第36話 茜空に乾杯
空が茜色に染まる頃、俺とヒガサはエイリアを散策し尽し、なんとなく帰路についているつもりで歩いていたのだが、道の途中で見つけたものに、姉さんの目が留まっていることに気付いた。
なので、そちらへと進路をとってみる。
「なるほど、最後は酒場と洒落込もうとは……中々挑戦するね、レンドウ君」からかうような声。
「だからそんなんじゃないって……」
――どうしてこうなったのかと言うと、だ。
何をする気もなく、ただ惰眠を貪っていただけの俺を催し物に連れ出してくれたヒガサに、これでも感謝してるっていうか、あの後、一緒にお出かけしませんかとお誘いした訳だ。
快諾してくれたのはいいんだけど、周りの「ほうへえふーん」みたいな目が気になった。いや、確かに連れ出してくれたのは皆なんだけどさ、なんでヒガサだけ遊びに誘うのかなとか、デ、デートしたいだけなんじゃないのとか言われるのは心外なんだぜ?
やっぱり監視役だしさ。いつもありがとうございますっていうか……ん? 監視してくれてありがとう? それどこの変態だよ。そうじゃない、お仕事ご苦労様です? 守ってくれてありがとう? そんな感じだ。監視役がいてくれなければ、俺はただ周囲から恐れられるだけの人になるからな。
そういう理由づけだと今度レイスさんにもお礼しないとですね、と言って笑ったリバイアの声が頭をよぎった。うーん、もう一緒にいる時間の長さではなく、単純にレイスよりヒガサに感謝したい気分、ってのじゃダメか。ダメなんだろうな。
でも、なんていうのかな。そういう理由で俺が姉さんと一緒に行動したがってるって思われたくないな。なんとなく。
というか、大前提として、彼女は人間だ。対して俺は吸血鬼。ね、違うでしょ?違うんだよ、明確に。だからデートだとか、そういうことにはなりません。ぴしゃり。
エイリアの酒場は、酒場と言えども、俺が物語で触れて期待していたようなもんじゃない。野外に柱を突っ立てて屋根を被せた空間に、テーブルと椅子を並べただけだ。その間を給仕の人間が走り回っている。
まぁ、うん、ヴァリアーが異常なのだ。この国の中で――貴族連中はどうだか知らないが――ヴァリアーという石の建物の中だけ、生活水準が数段高いのだ。一度門を出れば、そこは井戸から水を汲み上げ、藁を掛けて眠ることを余儀なくされるような貧しい世界。
逆に、ヴァリアーの人間ってことが露見しても石を投げつけられたりしないのが意外まである。この辺りで発生したいざこざを解決していることが、民衆からの信頼獲得に繋がっているということか。そもそも、ここの住人どもは俺たちに護ってほしくて住んでるんだっけ。
酒場は大変繁盛している様子で、どの客からも離れた場所でゆったり、という訳にはいかないようだ。まぁ、この辺りに来るのは2回目だから、何も知らない小僧ってほどでもないんだけどさ。
「ここでいい?」と確認を取ってから、テーブルに腰掛ける。相席にはならなかった。勿論、これから新しい客が場所に困って座りに来る可能性はある。後ろのやつが結構椅子を引いてるから、ぶつかりそうなのが心配だ。
俺たちの所に注文を取りに来たのは亜人の青年だった。ちらりと覘いている首元まで、僅かだが身体の表面にうろこ状の模様が見える。彼が人間社会に適応するために、ヴァリアーに払った対価はなんだろう。ついそんなことを考えてしまう。
向かいに座ったヒガサは意外……でもないか。慣れた様子で「エールで」と注文する。
俺はと言えば、まず何が注文できるのか分からない。どこにも書いてないし。これってメニュー店員に訊けってこと?
以前来たときは、俺のせいでもたつくのが嫌で、一つ前に注文してた未成年に続くように同じものを注文したのだが。仕方ない、今回も新しいものは諦めて、あれを頼もう……って果たしてあれはなんて名前だったか。
「ジンジャー? を一つ?」
一つ、にまで疑問符を付けてしまった。
「それと、適当にサラダと肉料理も」
テキトーなの? 俺がしっかりと注文できたのか心配していると、ヒガサが追加で料理を頼む。がっつりここで夕食摂るつもりなのですね。
かしこまりました、と頭を下げる給仕に、「あ、俺、未成年です」
……なんで自己紹介してんだよ俺は。もっとうまく言いたいこと言えねェのかよ、と自分の頭を叩きたくなるが、
「はい。ジンジャーでしたら安心してお飲みいただけますよ」とにっこりと返される。はぁ、人間ができてるなぁー。人間じゃないのに。思わずペコリと頭を下げてしまう。
それは人間社会で働くようになって身に付いたものですか。そう訊きたくなる。彼にも上手く笑えない時代があったのだろうか、なんて。給仕のお兄さんは、腕をすっぽりと――肘まで――包む手袋をしている。それを見て、やっぱ工夫というか、努力してるんだな、と思う。
大方、その手袋の下には“普通の”人間が見たら引いてしまうような肌があるのだろう。周りのため、そして何より自分のため、彼はそれを隠すことを選んだ。
なら、俺が人間社会で生きていくために切り捨てたもの、そしてこれから切り捨てなければならないものは何だろう。それはただ単に髪の毛を染めたからハイもういいね、みたいに自分の心境のみで片付けられる問題じゃないだろう。俺は“周りが求めるレンドウ”になる必要がある。
ぼーっと考え事をしながら、給仕のお兄さんが去っていくのを見つめていた。彼は飲み場(それ意外に表現が思いつかない)を離れ、傍らにある民家に入っていく。特に看板もない、普通の木製の家に見えるが、それは当然だろう。別に来客を招くための場所ではないのだ。この酒場の人たちはあの中で料理を作っているんだ。
「……なに考えてたの?」
「え?」
虚ろだったかもしれない視線を真っ直ぐ前へ向けると、頬杖をついたヒガサと視線がぶつかる。速攻で視線の交錯を終わらせると(ありていに言うと負けた)、今考えていたことを言うべきかどうか考える。
うーむ、弱みを見せたい訳じゃないんだけど。
でも、躍起になって隠し通そうとするのも逆に子供っぽいっつゥか。
たぶん、単純に思ってることを聞いてほしかっただけだ。口を開けば、言葉はとつとつと、だが沈黙を生むことはせず、時間は優しく小川のように流れ出した。
* * *
「……で、最近気になってることは他にはないのかい。ほれほれ」
「ヒガサ、飲み過ぎじゃね?」それは最近というより、今この瞬間気になってることだ。
あんたさっきから何なんだ。めっちゃ絡んでくるね。これが俗にいう絡み酒というやつか。赤みが差してきた頬を隠すように、テーブルに両肘をついて顔を支えるヒガサ。乙女か。酒が入ると乙女化するのか。ねえ乙女って何歳から何歳までのことを指すのん?
「私だってね、飲みたくなることくらいあるよーっ」
だだをこねる子供の様になった姉さんに萌えそうになる衝動を抑え込むのが大変だ。
――いや、そうじゃない、そういうのじゃない……。
気持ちを切り替えるように、この際だから気になってたことをぶちまけていく。
「えーと、じゃあ。ヒガサ、そういえば何歳なんだ?」
尋ねると、「ああ、これのせいか」とばかりに彼女は自身の前に置かれたグラスを見やる。形は微妙に歪んではいるが、人の手で生産されてる感がいいね。
「去年、成人したんだ。滅多に酒場なんてこないから、たまにはね……」そう言って、ヒガサはグラスを手に取って傾け、ちょびっと口に含む。何度となく追加で注文された飲み物だが、こいつは生ビールとかいうものだ。生ビールの生ってなに? 普通のビールは何をしたせいで生じゃなくなったんだよ。
……なんというか、自然に年齢聞き出せたなァ。女性に年齢を訊くのは失礼、とかいう話もあるけど。いや、正直今この瞬間まで忘れていた。相手の気分を害する可能性があったんだな。
ヒガサはふっと笑んで、「にがっ」と呟いた。
「旨くないのかよ」がくっと肩を落とす。一応、成人するのを楽しみにしてるところあるんだけど? こんな俺でも。
そんな俺を意外そうな目で見る。
「レンドウ君は飲んだことないの?」
少しも? ほんとに? そう言いたげだ。ガキのうちに飲んだことが無いってのは、なんか悪いことなのかよ?
「ないな」
「意外、でもないか。良い子だもんねー」
ヒガサの手が俺の頭に伸びてくるので、それをゆるく振り払って返答する。
「茶化さないでくれよ、てか、そういうあんたは子供の頃から飲みまくってたクチか」
「まくってたっ。……コホン。そんなことはないぞ少年」
嘘つけ。途中から真面目モードに切り替えても遅いわ。いや、全然真面目じゃないな。なんだその師匠口調。
「昔から、旨いとも感じないものを喜び勇んで飲んでたってワケだ。悪いことしたがり的な?」
反撃のつもりでそう言ってみると、ヒガサは「もう……」とか言って突っ伏して顔を隠した。拗ねたのか。まだ最初の反撃なんだけど。可愛いなあんた。いや嘘。
沈黙――いや、酒に溺れたという意味も込めてここは沈殿――するヒガサをどうしたものかと考え、しばらく放っておくことにして、あたりを見渡す。
酒場は緩やかに賑やかだ。様々な職種、様々な人種が入り乱れて、まぁたまにはちょっぴり剣呑な雰囲気にはなりつつも、各々それをアルコールで流し込んでいる。
二つほど離れたテーブルで、カードを手に携えた集団。遊んでいるのか。それとも、賭け事か? 奴らにとっては、どちらもそう変わらないのか。負けたら破産するって雰囲気でもないし。というか負けたら破産するような状態でゲームする余裕の有るやつなんていないか。働けってかんじだよな。
俺と似た緑色のコート(そいつのには襟や手元にもさもさの毛がついているが)を着た、後ろで束ねた金髪の男がボロ勝ちしているらしい。「はっはー!」という笑い声が届いてきた。アゲアゲだな。というか、今日は俺も髪を括ってるし、あの男と外見被ってるなァ……。
幸い全く同じでは無かったが、自分とそっくりな服を着てる奴がいると結構気まずいよな。
線の細いそいつが、荒くれ者と言った風情の大男たちを手玉に取っているような雰囲気があって、見ていて痛快だった。それはそうと、大男がちんまいカードをつまんでいる姿ってなんか不格好と言うか、微笑ましいな? 絡まれたら嫌だから、あんまりガンつけてらんないけど。まぁ、向こうはこっちに露ほども興味が無さそうだから大丈夫か。
他にも、おまえ金ないの? と言いたくなるほど布面積の少ない身軽そうな女が注目を集めていたり、背後の男は同僚に愚痴ってたり、多種多様な人間の有り方が見られて、誰のための外出だったっけと言いたくはなるが、俺は一人でも楽しめていた。
「……んん…………いいんだ…………多分、舌に合わないのは今もだって気づいてたし……」
だから、ヒガサの腕の中より漏れ出た声を結構聞き漏らした。お前、いつから喋ってた?
それが果たして俺に向けたものであるのかは定かではないが、周りの知らない奴らの雑談より、目の前のこの人の話を優先して聴きたい。
「……ただ、浸りたかったというか……………………隠れて味見してたのを……ぅうん…………兄さんを、……………………思い出す…………」
「……へー、兄貴がいるのか」初耳だな。
以前、デルよりやってきた少女に向かって、どこ出身だと言っていただろうか。なんちゃら国。
――ああそうだ、確か、なんちゃらーど帝国! ……帝国は絶対合ってる、はず。
待てよ? その時、もしかして年齢も公開してたような。そんな気がしてきたぞ……。俺が忘れてただけか。じゃあ、さっきの質問は「レンドウ君、前にもちゃんと言ったのに私の情報忘れてる。私のことなんか本当はどうでもいいのね……?」と思われる可能性を作っただけってことかよ。
ちっ、自殺点じゃないか。あと妄想の中とはいえ、後半は絶対言わないだろ。はぁ。
すると、急にヒガサががばっと起き上がる。うおっ。その勢いに、思わず俺は身を引いてしまう。
「あれ……? 私、今兄さんとか言っちゃってた?」
後ろ頭を掻きながら、少し慌てたようにヒガサは言った。
「言ってたな。兄さんを思い出すわ~……みたいなの」
しまったな、とバツが悪そうな表情になって、「まじですか。うーん、今のは聴かなかったことにして欲しいかな」と言った。特にいじめたい訳でもない俺は、黙って頷く。まぁ、気にはなってるよ? というか、そんな言い方されたらいまからでも気になるよ? 相手を手玉に取る話術100選とかいう本でも読んでんのかよ。美人局でしょうか。いや、多分、彼女は無意識だ。というか俺が他人のこと気になり過ぎなだけだ。
「うーん」と失敗を悔やむように唸ってから、ヒガサは「レンドウ君は兄弟っている? あ、いや、家族。家族構成は?」と訊いてきた。結局家族の話かよ。自分の兄貴について触れられるのが嫌なら、もっと別の話題を振ればいいのに、逃げる気あんのかよ? みたいな。
「兄貴分ならいるけど」脳裏に浮かぶは、妬ましいほどに余裕の表情のゲイル。あいつもそろそろ、人間と交渉して血を分けてもらったりして、それを『獲物狩ってきたぜ』なんて笑顔で嘘をついて里の子供たちに与える仕事に就くのかなァ。
きっとあいつなら、上手く折り合いつけてやっていくんだろうなァ。
「親御さんは?」
「両親ともに、国中を飛び回ってなんか仕事してるっぽい」
俺のその問いに違和感を感じたのか、ヒガサが踏み入ってくる。
「……もしかして、ご両親と仲良くない?」
そういうあんたはどうなんだ。と思いつつ、ジンジャーをあおった。グラスを置いて、「いや。ただ、あんまり思い入れが無いって言うか」と言うと、ますます怪訝な表情をされた。
「俺、記憶喪失でさ。10歳になる前のことがすっぽり抜け落ちてて」
ぬるっと人生のターニングポイントを告白すると、ヒガサはを丸くして、しかし納得したように深く頷いた。
「そうか……それであの人はああ言ってたのね……」なんて思わせぶりなことを言いながら、うんうんと一人で納得する。
「いや、何のことだよ」
「ああ、七全議会の話だから」
だからあんまり話せないや、とばかりにひらひらと手を振って見せるヒガサ。
……いやいやいやいや。
「七全議会ってワード自体、あんまりほいほい口に出しちゃダメなんじゃ。予想はできてたけどさ」
なんとなく、ヒガサがそこの一員だろうというあたりはついていた。七全議会。ヴァリアーの最高意思決定機関と称される、七人の幹部による集まり。ヒガサの高貴なイメージにも、幹部と言う表現はぴったりだ。ぴったりだが、それを匂わせているだけの段階と、明確に肯定した状態では、大きく違ってくるのではないだろうか?
「……………………これは禁酒不可避だ」
しまったという顔になったヒガサは、泣き崩れるように突っ伏した。グラスは抱いたまま。
――はいはい、思い出の味なのね、結構いけるクチなのね! いいじゃんもう、呼んでくれれば俺が毎回付いていってやるよ! 未成年でもよければ!
酔っぱらうととことんポンコツになるんだな、ヒガサ。
年上の女性によって謎の庇護欲をそそられていると、あることに気付く。
そういえば、俺たちの関係性って……なんなんだろう。監視役と監視対象。いや、それじゃ淡白だ、というか別のベクトルの話になっちまう。
そうじゃなくて、俺は友達が欲しいんだ。しかし思えばいつも、俺が人間社会の有り方について質問するばかりだ。そんなの、一生先輩後輩のままでしかないだろう。いや、俺の場合それよりひどい。何故なら、部外者だからだ。人種も違う、能力も違う俺は、いわば接待されているような立場なワケで。
変えたい、と思った。一歩、踏み出してみたいと。
「ヒガサ」
「うん」
呼びかけると、もぞっと体を起こす彼女の返事は、もう随分と明瞭だ。
重なった失言により、頭が冷えたのか? 可哀そうに。
「今度はそっちから、どんどん質問してくれていいぜ」
話を反らすための方便とか、建前じゃなく。俺のことをもっと知ってほしい。
「家族に限んなくてもさ、里のあり方でもいいし、俺たちの人生観でしか語れないこともあるかもしれないし、さ」
「なるほど、ふむ……」
優しいヒガサお姉さんは、俺が応えやすい質問を探すように、腕を組んで熟考し始めた。……俺に興味が無さ過ぎて質問が浮かばない訳じゃないよね? だったらわんわん泣こうと思うけど?
七全議会。ヴァリアー幹部のお姉さん。コードネームは≪ヒガサ≫。その名の通り、お手製の日傘をいつも手放さず、高貴な雰囲気のある黒い衣装に身を包む。
女性にしては背が高く、ウェーブがかった紫色の長い髪は今日に限っては降ろされている。ふんわり香るフローラルな香りは、酒場に漂う多種多様な匂いに飲まれて全く感じられないが。
腕力はさほどではないが、結構戦える人物だと俺は睨んでいる。何を武器に戦うのかは気になるところだが、懐に刃を忍ばせているとかだろう。
どれ程かは分からないが、どうやら思い出す必要がある程離れたところに兄を持つことを、ついさっき知った。
俺が知る相手の情報がこんなものなのだ。きっと、相手の中の俺はもっとちっぽけで、断片的で、謎の吸血鬼。
――だから、もっと知ってほしい。そう思ったんだ
「――人間をやっちまったことはあるのか」
……そう思ったのに、俺に対する質問は別の方向からやってきた。
俺に向けての発言だと理解するのに時間がかかった。背後から聞こえてきたその声は、耳自体にはそりゃあすぐに入っていたけど、俺の中を吹き抜けていったというか、一旦いらない情報だと切って捨ててしまっていた。
それを、頑張って引き戻す作業に追われる。
人間を、と前置きすることから、亜人――というより広義的には魔人――への問いな可能性が高い。いや、猟師同士の会話ならそれもギリ成立するか? 「熊狩って来たわーっべーわ」→「マジかぱねーな」→「もう色々狩り尽してっからなオレサマは~」→「ところでお前、間違えて人間をやっちまったことはあるのか」……って嫌な会話だなオイ。そしてまずありえないだろ。どんだけ局地的な会話だよ。
俺に対しての言葉だと考えた方が自然ってもんだ。
上半身で振り返ると、目つきの悪い男と視線がぶつかる。
――ああ、いいねェ、こういうの相手なら目を反らす必要もねェわな。
目で殺す。……やめよう、相手を刺激してどうする。
見れば、栗色の短髪の小男は、その手にカードを数枚持っている。「おいおい」と諌めるようにその向こう、同じテーブルにいる大柄な男がぼやいた。そっちはよく見る水色の髪。いつの間にかそのテーブルには“もさもさコートのカードゲーム無双金髪マン”もいた。そいつは別に俺に話しかけた栗色と仲良しという訳では無いのか、場の空気の流れを掴むのがやっとという様子だ。「このテーブルに来なきゃよかった……」とか思ってそう。
「……人間を。……やっちまったことはあるのか?」
俺の睨みを受けても怯みもせず、改めて同じ問いをするその男の真意が見えた時、俺は思わずぶるりと震えた。
こういう話を書いてたから、ヒガサが人気になったのは当たり前だったなぁ。私も気に入ってるし。