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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第6章 魔王編 -ほんとの俺は王子様-
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第80話 名前の理由

「結局、バティストとは全然話さなかったけど……これでよかったんかね」


 一日に何度も同じ道を行ったり来たりしてる時って、なんか無駄な事してるんじゃないかって気分になってくるときあるよな。


 だから忘れ物はしたくないんだよな。いや、今日同じ道を何度も通ってるのは忘れ物関係無いけど。


 というわけでアクアストリート。


「ああ、いいっていいって。あいつの性格的に、気に食わなかったら飛びかかってきてたはずだから。軽口叩いてたってことは、レンドウのことを気に入ったってことに(ちげ)ぇねえ」


 誰にともなく放った言葉。それに返答をくれたのは、ダクトだった。


 ……本代家、行ってよかったみたいだな。憑き物が落ちたように、晴れやかな表情をしてやがる。本代組の話は、勿論余人である俺の知るところではないが。


 まぁ、それについてもし訊く機会があれば、だな。


「ノーマル通り越して気に入られるまでいっちまったのかよ。それもなんか怖ェ気もするけどな……」


 しみじみと呟く。んー、なんだ。ロストアンゼルスでも指折りの実力者であろう男とコネクションを持てた……って思っておけばいいのか? 昨日の夜から頑張り漬けだし、それくらいの見返りは妥当なんだろうか。


「ま、フラ姉、元気出せよ。フラ姉の顔、俺は好きだぜ」


 あれ、俺との会話はあれで終わりなのか? ダクトはスタスタと、前方を歩くランスに足並みを揃えた。


 ランスがバティストに「別に綺麗でもない」とかなんとか言われてたアレか。うん、気にする必要ないんじゃね?


「あんなのただの憎まれ口だろうしなァ」


 つーか、フラ姉って凄い呼び名だな。一瞬フラれた姉さんの略かと思った。


「いや、気にしてないよ? 「別に美しくもない普通のフランシスさん」って言われたことなんて、全く」


「一字一句違わず言えてたんじゃねェのか今の!?」


 少なくとも俺は、バティストの語り口がそれだったかどうかは覚えてないぞ。外見を貶める発言があったってことくらいしか。


「うん、合ってたよ」


 レイスが言った。合ってたってさ。……あの……お前の記憶力もさ……。いや信じるけどさァ。


「大分気にしてるな、フラ姉……」


 本代家との溝は、随分深いらしい。


 ……あ、今日深まったのか。



 * * *



 晴天のクソ空。まぁ、それはいつものことだ、我慢もできる。


 見渡す限りの水平線。……嘘、後ろを見ればさっきまで踏みしめてた大陸は見えたわ、まだ。


 緩やかな水面に、時たま跳ねてはすぐに隠れゆく魚影。


 美しい世界の中で、波の音だけを聴いていた……かった。


「うぐ……おぼろろろろろろろろ」


 これだけは我慢ならおぼろろろ。


「レンドウさん、まだ調子悪そうですね……」


「これでも少しはマシになった……方。……やっぱり吸血鬼は流水の上を通るべきじゃない……ん、だ……う、うぐ、おえっ」


 心配して声を掛けてくれたリバイアに掌を向けて「我に構う必要はない」という意思を表明して、手すりに体を預けてぐったり。一応、催した時にもできるだけ船体に嘔吐物を付けない様にするくらいの気配りはできる男なんだぜ。


「いや、もう胃液しか残ってねェけど……」


 まあ、また吐きたくなったら容赦なく吐くさ。それはもう、弱音のごとく。


 なんか自虐ネタが鉄板となりつつあるんだが、俺はプライドとかそこら辺どうしちゃったのか。


「全く、情けないですね」


「こら」


 俺を小馬鹿にしたような生意気な言葉(しかしそれでいて敬語だ)に続いて、それを諫める声。


 海に向かって絶賛ぐったり中の俺の後ろ……後部最上甲板には、床に打ち立てられた長机と椅子がある。自信満々に置いてある……というか生えてるからには、よっぽどのことが無ければ動いたりしないんだろうな。それに、4人の人物が座っている。リバイアも含めてだ。


 リバイアがいるってことは、レイスもいるってことで、二人がいるってことは、つまり。その監視対象がいるってことだ。言うまでも無いと思うが、それはもう俺のことじゃない。


 魔王軍出身の、ジェノとフェリスだ。出身っつーか、現在進行形でそこに所属してる。


「吸血鬼だから、という理由に甘んじていることが、何よりも……」


「仕方がないでしょう。そう教わって育ったんだから」


 弟と姉といった雰囲気を放つ二人だが、言ってることが俺にはさっぱり解らん。色々と問いただしたい気持ちはある。ありまくるんだけど、生憎できるだけ喋らずにいたいんだよな。言葉じゃないものを吐いちゃいそうで。


 ……というわけでレイス、俺の知りたい事全部、お前が代わりに訊いてくれ。


 横目でレイスにアイコンタクトを送る、が、駄目そうだ。伝わらない。


 レイスは机の上で両手を組んで、じっとそれを見つめていた。その顔は、少々青い。


「お前も酔ってんじゃねェか」


「面目ないね……」


 あはは、と笑いながらレイスは机に突っ伏した。


「レイスさんーーーーっ!?」


 と、いう訳で俺とレイスは二人並んで柵にもたれかかることになっている。ここで船体が強く揺れようものなら、俺たちは二人そろって海の中に放り出されちまうかもな。……そんなこと考えたらなんか怖くなってきた。海怖い。怖い物多すぎじゃね、俺。でも柵から離れる訳にもいかないし。や、貿易の国アロンデイテルに着くまでの一夜を、ずっとここで過ごすわけにもいかないけど。


「なんか、なんか無いのか。この絶望的な状況を打開……する何かは…………!?」


「深刻そうに言う……ね。気分的には深刻だけど。命を賭した戦い……。みたいに言ってる、よね。レンドウの、場合……」


「吐くってこと……自体、が……。俺のプライドを深く傷つけるんだよなァ……だからこれ以上は……ッ」


「この(てい)たらくで監視役ですか。自由の身と言っても過言では無さそうだ」


 俺とレイスのやり取りを「つまらないコントだ」とでも言うかのように、ジェノは。勿論、いきなり暴れ出すつもりなど毛頭ないのだろうが。憎まれ口を叩きたい年頃ってことか。そういうのが冗談の通じない(時もある)奴の耳に……アシュリーの耳に入ったら面倒そうだから、我慢できるんならしてくれないかね。


「私、レンドウ君に訊きたいことがあったんだけど……今の状況じゃ難しそうね」


 初対面の時の丁寧口調は何処へやら、段々と柔和な表情を浮かべるようになってきたフェリス。ついでに言うなら、この女を真正面から見ても、平静でいられるようになってきた今日この頃。なんだろう、抗体でもできたんだろうか。


「……俺からも色々とあんたらには尋ねたいことがあるんだけどな」


「へぇ。訊きたいなら……訊けるなら、何でもどうぞ?」


 ん? 今何でもって言った?


 ……女性に対して何でも訊けちゃうような蛮勇、生憎持ち合わせはないけどな。


 ちょっと、体調回復してきたかもしれん。いや、訊きたい欲が苦しみを上回っているだけか。


 首を回して彼女たちの方を見ながら、俺はズバリ、直球でいくことにする。


「初対面の時、フェリスを見てなんか……妙な……うん、変な感じだったんだが、あれってなんか、フェリスの種族が生まれ持った力なのか」


 と、俺が言った瞬間、フェリスはジェノと顔を見合わせた。「やっぱり、そういうこと。レンドウは、あの……」「照れるからやめて……」会話の内容は、相変わらず意味不明だ。


 そういうのを、ちゃんと俺が解る様に説明してくれってカンジなんだけど?


 俺のムスッとした視線に気付いたか、慌てたようにこちらに向き直ったフェリス。


「あ、ちゃんと説明するつもりだったんだけどね。でもごめん、それに答えるより……やっぱり私たちの疑問に先に答えてもらってからの方が、話が早そうだから……ごめん! こっちからレンドウ君に先に質問させて!」


 ええェ……そういうの失礼じゃないかな……。


「……まァいいけど」


 耳を掻きながら、もう好きにしろよ、とばかりに吐き捨てた。


「うん、じゃあ」


 フェリスはそう前置きして、一呼吸おいてから、俺に問うらしい。


「……レンドウ君、初めて自己紹介した時、グロニクル……って名乗ってたよね」


「ああ、そうだったな。何か問題でも?」


 そういや、あの時こいつ、思わせぶりに目を細めてたっけ。まるで、俺の発言の中に、聞き捨てならない部分があったかのように。ただの自己紹介だってのに。


 いや。


 それが彼女にとって、“ただの自己紹介”では済まされない出来事だった。そういうことなのだろう。


「そのグロニクル、っていうのは……どういう意味で名乗っているのかな」


 どういう意味で……名乗る?


 そんなの、うちのジジイへの当てつけというか、俺なりのユーモアというか、自分の種族から逃げ出さずに人間界で暮らす覚悟を決めた証みたいなもんっていうか……。


 待て、そもそも、普通に暮らしていれば、誰もが知る単語ではないはずだぞ。知らぬままに墓石に埋まっていくはずだ。


「……ああ、ジェノか。吸血鬼だもんな。それでグロニクルって称号を知ってるのか」俺がそこまで言った時、ジェノは頷いた。


「でも、なんでだ? ジェノは里にはいなかっただろ。里の外に吸血鬼がいるってのも驚きだが……ん?」言いながら、対面する二人の表情が曇ったことに気付いて、言葉を止める。


「そういうこと、なの……?」


 フェリスの声は、震えていた。


 なんだなんだ、どうした。そう思いつつも、ただならぬ二人の様子に、余計な口を挟むできではないと判断。沈黙を決め込んだ。


「あなたは……………………レンドウなの?」


 ……………………はい?


「あ、ハイ。レンドウですけど」


 うん、分かってる。あんたの言いたいことが、いまいち俺に伝わってないってことは。


 なんだよ「レンドウなの?」って。レンドウ君から敬称が取れちゃっただけじゃねェか。なに、何気にさっきの今で一個壁を取り払ったの? 仲良くなったみたいじゃん。


「――そうじゃなくて!!」


「すびばぜんッ!?」


 語気を荒げたフェリスに、思わず詫びてしまった。


 そして、そのあとに続けられた言葉。


 それにより、俺の混乱は最高潮に達する。


「……あなたは……現グロニクル、シャラミドの孫。ラ・アニマの王子。……レンドウ……なの?」

レンドウ君が王子ですって。HAHAHA、こんなに口が悪いのに?

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