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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第4章 魔王編 -金色の使者-
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第63話 学校にて

 正面玄関より、堂々と学校へ訪問した俺たち。


 玄関に靴置き場なるものは無かった。皆履物はそのまんまなんだな。


 勉強をする場所、と言えば落ち着いた、というか真面目な雰囲気、つまり静かであるというのが俺のイメージだったのだが、


「そうか、今は飯時か」


 どうやら学校は休憩時間らしい。人々の談笑する声が各地から漏れ聞こえてくる。お昼休みというヤツか。


 それじゃあ授業風景は見れなくねェか。貫太に続いて階段を登りながら振り返り、残念だったな……という視線を後ろのイスラに向けるが、彼女は楽しそうだった。


「それならそれでいい。学生たちが仲良く“給食”を食べるところを見れるなら」


 口元でニヤニヤしながらそう言いなすった。ほんとに何でも楽しんじまうんだな。最早逞しいな、その精神性。


「あー、ちょっと違いますね」貫太が言いづらそうに口を開く。


「と?」


 というと? イスラはそう言ったつもりなのだろうか……。一文字で喋られるといまいちその意味を推し量れる自信がないから、せめて四文字くらいは頑張ってくれよ。


 貫太もそう思ったのか、目をパチクリさせた。自分ばっか沢山喋らされてるのに、相手は極少量の文字数でばっかり返答してくるとたまにイラッとするよな。


「結論から言うと、給食は出ないッス。エイリア……アラロマフ・ドールで言う学校ってのは、エクリプスとかサンスタード……つまり先進国のそれとは違うんスよ。都合よく名前だけ借りてきて、本質はそこまで再現できていないというか」


「まァ、なんとなくおかしいとは思ってたな。無統治王国じゃなくなっちまうもんな、後進の育成なんかに力入れてたら」


「いや無統治じゃなくなっても俺は別にいいですけど。むしろ歓迎ッス」ハハ、と貫太は薄く笑った。「言葉を正しく当てはめるなら、先進国で言う≪塾≫に近いですかね、ここは」


 塾、か。


 つまり、だ。


「…………学校とどこがどう違うんだ?」


 一応は考えたけど、お手上げだった。経験がないんだから、しょうがないだろ。そんな顔すんな。


「えーと、国の政策としての教育機関じゃないので、まず第一に……営利目的での運営ってことッスかね」


「お金を払って教えを請うってこと」


「そういうことッス」


 イスラに対して頷く貫太。なんだ、その「ッス」ってのは、同年代の相手に対しても出るもんなのか。


 それかイスラのことを年上と思っているか、だな。いや、マジでこの発育は14じゃありえないって。


「第二に?」


 と続きを促してみるが、貫太はむ、と唸ったきりだんまりになった。


「どうしたよ」


「……いえ、第一に、っていったのが間違いだったかもしれません。第二もあるとは思うんですが、意外とすぐには出てこないもんッスね」


 もう尽きたのかよ! ま、学校と塾のすぐさま思いつくほどの明確な違いなんて、それほど無ェっつうこったな。


 外観から察するに四階建ての建物っぽかったけど、どんどん登ってくな。最上階に用があるのか。当然、貫太が使っている教室に向かってる訳だよな。


「じゃあ、お前らも金払ってる訳だ。授業料ってどんくらい取られてんだ?」


 言うと、貫太は足を止めて、慌てた様子で周囲を見渡した。そして、ほっと一息つく。


「ちょっとレンドウさん! あんまりそういうことでかい声で言わないでくれません? 誰かに聴かれたら俺の立場が……」


 取られるって言い方が悪いってことか?


「あ、ああ、悪ィ」


「いや、まあいいんスけど……」いいのかよ。そこで貫太は俺に近寄ってきて、内緒話の構え。イスラもそれが気になるのか、俺たちは三人で円を組む形になった。


「……ヴァリアーの隊員である俺、(まもる)真衣(まい)、それに鎌谷(かまたに)は特別に学費を免除されているんです。学校側とヴァリアーとで契約があるらしくて」


「うわぁ……癒着かよ」


 あと誰だよカマタニ。


「よくある話」


 俺たちの反応には何も言わず、目を閉じて貫太は続ける。


「言ってしまえば、俺たちはここで学ばせて頂いている対価として、ここを警備している……みたいな?」


「なるほどな」


 エイリアの住民はヴァリアーに近づいてきて、守られたがっている。それの延長線上なワケだな? 学校側はヴァリアーを内側に引き入れて、能動的に守られにかかってると。なら、相当に安全な場所だと言えるのか。


 でもまァ、いかにヴァリアーの隊員と言えどもこいつら子供なんだよなァ……。


 ああいや、分かってるさ、子供だからって舐めてかかっちゃヤベェってことは。下手すると腕斬られちゃうからな。コワイコドモにな……。


 そんなことを考えていると、貫太がある教室を指さした。「あ、ここです。ここでした」


 ほーん。着いてたのかよ。教室のドアにある窓から、中の様子を覗いてみる。中では10人ほどの子供たちがワイワイ談笑しながら昼飯を食ってる。


 一番に思ったことは、人数多くね? ってことだな。だって、建物も四階建てだってのに、一つのクラスに10人もいるなんて。いや、これで全員とも限らないんだよな。凄まじいな。どっから子供沸いてきてんだよ。……ご家庭からか。


「はぁ、凄い……」


 イスラが陶然と呟いたのが聴こえた。


 なんていうかこいつ、人を惹きつける何かがあるな。


 ガキの癖にあんまり艶っぽい声出してんじゃねェぞ……と思ったけど、わざわざそれをこの場で言うのも(はばか)られるな。


 それに貫太がギョッとしたように目を剥いた気がしたので、やっぱりここは人生の先輩として釘でも刺しておくべきか……と思っていると。


「あ、貫太!」「やっと来たの?」


 教室の中より、貫太を呼ぶ声があった。


 出たな、ポピュラーお子様三人衆の残り二人、神明守(じんめいまもる)真衣(まい)


 ……あれ、真衣のもう一個の名前ってなんだっけ。あの、家系を証明するのに使われる、前半に着くやつ……貫太の場合で言う宝竜(ほうりゅう)にあたるやつ。真衣のそれも忘れたし、その言葉自体も忘れた。あんまり馴染みがないからさ。


 ナエジ……では絶対に無いってことだけは分かるんだけど。



 * * *



 もじゃもじゃしたボリューミーな髪が特徴的な守と、部屋の中だというのにフードを被りっぱなしの、見るからにコミュ障な様子の真衣。フードの隙間から見える範囲で判断するなら、今日はおさげなのかな。重度の人見知りらしいが、貫太と守が隣にいれば多少マシになるようだ。


 その二人を加えた面子で、イスラは楽しそうに会話している。今日出会ったばかりの人物ではあるけど、まぁ悪い奴じゃないってのは分かったし、願わくば幸せになって欲しいが。……いや、俺が幸せにしてやるとかではなく。


 でも、難しいだろうな。貴族家に生まれたって事実は、本人の意思を軽く無視しちまうもんだ。出自は選べない。それは俺もよく知っていることだ。


 こうして学校を見学して、膨らむだけ膨らんだ夢が弾けて消えた時、辛くなければいいけど……。


「――へぇ、ではレンドウ君は、貫太君達の兄貴分ということですね」


 だが、どうしてこうなった?


 何故俺は今、あいつらの教師と会話を強いられているんだ。いや、強いられては無いかもしれないけど、無視するのも忍びないから返事せざるを得ないだろ? ……それを強いられているって言うんだよな。


 教卓の隣に引っ張ってきてもらった椅子に座って、子供たちを眺める。そんな俺の隣で、腰を曲げて教卓に肘を乗せ、頬杖をついている格好になったその人。


 薄く緑がかった暗めの髪。高い鼻に、丸メガネが温和な印象を与える。長身痩躯のおっさんは、イトーと名乗った。多分、イトーはカン字なんだろうけど、紙に書いてもらわないと頭ン中には浮かばねェわ。俺、カン字からっきしだし。そういう意味では、教育機関にお世話になりたいってェのは本当なんだよな。


「兄貴分、って言っていいほど信頼を勝ち得てるかは分かんねェっす。でもま、そうでありたいとは思うかな……」


「充分、信頼されていると思いますよ」


 イトーはニコニコしながら言う。


「皆の様子を見ていれば、私には解ります」


 日ごろ沢山の子供たちを見てるプロがそう言うなら、ま、そういうことだと誇ってもいいのかもな。


 その時、ケイタイに何か連絡が来たのか。貫太が顔をこちらに向けた。


「レンドウさん」


「おう」


「皆さん、もう外に到着されてるみたいです」


「お、おう……」


 そうして、とうとう断罪の時(そのとき)が来てしまったらしい。


 …………げんなり、だ。

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