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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第3章 吸血鬼登場編 -こんな日々が続くと思っていた-
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第56話 苦悩する者たち

 エレベーターとかいうやつは、安全性がどうとかのたまって、とにかくまぁゆっくりと動作しやがる。そういうもんらしい。


 これも人間界に来て初めて実物を見たもののひとつだが、なんともはや、よくもこんなものを創ってくれやがったって感じだ。いや、素直に凄ェと思うよ。


 その遅さに多少イライラしつつ、俺は階数表示を見守る。


 一階に到着するや否や、エレベーターの扉が開くのを手伝うように押し開け(壊れそうだ)、俺は廊下へと飛び出した。


 ――ええっと。そうだ、ヴァリアー正門! ……で、いいんだよな?


 一瞬、「あれ、こっそり逃げるなら正門じゃなくて裏口からか?」と思ったが、件の裏口は現在、隊員たちのヘイトを相当溜めているだろうし、警備が厳重になっていない訳がない。むしろ正門から堂々と出ていくべきだろう。


 だからと言って、正門の守りが手薄な訳もないだろうが……。


 そう悩む時間は必要なかった。ヴァリアー本館の正面玄関を出たところで、特徴的な紫ウェーブとピンクヘアーを見つけた。どうして足を止めちまったんだ? 答えは簡単だ。二人の向かいに、人が二人立っている。


 その片方は……くそっ、ピーアじゃねえか。見つかった。鉢合わせだ。


 ヒガサも同じ気持ちだったのか、隣に立つと少し緊張した面持ちをしていた。ミンクスはそれよりも、ピーアが連れてきたもう一人の人物に驚いているようだった。


「ダクト……」


 震えた声で、そう呟くミンクス。


 太陽が山々へと沈み込み、玄関上の黄色い照明に照らされた相手の表情は……少なくとも、彼女を責めるものではなかった。


「状況はピーアから聞いた」


 本代ダクトはそう言うと、頭を下げた。少し後ろにいる門番たちに配慮したのか、決して大きな声ではなかったものの、強い決意を感じさせる声色で、彼は続ける。


「……悩んでることに気付けなくて、ごめんな」


 ミンクスはと言えば、ダクトがいつも通り(多分いつも通りなんじゃないの?)の様子でいることに驚いたようだった。


 それでも……親しい間柄だったのだろう、彼が見せる表情が憤怒の感情でないことに、安堵したようでもあった。


「ううん……ぼくがしたことは、許されることじゃないから……」


 ミンクスは、太陽が消え、オレンジ色の残滓を引く空を見上げて。


「ぼく、裏切者になっちゃった……」


 ダクトはそれに対し、そうだとも違うとも言わなかった。彼女の罪を赦したいわけでもないし、そして糾弾したいわけでもない。その報いは、これからの彼女の運命に任せたい。そんな風に見えた。なまじ親しいダクトには、きっと公平な判断が下せないだろうから。


 だからこそ彼は開き直って、最後まで独善的に、献身的でいることにしたのだろうか。


 二人の会話は、それだけだった。


「――うん、ムリだわ」


 ダクトは何かを決意した顔で、ミンクスではなく……隣のピーアに顔を向ける。


「俺、こいつらを捕まえない」


 ピーアが驚愕を張り付けてダクトを見る。


 成り行きを見守っていたヒガサもまた、「えっ」と声を漏らした。


「捕まえたくねぇ」


 ダクトは続ける。


「俺ぁヴァリアーの隊員だけど、ヴァリアーの奴隷じゃねぇし。いざとなれば全部捨てて、自分のために行動する」


 おい、そんなこと言っていいのか?


 ……いいのか。


 こいつには、実力がある。でかい口を叩けるだけの実力が。ヴァリアーも、こいつがどれだけ調子に乗ろうが、そう簡単に上から押さえつけることはないだろう。


「……どうするの、ピーア」


 数の利を得たところで、ヒガサがピーアに向けて問いかける。


 ダクト、ヒガサ、ミンクス、あと俺。このマルチな面子を相手に、片やピーアはシングルプレイ。それでも捕縛に挑戦するのか? そう訊いているのだ。


 震える唇で、縋るように皆を……いや、ヒガサを見ながら、ピーアは口を開く。


「私は……」

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