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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第6章 魔王編 -ほんとの俺は王子様-
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第82話 船旅去ってもう一波乱?

 日付は変わって、俺たちは次なる目的地に到着する。


 ……交易都市、エスビィポート。


 横殴りに叩き付ける波が、大地を抉りとってしまったかのよう。そんな印象を与える地形でありながらも、海は非常に穏やかだ。


 崖に隣接するように並び立つ建物群が、全力で生きる者たちの活力、そして多少の圧迫感をもたらす。それらに挟まれるように、まるで口を広げた怪物のもとへと我が身を差し出すかのように、アクアリウス・バーケンティンは入港した。


 昼飯時だと思うんだが、いや、だからこそか? 豆粒のような人々が、高台の上を歩いているのが見える。


 港こそ定位置に造られているが、さすがは崖の上の都市。街の中に、あんなに! ……階段が滅茶苦茶いっぱいある。足が疲れそうだ。


「やべぇなここ……。檻に入れられる感覚と同時に活気も感じるんだけど……」


「さすが、牢獄に入ってたやつは言うことが違うな」


 今まで感じたことのない不思議な空間に感想を述べると、周りはそれを煽り始めた。ダクトに始まり、


「考える時間ばかりが与えられるあの環境にいると、感性が磨かれるのかもね」「閉所恐怖症にならなくてよかったですね!」


 レイスとリバイアも便乗してきた。はい、無視、無視。


「はい、もう降りて大丈夫だよ」


 ツギヒトに促され、俺たちはその島国の大地を踏みしめた。


 停泊中の船の中には、アクアリウスより巨大なものもあった。これだけの船がいつでも準備されてんのか? 凄まじいな。


 大中小、大量のコンテナが積まれている。あ、ビットもいっぱいある。小さな漁船が20個も30個も……個? さんじゅっ……(せき)? (そう)? (てい)


 ……あー、数え方分かんねェや。とにかくいっぱい繋がれてら。


 転んだら相当痛そうだなァ。コンクリート造りの地面に靴を鳴らして、脅威度合いを確認する。


「つーか、沖の方に外骨格纏ったみたいな船(?)もいるけど、あれが軍艦ってやつなのか?」


 ちらりとそれを眺めつつ言うと、仲間からの反応は鈍かった。


「……軍艦のように見えるのも仕方ないが、あれは軍艦じゃない。……この街に軍隊はいないからな」


 少し自信なさげに言うアルは珍しいな。


「順序が逆だろ。軍隊がいないから軍艦じゃないって……。事実上の軍艦があんなら、軍がある根拠になんだろ」


「それは……いや……」


 俺が反論すると、アルフレートはどう説明したものかと悩み始めたようだ。


「アロンデイテル、エクリプスの両国は、ベルナタの勧告に従って、軍事を手放すことにしたの」


 魔王軍の使者改め、吸血鬼フェリス・マリアンネ……いちいちフルで紹介するとなんか根に持ってるみたいになるな……。とにかく、フェリスが言ったんだ。


「勧告? 降伏でもしろってか?」


 その割には、活気に満ち溢れてるように見受けられるぞ。とてもじゃないが敗戦国には見えない。


 というか、負けるってのはここも魔国領になるってことなんじゃないのか。


「ノン。魔王軍の中で……過激派と穏健派の折衷案(せっちゅうあん)として、人間の国に軍事を手放すように提案したのよ。両国ともにベルナタに近いから、危機感を持つのも早かったみたい」


「なるほど」


 それ、お前らの脅しに屈したってことじゃねェのか……?


 直接的な暴力で従わせたわけではないとしても。


「ま、サンスタとドールが従う訳ないよな。というか、サンスタが「魔王軍殺すべし」を掲げてる以上、ドール側も表立って友好的な態度を示せない訳だし」


 お前、何でもかんでも略すキャラになっていくつもりか、ダクト?


 サンスタード帝国とアラロマフ・ドールのことだって、まぁ分かるけどさ。


「どこも何かしらに怯えてんだな」


 争いが生まれるのにも、争いを止められないことにも、いくつもの理由が絡まってるんだろう。


 一つ一つが解決されないままで、時間が経ち過ぎた。


 だからって、まだ悲観するだけの世界でもないと。そう思うけどな。


「私達としても、苦肉の策だったことは認めるわ。でも、時間があまり残されていないの。絶滅してしまう種族も出かかっている始末だし……。過激派を抑え込むためにも、相手側の意見を取り入れた政策を執らざるを得ないこともあって」


「そういうもんだよな。知らんけど。あ、知らんけどっていうのはどうでもいいってことじゃなくて、俺がそれについて詳しく――」「レンドウ君、静かに」


 ランスにぴしゃりと言われ、何でだよと思いつつも素直に口を閉じる。どうやら、第一村人の御登場らしい。村ではないか。


「えー、エスビィポートへようこそ。警備隊の入国手続き係、コリンナと申します。皆さまの所属をお教えしていただいてもよろしいですか?」


 おや? それは、灰色の一歩先を行く、暗い色の髪をショートボブにした、若い女だった。警備隊の制服だろうか? きっちりとした緑色の服を着こなしている。


 この街の治安維持組織の規律がゆるゆるでないのであれば、その髪色は生まれつきなのか。そう思い辺りを見渡してみると、なるほど、どうやらここは異国らしい。知ってたけど。


 貿易、というフレーズから察せられるように、様々な国の人間が集まってくる場所なんだろう。水色の髪もいない訳ではないけど、黒っぽい髪色が目立つ。それがこの島国の特色ってことなのか。


「やあコリンナ」


 そう言いつつ、前に進み出たのはツギヒトだった。顔見知りか。


「ツギヒトさん、こんにちは。やはりアクアリウスは何度見ても立派ですね!」


「はは、そういうのは船長に言ってあげてよ。で、コリンナ。こちらにいらっしゃる方々が、アラロマフ・ドールの治安維持組織、ヴァリアーの隊員達だよ」


 長々と無駄話にでも興じるつもりかと思ったけど、ツギヒトは早々に俺たちの事を紹介してくれた。気が利くじゃん。顔見知りに紹介してもらった方が、何かと印象がいいだろうしな。


 しかし俺の予想に反して、若い警備隊の表情は怪訝なものへと変わった。


「え、本当にヴァリアーの隊員……で、いらっしゃいますか?」


「はい」ランスが頷いた。


 コリンナはそれを……信用していいものか迷っている? そんな様子だ。


「ツギヒトさん、ヴァリアーの方々は今朝方到着したはずですけど」


「ええ? そんなはずは。いや、だって、うん。この人たちは間違いなくヴァリアーだよ」


 だって僕の弟がいるしね。ツギヒトはそこまでは口にしなかったが、そういうことだろう。


 よかったー、ダクトがいて。


 よく分からん状況ではあるが、この上本代の人間にまでヴァリアーかどうかを疑われてたら、マジ絶望。こりゃ一家に一人はダクトが必要だわ。


「船が遅れたせいでの誤解じゃないのか?」


 腕組みを解いたアシュリーが、皆の荷物を纏めながら言った。がたいがいいと、荷物持ちさせられるから不憫だな。後で手伝ってやろう。


「うーん、でも、橋田さんが言ってたんだよなぁ。ヴァリアーの人たちがガリオンに乗って来たって……」


 はた迷惑だなオイ橋田ァ!! いや、なんか年上な気がするぞ。この女性がさん付けしてる相手だし。橋田さんンン!!


「……ガリオンだって!?」


 コリンナの普段の口調だと思われるぼやきに、ツギヒトは鋭く反応した。


「はいっ!? ……はいっ、確かにそう言ってました。確かに、驚きですよね。砲門備えてますし、あんな攻撃力高そうなのが港についてたら、皆不安がっちゃいますよね。でも、すぐに出港しちゃったらしいので、心配いりませんよ?」


「それ、どこの所属だか分かる?」


 コリンナは困ったように両手の指を胸の前で合わせた。


「ええっと、橋田さんに訊いてみないと……」


「じゃあ、すぐに詰め所に行こう。……船長、ここは任せましたーーーー!!」


 振り返って、大声を出したツギヒト。「うっせー責任感の薄い貴族出が!! いつも通り勝手にしやがれーーーー!!」即座にそれを超える大声が返ってきた。船長か。


 ツギヒトは満足そうに、


「気のいい返事だ」


 ……そうか?


「どうしましょうか、ランスさん」


「私達も行くべきだろうね。そのヴァリアーを名乗った人物たちが気になるし」


 レイスとランスの会話に、コリンナも頷く。


「そうしていただけると助かります」


 そうして彼女は、俺たちを見渡した。何かを確認しているのか。


「ヴァリアーの皆さんは総勢何名ですか?」


 ああ、そうか。確かにどこからどこまでが俺たちのパーティなのか、一目見ただけじゃ分からないか。近くで作業してる船乗りたちもいるしな。アシュリーとか平等院とか、雑用を押し付けられてる奴らは何となく船乗りだと思われて数から除外されたりして。けけ。ま、ないか。肌の色で海の人間じゃないってことは丸わかりだ。


「20人です」レイスが答えた。


 ん、そうだっけ?


 一行を見渡し、指折りして数えてみる。


 俺だろ、レイスだろ。リバイア、カーリー、アル、ダクト、ランス、守、真衣、貫太、アシュリー、ティス、アザゼル……だっけ、平等院、大生、アストリド、ベニー、フェリス、ジェノ、ツインテイル。


 ジャック三兄弟は馬車と共にロスに残っている。うん、合ってるな。


「分かりました。多いですねー!じゃあ皆さん、行きましょう。着いて来てください」


 コリンナは埠頭を出た先、頭の痛くなるほど長く白い、大階段を指差した。海もそうだけど、太陽を受けて光り輝いちゃうもので溢れてる人間界。ハハ。マジ光の民過ぎてウケる。俺には生き辛いわ。


 いや、でも俺達が本当は吸血鬼でないとしたなら、もしや。それすらも根本から覆されることがあるのだろうか。


 考えつつも、それでも俺は日傘を広げる。ポンッ、と小気味いい音が響いて、影が俺を包む。


 男子が日傘を使うのを物珍しそうに見ているのか。コリンナは疑問符を浮かべた様な顔をしていた。


「で、この度はどういった用件でこの国に?」


「通りがかりです。魔王城を目指してて」


 馬鹿正直に答えるレイス。おいおい、言っちゃっていいのかそれ?


 この国の人たちがどれくらい魔王軍の話題について気にしているのか判断がつかない俺としては、見ていることしかできないけど。


「魔王城ですか! では、ついに話し合いがもたれることになったと期待してもいいんですか?」


「はい、友好的な関係を築ければ、と」


 あれ、意外に普通だな。この国の人間は、別に心の中に影を落としながら、魔王軍に怯えながら暮らしてる訳じゃないのか。


 ……確かに、フェリスも言ってたか。魔王ルヴェリスは博愛の王。人間と魔人の垣根を取り払い、共存できる道を探している、と。それだけの大言壮語を吐いてんだ、すぐ隣の国にくらいは、ねえ? 多少の信頼を与えていて欲しいもんだよな。


 この分なら、少なくとも俺の期待には応えられる、いい王様なのかもな。


 ……っづあー。足元からも熱気が沸き立ってくるようだぜ。


 長すぎる階段の始まりに憂鬱としていた俺は、後ろで小さく呟かれたジェノの言葉にまで、気を回す余裕は無かった。


「その友好的な関係の為に、失われるものがあるとすれば…………」

新しい街に到着です!

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