような建物が軒を連ねている。決まって上から突き出しているのは、煙突だろうか。


 国が変われば、建物一つとっても印象がまるで違うもんなんだなァ。


 そういや、言語ってどうなんだろうな。コリンナの喋り方にも、若干の訛りが感じられる。といっても、共通語の共通語たる由縁は“世界中で使われているから”であって、どこがそれの発祥の地ってことにもなってないから、コリンナが訛っているという表現は間違っているのかもしれない。


 俺たちはいつも、自分の住んでいた地域こそが始まりだとか、正しいだとか思いがちだ。


 戒め戒め。


 うーん、そうだな。彼女は彼女でアロンデイテル訛りがあって、俺たちは俺たちでアラロマフ・ドール訛りがある、こう考えたらどうだ?平等じゃないか。うん。


 あれ? でも俺が言葉を教わったのは里でのことだよな。そもそもどうして、アラロマフ・ドールの人間の喋り方には、一切の違和感を覚えなかったのだろうか。


 正しく言うなら、俺が言語学習をしたのは失われた記憶の中でのことなので、“恐らく”里で教わった、だが。いやはや、失われたのがエピソード記憶だけで助かったな。10歳にしてバブバブ言ってらんないっしょ。


 コリンナに続いて警備隊の詰め所とやらに向かっていた俺たちだが、残念ながらそんなにぽんぽんと場面は進めない。次なる事件の幕開けだった。


 建物と建物の間に、蹲っている人影が見えていた。小さいものが目立つ。


「あれは……」


 なんだ?ボロボロの服を着て、いや着ているといってもいいのか、いかにもといった外見。


 こんな立派な街でも、浮浪児がいんのか。


 思っていると、既にそこに近づいている奴が。


「どうしたの? 具合悪いの?」


 ……おい、守。


「目的を見失うんじゃねェよ……」


 自分にしか聞こえない音量で呟いて、仲間たちを一瞥してから、俺は守を追いかける。と言っても、どこまでも追いかけて、皆からはぐれるつもりは毛頭ない。すぐに捕らえて戻るさ。


 別にそこまで珍しい存在じゃないだろ、貧乏なガキなんて。それを可哀想と思うのもお前の勝手だが、多分、近づいてもお前の思うようにはならんぞ。


 見てみろ、そのガキども、ちっとも世界に絶望した目なんてしてねェ。


 強く生きる、その意思が垣間見える。近づいてきた守に対して即座に伸ばされたその手の……癖の悪さにも、それが顕著だ。


「いまだっ!」


「あっ」


 その三人組、年は10に満たないくらいだろうか。少年二人が守の手に飛びついたかと思うと、少女が素早く守の背後に回り、肩に下げていた鞄の蓋を御開帳。勢いよく中身へと手をつけた。


 守は驚き、混乱に見舞われているらしい。それじゃ野生で生きていけねェぞ。いや、対処方法くらいはいくつか浮かんでいるのかもしれない。だが、そのどれもが力加減を誤れば、この子供たちを傷つけてしまうであろうから、躊躇しているだけで。


 ちっ。解るよ、その気持ち。俺も人を傷つけるのが怖い。


 守の背後に回ったということは、それを追いかけて来ていた俺に対しては、背中を見せているということでもある。俺は少女の頭をむんずと掴んだ。


「おいクソガキャアァ……。人様の荷物に手をつけるたァ、相応の覚悟できてんだろうなァ……?」


 別に殺す気もいたぶる気も無いけど、なんとなく悪ぶってしまう。もはや癖だ。


「……ッ!!」


 だが、これくらいの状況、慣れたもの、そういうことなのか。少女は鞄から何かを引っ張り出し……なんだ? 四角くて、折りたたまれた革製の何か。何かを収納するものだってことは想像に難くないが、守は財布を持ってないはず……。あ、このガキには関係ないか。


 財布だと思うものを抜き出し、それを前方へ――守から離れた少年たちへ――投げ渡した。なんてコンビネーションだ。感服……してる場合か!


「それは駄目、返してっ!」


 じゃあ何ならくれてやるんだ? と思わないでもない守の叫びを聞きながら、俺は少女の両手を後ろで合わせ、緋翼を纏わせて手錠とした。自らが何によって拘束されているのか分からず当惑する少女はおいといて、すぐさま少年二人に向かう。


「大人しくお縄につきやがれ」


 歩幅が違うんだよ、歩幅が。理詰めで諦めさせるまでもなく、少年たちは逃げ切れるはずも無いことを理解してくれたらしい。俺に向き直って、土下座でもする……かと思いきや。


「たすけてーーーーおまわりさーーーーん!!!!!」


「た、たすけてーーーーーーーー!!」


 な、なんだそれ!? 思い切りいいな!?


 つーかおまわりさんってなんだ。まわる……巡回してる警備隊のことか? そんなん、こっちが呼びたいわ。だって、勝手に鞄をまさぐられ、財布(っぽく見えるもの)盗られてんだぞ。せっかくこの国には司法が存在してるってんなら、きちんと悪者の方を成敗してほしいもんだが。


 ……いや、まさか、まさかな。この状況で…………俺と守の方が悪者扱いされるなんて……無ェよな?


 無いですよね?


「大丈夫かい!?」


 すると、俺たちが入ってきた側とは逆側から、緑の制服……警備兵か。


 もう来たのか。ほんとにお巡ってんのか。なんて国だ。治安最高かよ。


 いや、いま最低の状況なんだけど?


「このお兄ちゃんたちが、いきなりらんぼうしてきたの!!」


 飛びつくように警備隊の背中に隠れた少年二人。なんてこった。完全に罪を擦り付ける構えじゃねェか。警備隊の後ろで、少年の一人がしてやったりと無邪気な笑みを浮かべる。なんで無邪気って表現しちゃうかな。邪気ありありだろ。でもまあ実際子供の笑顔って反則だよな。んなん今はどうでもいいわ!


「なんだって。……君たち、そこの少女から離れなさい!」


 長い前髪に加え、制服と同じ色の帽子を目深に被っているせいで、その男の顔を窺うのは難しい。なんとかこいつを説得しないとな……。そう考えていた時だった。傍らを駆け抜ける、風。


 守だった。


「それだけは駄目なんだっ、返してもらうよ!」


 元々、体調が悪い素振りを見せて、通行人を誘う罠だったんだろう。子供の浅知恵だ。優しさ故、それに見事に引っかかって、悔しいのか。いや、守に怒りの感情は見受けられなかった。


 ただ、奪われたものに対しての執着心だけが感じられた。よっぽど大事なものなんだな。直感だが、やっぱり金じゃないと思った。大切な誰かからの贈り物とか、思い出の品とか。


「大丈夫。もう心配しなくていいからね」


 少年たちを安心させるような言葉を紡いだ警備隊。それに対しいきなり攻撃するような人間ではないと思うが、果たして守は。


 ……ったく。とにかく、ただ見てる訳にもいかないだろ。そう考えて踏み出そうとした時。


 視界の内に、僅かに朱が舞ったような気がしたのだ。そして、警備隊の男を通り過ぎようとしていた守の身体が、半回転するように、前のめりに倒れた。


 ズシャアッ。倒れ込んだ体が地面に当たって擦れるその音は、少し間を置いてから認識された。


「ま、守……?」


 返事はない。


 ヒュン、ヒュン、と。


 風を切る音を響かせつつ、守を薙いだ細剣に付着した血を払い、その男は、


「人生における、全てのしがらみから解放してあげるからね」


 理解に苦しむ言葉を吐いた。


「はぁ? お前……おいッ!?」


 後ろを見もせずに、細剣を突き出した男。この口元が嫌らしく弧を描いていることに気付き、怖気が走る。


「え……?」その先にいるのは、男を自らを庇護する存在だと信じてやまなかった少年。「死にたまえ」おま、何を――――や、やめろ!!


「ううぅっ!」


 人間の言葉で喋れない様子だが、守は生きていた。いや、だがしかし。少年たちを庇うように地面から飛び上がった守は、細剣によって右のわき腹を貫かれた。「あぐっ……」


「てめェ!!」


 くそっ、何なんだこの男は。状況が理解できない。こいつ、悪者だったのか。……警備隊じゃないのか!? 成り代わり……とか。変装? 勿論、名乗ってなどくれないだろう。


 それでも、悪者だという関心さえ持てれば、容赦する必要も無い。


 あわよくば……相手がこれでビビってくれればと、これ見よがしに右手に緋翼を纏わせる。巨大な熊のような手でも飛竜の咢でもなんでもいい! とにかく、初見のインパクトが重要だ!


 そしてそれに加えて、大声だ。


「誰か来いよォォォォォォォォ!!」


 世界一格好悪い叫びだと罵りたければ、勝手にしてくれ。そう思いつつ、俺は街全体へ響けとばかりに叫んだ。


「ひいいいっ!!」


 少年たちは、持っていた物をその場に投げ捨て、一目散に逃げだした。その中に守から盗んだ物があることを確認したら、もうこいつらに関してはどうでもいい。余計なものだ。戦闘を前にしたならば、早々に少年たちの事は意識の外に追いやってしまいたかった。


「お前もさっさと逃げとけ!」


 少女を拘束する緋翼を解除し、叫ぶ。「きゃあああっ」叫びと共に聴こえる足音を返事だと信じつつ、少年たちを逃がすまいと再び細剣を構えた男に……飛びかかれ!


 緋翼を振りかざした時、気づいた。


 もう、カーリーの血を貰った時の全能感は完全に失われている。


 果たしてどちらの状態を正常と呼べばいいのか悩むが、とにかく今は比べれば弱い方、ということだ。それでも、やらなきゃならねェことは変わんねェ。


「っづおらァァアァアアァァァァッ!!」


 男の背中を押さえつけるように、ふん掴まえると、そいつの身体から力が抜けるのを感じた。呆気なく。拍子抜けするほど。


「はあ?」


 俺が人間を覆い隠すほどまで巨大化させていた黒の手を開くと、男はそのままばたりと倒れてしまった。


「……………………え、勝った?」


 嘘だろ。守に傷を負わせ、少年たちへ躊躇なく死を向けた男が、ただの一発で倒れたってのか。


 まぁ、そういうこともあるってのが、意味現実らしさなのか……?


 無理やり自分を納得させつつ、男の顔でも確認してやろうと、その帽子へと手を伸ばした……その時。


 ――轟音。


 思わず、両耳を抑えた。


 聴力のせいもあるが、大きな音は苦手だ。それも、連続して響くこれは、まるで。


「爆発……!?」


 何が起こってるっていうんだ。


 そこで、はっとする。


「皆は…………!?」

という訳で事件発生です。

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