断章 ◇黄金の言葉◇
さて、どうしたものか。
現在、アラロマフ・ドールを未曽有の大事件が襲おうとしている。
それは、既に多数の死者を出していそうなものだが、そこはさすがと言うべきか、“よく訓練された”我が国民たちよ。自らの命を守り、汚くとも生き抜くことに関しては他者の追随を許さない。
そのおかげで無駄な犠牲を出すことなく、戦いたい者と戦うべき者のみが衝突する構図を作ることができる。
それにしても……上を歩く不穏な者どもの動きを、この私が察知できないはずはないのだが。
何故、こうも無策に現れた?
――耄碌したか、“無形”のルヴェリスよ。
盤上の駒を弄ぶかのように自らの命すら投げ出して見せた、あの無謀と努力の王。人間の干渉を許さぬ、絶対の大地とも言える≪暗黒大陸≫を統べて尚、新たな領土を欲するか。
それが、どうにも解せない。この小さき島にまで手を出さんとする欲望が、奴にあっただろうか。
若き頃ですら思慮深いと評された彼の王が、今になって生き方を変えるとは考えづらい。
――だとすれば。
手勢を御しきれなくなったか。
かの王の痩せ細った指の隙間から、駒だった筈のものが零れだしている。
それは自ら意思を持ち、あるいは主の意思を曲解し、刃となってこの日、私の国を焼き尽くそうとしているのだろうか。
――まぁ、そう悪い時期でもない。我が手勢の力を確かめ、ふるいに掛けるには丁度いい試練だろう。
それに……。
“劫火”からの借りもののようなものとはいえ、鋭い牙を隠しもせぬ黄昏れの種族。
その王子が、こちらにはいるのだ……。
謎の「断章」もこれで4度目となりますが、今回の“黄金”はなんだか性格が悪そうですね。……いや、別に作者としては嫌いじゃないですけど。
読者の方々にはこの「断章」が何を意味しているのか、そして一体誰がラスボスになるのか、ふんわりと考えつつ読み進めて貰えると嬉しいです。ぴたりと的中させるのは難しいと思いますけどね!