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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第6章 魔王編 -ほんとの俺は王子様-
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第81話 ほんのり解説回

 レイスがはっとした表情になって、


「まさか、フェリスさんは……」


 と呟いた。しかし、それは殆ど俺の耳には入っていなかった。


 入っていたとしても、意識されることなく抜けて行っていた。


「現グロニクル……シャラミド……孫? ラ・アニマ…………?」


 俺は、ぼうっとした頭で、フェリスの言葉を反芻(はんすう)しただけ。


「私の考えが間違っていないなら。レンドウ、あなたは…………記憶喪失、で……あってる?」


「ああ……」


 フェリスは目を伏せた。憂いをたたえたその表情が意味するところは。


「そう、やっぱり、あの事件の後で記憶を…………」


「フェリスさんは、レンドウの事を知っているんですね。それも、彼が覚えていない、昔の彼を」


 はあ? あ、ああ。そういうことに、なるのか……。


 レイスの言葉に後押しされるように、俺も遅ればせながら状況を正しく理解した。恐らく、ちゃんと?


「……いや、やっぱり解ってねェかも。順を追って説明してくれ!」


 思わせぶりなのはもう勘弁だぜ。


「ええ。……じゃあまずは、私の素性から」


 真正面から俺を見据えて、


「私は、フェリス・マリアンネ。シャパソ島の魔国領ベルナタ占領域(せんりょういき)、王城ルナ・グラシリウスで生活していた、吸血鬼よ」


 いや、名前はもう知ってるし。そう思いながら半目になって聴いていたせいで、最後の辺りで噎せ返った。


「ケホッ、ゲホカハッ!! ……はあ? 吸血鬼!?」


「あら、そこまだだった? 昔のあなたを知ってるって言ったから、もう伝わってるかと思ったけど」


「何言ってんだよ。そりゃ、記憶を失う前のことなんて、他の奴が教えてくれることを鵜呑みにするしかないだろうけど。……いやいや、吸血鬼っつゥには、さすがにお前の外見は……」


 おかしいだろう。全然吸血鬼感無いだろうが。


 それとも、お前も髪を染めてるとか言うんじゃないだろうな。


 ううん、説明難しいなぁ、と。自らに気合を入れるように両手で頬を軽くたたいて、彼女は言う。


「ええ、金髪に紫紺の瞳。でもこれが、この世界での吸血鬼の、本当のスタンダードよ」


「…………」


「残念だけど、レンドウの認識の方が間違っているの」


「…………いや、待て。じゃあ、なにか? 俺が里で嘘を教わって育ったとでも言いたいのか?」俺だけで留まる話じゃない。クレアもゲイルも、誰しもが。ああ、いや。「それか……里の連中も全員、自分たちが吸血鬼だと思い込んでるだけの存在だってか」


 そんなの、悪ふざけがすぎるぞ。そんな虚構、そんな勘違い。


 どちらにしてもあり得ないだろ。


「里の……ラ・アニマの人々のうち、真実を知らないのは未成年の者だけ。大人たちは、シンが定めた教育方針に則って行動しているだけです」


 ジェノ。こいつの方は“俺の常識”に当てはめても、充分に吸血鬼って外見だが。それでもこいつらに言わせれば、ジェノもラ・アニマの住人とやらになるのか。


「そのラ・アニマってのが俺たちの種族の本当の呼び名だってんだな? しかも、それを決めたのがシン、だって……?」


 二人は無言で頷いた。次に何を話すかを整理しているんだろうか。


 ちっ。次に何から訊けばいいのか、整理してェのはこっちだっての。


 レイスとリバイアはすっかり二人を信じ切っているのか、決して聞き逃せない話だと言わんばかりに耳をそばだてている。つまり、静かにしている。


「俺たちにシンはいねェぞ。トップは族長だし」


「いたのよ、遠い昔には。アニマの守護者。炎の……生命の調律師と呼ばれた、劫火(ごうか)様が」


 劫火サマ、だと。


 ……全く思い当たる節が無い。頭の片隅すら刺激されない。


 劫火サマとかいう名前を聞いても、大して興味がわかないのって……不敬に値するんだろうか。でも、優先順位が低いと感じちまったもんは仕方がないだろ。


「……俺がジジイの孫だってのは本当か?」


 さっき、俺の事を王子とか言ってたよな。気持ち悪い称号だ。なんだよ王子って。


 そんなキラキラしたオーラを振りまくことを義務付けられるような称号が、この悪の権化たる俺様に与えられていい訳があるか。


「本当よ。最初は性格が違い過ぎてて半信半疑だったけど……。貴方が“私の知るレンドウ”なら、間違いないわ。近い将来、一族を纏め上げることを期待されていた少年。幼少のころから緋翼の適正が高かった」


 潮風がフェリスの長い髪をさらって、鼻をくすぐったらしい。鼻の下を指で擦るその様子に、ちょっと萌え……てません。ませんよクソが。


 緋翼の、適正だと。


 確かに、一族には自由に緋翼を出せる奴は少なかった。傷ついた自らの身体を癒す、受動的な力。


 多くの者にとって、そんな認識だったように思う。


「私が知る、ってなんだよ。ってか、そう。お前ら二人はなんでそんな事情通なんだよ。昔はさ……あー、……アニマに住んでたってのか?」


 二人は実に息の合ったコンビネーションで答えていく。


「私達吸血鬼は、元々ラ・アニマの人々と共に暮らしていたの。【翼同盟】の名のもとに」


「……決まった場所に定住することなく、各地を渡りながら生き延びてきたのですが……ある時を境に、能力が人間に全く効かなくなったのです」


「具体的には、私達に噛みつかれた人間が、死ぬことが無くなったの」


「吸血鬼は人間にとっての天敵である。その常識が覆されたことにいち早く気づいたアニマの族長シャラミドの決断は早かったと言っていいでしょう」


 待て待て、情報の洪水すぎて理解が追いつかないって。


「レンドウを含め、力を得た人間によって命を奪われかかった民は多かったから……」


「最終的に、シャラミドはアニマの祖である劫火様の庇護を求め、レンドウの言う今の“里”へと向かった。そして、今日この日まで隠れ棲んでいる……という訳です」


「私達“金髪の吸血鬼”は、ルーツの違いのせいで劫火様に受け入れられないから……だから、新天地を探して別れることになったの。そうして、私たちが行きついた先こそが……」


 あらゆる種族を受け入れる、博愛の王。魔王ルヴェリスが治める土地。


「魔国領ベルナタだったって訳か……」


 俺がそう結論付けると、どうやらそれは正解だったらしい。


「二つの種族が手を取り合っていたのは、やっぱり両種族にある共通点が理由だったのかな?」


「ええ。偶然ということで結論は出てるけど、私達とアニマの生態はとてもよく似ているわ」


 レイスが口を挟むと、リバイアも話したい欲が溜まっていたのか、許された雰囲気を感じたかのように、


「ジェノさんはどっちなんですか?」


 と問いを繰り出した。


 どっちとは。


 4人の視線を受けてたじたじになりつつも、彼女は補足する。


「え……あの、ジェノさんの外見って、どっちかって言うとレンドウさん寄りじゃないですか? でも、魔王軍の一員なんですよね……?」


 なるほど、確かにそうだ。いいところに気付いたな。俺ってばさっきから疑問が多すぎて、細かいところまで気が回らなくなってたよ。


「……ええ。私はレンドウと同じで、アニマですよ。ただ、吸血鬼の方に友人が多かったもので。両種族が別れた時、そちらに付いていくことを選んだというだけですよ」


「なんだ、魔王軍にもいっぱい吸血……じゃない、アニマはいるってのか?」


「いえ、私だけですが」


 なんだよ。


「お前だけが奇特な奴だったってことか」


 言うと、ジェノは唇を尖らせる。


「さすが視野の狭い人は言うことが違う。あ、狭いのは心ですか」


「ヴェルゼには護りたい人がいただけよ。優しい子だから」


 そんな彼を擁護(ようご)したのは、フェリスだった。「……本名で呼ぶのはやめてください」「ごめん」


 どうやら、ヴェルゼと呼ばれるのはお嫌いらしい。フェリスを嫌っている訳はないから、推察するなら……本名を関係の浅い奴らに聴かれるのが嫌とか。そんなところだろうか。悪かったな、聴いちまってよ。


「レンドウ」


「…………おう」


 やっぱりだしぬけに呼び捨てにされると、どきっとするな。


 俺の心中を知ってか知らずか。まぁ、知らないんだろうけど。


「今の話の全てを、いきなり信じてもらうのは無理だと思うけど……。よく考えてみて。私達も、信じてもらえるように……精一杯頑張るから」


「ああ……」


 精一杯頑張るって、何をだろ。


「うん、それじゃあ……そろそろ屋根のある所に行きたいかな」フェリスは、日差しを気にするような仕草を見せた。よく見てみれば、結構汗をかいているらしい。「いいかな、レイス?」「あ、うん!」


 レイスとも割と打ち解けているみたいな様子じゃねェか……。


 やっぱり、監視役と監視対象ってなると一緒にいる時間も自ずと多くなるし、距離も縮もうというものか、ちっ。


 あれっ、おかしいな。なんで俺が心の中とは言え、舌打ちする必要があるんだ?


「じゃあレンドウさん、また後で」リバイアも一緒になって、一同は船内へと消えていく。


 ちょ、おい。鮮やかすぎる去り方なんだけど。一人残される俺に対しての何かはないのか、何かは。配慮はさ。ってか誘ってくれないのかよ。どんだけ俺は甲板好きだと思われてるワケ。


 ……はいはい、分かってますよ。長々と大事な話をした後には、少し距離を置くのが大事だってんだろ。ずっと目の前に彼女たちがいたら、確かに考えも纏まらないかもってのは分かるよ。


 ……吸血鬼。彼女こそが真のそれだというならば、自らの体調を慮って日陰に移動したというのも頷ける。そういうことでいいんだよな?


 気になるくらいなら、もっと色々と訊けばよかったのかもそれないが、まぁ生憎相手は具合悪そうだったしな。


 到着まで時間はたっぷりあるんだ。言われた通り、この際考えまくってみるのもいいだろう。


 吸血鬼について。ラ・アニマと呼ばれた自分たちについて。


 ジジイのこと。両親のこと。謎はいっぱいある。考えれば考えるほど、疑問は尽きないだろう。


 それでも、俺は生きているんだから、考え続けるべきなんだ。


 どんなに衝撃の事実が待っていようと。


 アニマがどうとか、吸血鬼じゃないからどうとかじゃなく。


 ――この世界に、レンドウとして生まれたんだから、さ。

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