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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第3章 吸血鬼登場編 -こんな日々が続くと思っていた-
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第53話 結末

「クソ馬鹿野郎がぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁっっっ!!!!!」


 その叫びに。


 ――永遠の眠りに入るところだった俺の瞼が、今一度持ち上がった。


 それほどまでに、無視できない絶叫だった。


 こんな叫ぶ奴、知り合いにいたっけ……?


 と思いながら見上げれば、閉じようとする巨大蛇の口を、つっかえ棒となって必死に抑えるアルフレートがいた。メガネはどこへ吹き飛んだか、かけていない。伸ばしていただろう髪は、蛇の消化液に触れたせいか、ごっそり削れている。


「なっ……アっ……ル、え……?」


 なんで、こいつが。俺の窮地を助けてる。


 慌てて起き上がろうとするが、妙に粘り気のある口内では体勢を整えるのが難しすぎる。


「なんか出せェェェェ!! レンドウッッッ!!」


「わ……かった……!!」


 どやされるがままに、慌てて緋翼を展開する。


 生きたい、という願望を失い消えかけたようだった力だが、不思議と際限なく沸いてくる。いや、これは異常と言ってもいい。


 死に瀕した状態のハズなのに……下手したら、いつも以上の勢いだ。それはたちまち蛇の口内を満たし、入りきらなかった分は外へ、そして蛇の体の奥へと侵入していく。


 ――ジャリルルルル!!


 二度と耳にしたいと思えない不快な音――巨大蛇の鳴き声だろうか――が聴こえたと思ったら、その時にはもう、俺の体は宙に投げ出されていた。途端に、背中より噴出する緋翼が唐突に途絶えた。


 なんだったんだ、一体。そう思う暇もなく、地面に横向きに叩き付けられて、半回転したのか。うつぶせで、泥だらけになりながら、遠くに同じように吹き飛ばされたアルフレートを見る。


 ……感謝、しないとな。


 ――ジルルル! ジャルルルル!!


 奇怪な叫び声を上げながらのたうち回っていた巨大蛇。それはひとしきり消化液と緋翼を周囲に嘔吐するように暴れた後、一心不乱に地面を掘り始めた。


「なんだ……?」


 何をするつもりだ。手足も無しに器用に地面に潜り込んでいく巨体を見ていると、薄ら寒いものがある。


 ――地面の下から攻撃されたら、ひとたまりもない。


「クソッ」


 遠くでアルフレートが毒づくのが聞こえた。


 最悪の事態ばかり想定していた俺たちだったが、次第にその揺れは収まっていった。


 …………え?


 いつまでも、衝撃はやってこない。そのこと事態が、衝撃と言えば衝撃か。


「逃げた……のか…………?」


 ふらつく体に発破をかけ、起き上がる。すると、背後で亡霊のようなうめき声が響いた。


 振り返ると、俺と同じように満身創痍といった様子の黒髪のガキがいた。その身体には僅かに立ち上る、黒い炎。


 吸血鬼だ。


「グローツラング……なんで……」


 茫然自失と言った体のそいつに、背後から組みかかった人間がいた。本代ダクトだ。「召喚士はこいつだ! レイス、やれ!!」


「何を……やめっ!?」


 吸血鬼が抵抗するも、ダクトの拘束は固い。動きを止められた吸血鬼に止めの一撃を加えたのは、やっぱりあいつだった。


 白い輝きを放つ拳が、吸血鬼の鳩尾に吸い込まれた。途端、その身体を包んでいた緋翼は跡形もなく消え去り、また意識も失ったようで、吸血鬼はそこに倒れ伏す。


「やった……!?」


 レイスが喜びに舞いかけるが、「まだだレイス!」ダクトが素早く注意を促す。そうだよ、古今東西の物語で、やったかは禁句だろ。


「そ、そうだ!」


 そう、我に返ったようにレイスが再び駆け出す。その方向にいるのは……え、俺ェ?


「ま、待て……俺は正気にもどった……戻ってるから……」


 レイスの丸い目が、驚愕に見開かれる。かといってその走る勢いに減退は見られず、そのまま俺の懐に飛び込んだ。


「がふッ!」


「レンドウ!よかった!!」


 ――今の俺には、そのスキンシップも普通に痛い。受け止められねェよ。あと男の抱きつきとかノーサンキューなんだよ……。


 弛緩しかけた空気を、再びのダクトの叫びが正す。


「違うそうじゃねぇ! ……レンドウ避けろ!!」


 切羽詰まった声だった。だが、俺はどうにもそれに対応できそうにない。体が鉛のように重い。それを救ったのは、レイスだった。俺の体を、勢いよく前に、つまりレイスから見て後ろに引っ張った。


 レイスを押し倒す格好になった俺は、何らかの背後からの攻撃を回避することに成功したのか。それを確かめるべく、倒れるように横に寝返りを打って、全力で首を持ち上げる。


 いや、解ってはいたんだ。


 忘れていた。戦場には、まだあいつがいた。


 俺がいた位置を切り裂くように突き出された、針と化した左手。あ、あれに後頭部をグシャッとやられるところだったのか……。怖すぎる。


 ――カニ野郎。抜群の戦闘センスと才能を持ち合わせた、強敵だ。


 だが、それでも。ここにはヴァリアーの精鋭たちがいるんだぜ……?


 いや、この考え方は他力本願がすぎるかもしれないが。


 本代ダクトだけでカニ野郎と十二分に張り合えるだろうし。それにまだ……ゴキブリ生命力のレイス、ネチネチ抜刀術のアドラス、多分強いよヒガサお姉さん、……あと4番隊だっけ? 大生とか平等院とか、その他大勢もいるんだぞ。


 最後に残ったのはお前一人だけみたいじゃないか。この状況で、どうしようってんだ?


 視界の隅で、ダクトが特攻しようというのか、足に力を込めるのが見えた。


 ――果たして、カニ野郎は。


 伸ばした左手を引っ込め、鋭い目つきで周囲を観察すると、突如として跳躍。


 その場にいた殆どの人間が、思わずぽかんと口を開けた。それほどの跳躍だった。何かを爆発させて、それを推進力に変えたのではないかと疑いたくなるほどに。一つ、二つと跳躍を重ねて、カニ野郎はヴァリアーの外壁に到達する。


 その頃には、大勢が決したと分かって顔を出し始めた隊員たちも「あいつ、逃げるぞ!」「追え!」などと叫んでいたが、俺に言わせれば、なんつー無責任な発言だオイ、ってカンジだ。


 もう、終わりでいいだろ。戦いなんて。


 敵さんが逃げてくれるっていうなら、それが一番だ。


 躊躇なく外壁を乗り越えるかと思いきや、壁の頂点でカニ野郎はこちらを一瞥する。


 その視線が誰に向いていたのかなんて、答え合わせでもしなければわからないだろうけど……。こんなことを考えるのも、自意識過剰かもしれないけど……。


 俺を睨んでいる。そうかもしれないと思うと、たちまちそれは“そうに違いない”へと変貌する。


 でも、きっと、それは僅か1秒にも満たない間だった。


 俺の心に何かこびりつくような感情を残しつつも、いつの間にかカニ野郎は姿を消していた。向こう側に飛び降りたのか。


 それを見届けると、限界がきたのか。


 首すら持ち上げていられなって、空を見上げることしかできなくなる。


 暑い。


 さっきまでの曇天が嘘のようだ。雲はすでに去り始めていて、ぎらつく太陽のお出ましだ。瞼を閉じて、右腕をなんとか顔の上に乗せる。そうして、力尽きた。もうこれ以上、動けそうもない。


「レンドウ……大丈夫!?」


 薄れていく意識の中、こいつはほんっとうるさいな、なんて……思ったり……。

pixiv版ではここで第3話が終わっていたのですが、第4話はこの直後から始まるので、なろうではこのまま第3章として続けます。

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